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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第三章 陰影(いんえい)

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陰影2-4-⑤:交差する過去ー運命という仮説

「あ、そうそう。偶然といえば、他にもあったのよ」

「何?」

「あの子、花音ちゃんのことを知っていたの」

「花音ちゃんって……三芳梗子の娘の、依智伽ちゃんのこと?どうして?」

「お父さんの同級生の娘だって言っていたわ。花音ちゃんが養女だということは知らなかったみたいだから、あえて何も言わなかったけれど。さすがに驚いたわ。まさかそこで名前が出てくるなんて思わなかったもの」


桃香は目を丸くして頷く。


「それは驚くでしょうね。そんなところで繋がるなんて予想もしないわ。私だったら頭の中がこんがらがってしまいそう」

「本当よ。話を聞きながら、どこまでが偶然で、どこからが必然なのか分からなくなったわ」


桃香は腕を組み、ゆっくりと言葉を選ぶ。


「三芳梗子の娘と、山下岳の娘かもしれない子が顔見知り。しかも、その三芳梗子の娘の養母は山下岳の元妻でしょう。本人たちは何も知らないとはいえ……人の縁って巡るものなのね。運命と呼ぶには大袈裟かもしれないけれど、本当に人ってどこで繋がっているか分からないわね」


鳴海も同じ思いだった。偶然という言葉で片づけるには、あまりにも出来過ぎている。桃香は半ば冗談めかして言う。


「そこに岡野の娘でもいたら、ちょっと不謹慎だけど、役者が揃ったって感じよね」

「岡野さんの娘って、別れた奥さんとの子?」

「そう。今は高校生のはず、確か高校二年生だったかしら」


鳴海は記憶をたどる。


「二年生……ということは、浩太君や寧々ちゃんと同じ歳ね」


その瞬間、二人ははっとして顔を見合わせた。今まで点だった情報が、一本の線になりかける。


「まさか、その子も同じ高校、明星にいたりして」

「さすがにそこまでの偶然はないかと」

「そうよね、まさか、だよね」


殆ど同時に声が重なる。二人は小さく首を横に振った。それでも、ここまで偶然が重なっている現実を前にすると、完全に否定することもできない。あり得ないと笑い飛ばすには、糸はあまりにも複雑に絡み合っていた。


 鳴海は胸の奥に生まれたざわめきを押さえ込む。もし本当に、全てがどこかで繋がっているのだとしたら――その行き着く先に待つものは何なのか。まだ見えぬ糸の先を思い、鳴海は静かに息を整えた。


「その子、何て名前だったかしら……」


桃香が独り言のように呟く。その声には、単なる好奇心とは違う、何かを確かめずにはいられないような焦りに近いものが見受けられた。


「母親が亡くなったあと、叔母夫婦に引き取られたはずよね。私、ちょっと調べてみる」

「調べるって……」


鳴海は思わず口を挟む。偶然が続いているとはいえ、そこまで重なるだろうかという理性が働いていた。桃香は小さく肩をすくめる。


「私もまさかと思うわ。でも、もしそうだったら……何かに引き寄せられているみたいじゃない?運命とか。少し非科学的だけど」

「その運命と、あの二人、山下岳と三芳梗子が殺されたことに関係があるとでも?」


言葉にした瞬間、鳴海は胸の奥がさらにざわついた。あの子たちが事件に関わっているなど、考えたくもない、というかあり得ない。そんなはずはないと否定したい気持ちが強くある。それでも、点在しているはずの出来事が一か所に集まっているような感覚があり、不気味さを拭い去ることができなかった。


「そこまでは分からないわ」


と桃香は静かに答える。


「でも、何かの糸口になるかもしれないでしょう」

「糸口……」


鳴海はその言葉を反芻する。漠然とした不安が、形を持ち始めるような気がした。


「仮に岡野の娘がそこにいたとしても、事件とは無関係かもしれない。ていうか事件と結びつけることの方が無理がある。それでもね、興味深いのよ。こんな言い方を本人たちが聞いたら不快かもしれないけれど、何らかの重い過去を抱えた子たちが、同じ場所に集まっている。まるで何かに引き寄せられるかのように。気にならない方がおかしいでしょ?」

「それは、まあ……」

「本人たちの意思とは関係なく、結果としてそこに集まったのだとしたら……それはある意味で必然だったのかもしれない、なんて言ったら、それもまた非現実的だけどね」

お読みいただきありがとうございます。

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