錯綜3-3-④:和と浩太の過去の接点
「え、あ、うん。そうだけど?」
浩太は少し戸惑ったような顔をしながらも頷く。
「それって……和と一緒のチームだったの?」
「なんで深見さんがサッカーやってたこと、知ってるの?」
浩太が少し不思議そうに聞き返してくる。確かに今の和からは、そんなスポーツ少女の面影は感じられない。でもその質問で、浩太が和の過去を知っているのは確かだと分かった。
「あ、えっと……和から聞いたの」
「深見さんが? 自分で?」
浩太は眉をひそめて首を傾げる。
「本当に?」
その反応は、“和が自分の口でそんな話をするとは思えない”という色を帯びていた。つまり、和にとって“その頃”の記憶は語りたくないものだということだ。そして浩太は、それが何故なのか知っている。
「同じチームだったの?」
「いや、それは違うよ」
「浩太は、なんでサッカーやめちゃったの?和と一緒にやめたの?」
寧々の問いに、浩太は視線を外す。
「それも……違うけど」
「本当に深見さんが自分の口でサッカーやってたって言ったの?」
今度は朝陽が寧々に質問してきた。
「そうだけど、なにか変?」
寧々は朝陽に向き直って問い返す。
「じゃあ浩太がサッカーをやめた理由も、深見さんから聞いてるんじゃないかと思って」
「教えてくれなかった」
寧々の返事に、朝陽と浩太は顔を見合わせた。浩太がサッカーを辞めたことにも、何か、特別な理由があるということだろうか。
「なら、そんな風に詮索するのは良くないと思うよ。深見さんが自分から話さなかったってことは、きっと理由があるんだ。」
「朝陽も、知ってるのね……?」
浩太も朝陽も、和の過去を知っている。それはきっと全てではないだろうけど。和だけじゃない。そしてきっと浩太にも、人には話せないことがある。みんな、何科を抱えている。
「でも、そうだね。詮索はよくないよね。……ごめん。気になると、すぐに聞いちゃうんだ。悪い癖だってわかってるのに。それで、昨日、和と大喧嘩しちゃったのにさ」
「大喧嘩?深見さんと?」
そっちの方が意外だったのか、二人とも顔を見合わせる。
「うん……」
「ああ、それで今日は深見さんと、全然口きいてなかったのか」
と、朝陽が納得したように頷く。
「そういうこと……」
寧々が両手のひらを上に向けて肩をすくめると、朝陽は小さく笑った。
「でも、珍しいね。あの深見さんが怒るなんて。一体何を言ったの?」
「だって、和ってば、いつも暗い顔して、“人生の不幸全部背負ってます”みたいなオーラ出してるから、つい……。世の中、和だけが不幸じゃないのよって。この世にはもっと悲惨な人、たくさんいるんだからって。」
「……それ、言ったの?」
と、今度は浩太が半ば呆れたように声を漏らす。
「まあ、そのまんまじゃないけど。そんな感じのこと。だって、和が先に私のこと、“無神経”だなんて言うから、つい……」
「それは当たらずとも遠からずだよな」
朝陽が妙に納得したように呟く。
「何よ、それ!」
「まあ、それが紫園さんのいいところでもあるけど」
「それって、一応ほめてるの?」
「もちろん。俺は基本、女性は褒めるべき存在だと思ってる」
朝陽は得意げに腰に手を当てる。
「だから朝陽はモテるんだね」
「俺?全然モテないよ、残念ながら。譲原先輩にも、柏木先輩にも振り向いてもらえなかったし」
「誰、それ?」
「今年の春に卒業した先輩たち。譲原先輩は生徒会長で、才色兼備ってやつ。柏木先輩は、守ってあげたくなるような可愛いタイプでさ」
「好きだったの?」
「好きっていうのはちょっと恐れ多いって言うか」
「何、それ」
「特に譲原先輩は全校生徒の憧れ、みたいな感じだったし」
「ふーん……会ったことないから分かんないや。あ、でも、うちのマンションにこの学校の卒業生住んでるよ。一回エントランスで会ったとき、私の制服見て『明星の子?』って聞かれた。最上階に住んでるんだって。最上階はワンフロア全部になるからお金持、ってことだね」
「へぇ~、誰?」
「えっと……名前、何て言ってたかな。ちょっと変わった雰囲気で、妹連れてた。えーっと、あ、そうだ。確か“吉岡”って言ってた。」
「吉岡先輩?」
浩太と朝陽が同時に驚いた声を上げる。
「なに?有名人?」
「あ、いや、彼もうちの学校卒業生。……まあ、かなり目立ってた。変わってるから」
「変わってる?」
「うん。話し出すと止まらないタイプ。こだわり強いし、浩太も学園祭で捕まって、延々と語られたことあったよな。」
「へえ……確かに、ちょっと変わった人だったかも。エレベーター待ってる時に、“帰国子女”って言ったら、『エレベーターを発明したのは誰か知ってる?』とか唐突に聞かれて……」
「エレベーターの発明者……?」
「そんなの知らないよね?ってかそんなこと考える?」
寧々の言葉に、浩太も朝陽も首を振る。
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