陰影2-3-⑩:重なる少女のイメージ
「どんなって言われても……普通に優しそうな人だった。雰囲気が柔らかくて、全体的にふわっとした感じ」
「あ、そうそう。花音ちゃんのお母さんもそんな感じなの。じゃあ、やっぱり花音ちゃんじゃないのかな」
「どうして、そんなに気になるの?」
和が率直に問うと、寧々は少し考え込むように視線を落とした。
「何だか、ちょっと変わった子だったから。はきはきしていて可愛いんだけど、どこか子供らしくないところがあって……」
寧々は言葉を選ぶように一拍置き、続ける。
「それにね、その時私が話してもいないのに私の通ってる学校が明星だって当てたの。勘だって言ってたけど、あの時の子が花音ちゃんだったのなら、私のこともあの駅で前から見ていたのかなって思って」
その話を聞いていた朝陽が、横から口を挟んだ。
「その花音ちゃんって子は、紫園さんとどういう関係?」
「関係を問われるほどの知り合いじゃなけど。1度会っただけだしね。お父さんの大学時代の友達の子供で、前に家族ぐるみでうちに来たことがあるの」
「ああ、なるほど」
朝陽は腑に落ちたように頷く。
「じゃあ、深見さんはその子と、どうして話すようになったの?」
「どうしてって……駅で気分が悪くなったとき、向こうから声を掛けてきたの」
「へえ。じゃあ、優しい子なんだ」
「ああ……そうね」
言われてみたら確かにそうだ。気分悪そうな人間を見て、気になっても声をかけるのはなかなかできないものだ。ましてあの子はまだ子供。考えてみたら、普通は親を呼びに行ったりするのじゃないだろうか。でもあの時はそんな風に思わなかった。”変わった子“という印象の方が大きかった。
それに最初にあの時、和はそれどころではなかったからだ。山下岳に見つかってしまったという恐怖が、全身を締め付けていた。この先も付き纏われるのではないか、また同じことが起きるのではないか、誰かにあの出来事を話してしまうかもしれない。そんな不安ばかりが頭を占めていて、他のことを考える余裕もなかった。
まさか、その後まもなく岳が死ぬなど、想像すらしていなかったのだから。
「そう言えば、その子、明星に憧れてるって言ってた。制服が格好良いって」
二度も言わられたから、その言葉の結構印象に残っていた。
「本当?じゃあ、やっぱり花音ちゃんかも」
寧々の声のトーンが少し上がる。
「花音ちゃんも、前に同じこと言ってたから」
「そうなの?なら、本当に同じ子かもしれないね」
「また会うかな」
寧々は首を傾げながら、どこか期待を滲ませた表情を浮かべる。
「その可能性は大いにあると思うよ。あの塾に通ってるなら、お互いあの駅は通り道なんだし」
朝陽はUFOキャッチャーの操作ボタンに目を落としたまま答える。
「深見さんも、既に何度か会ってるみたいだし。見掛けたらまた声掛けて来るんじゃない?」
朝陽の言葉に耳を傾けながらも、皆の視線が自然とゲーム機へ集まった。クレーンが景品に向かってアームを開き、一瞬持ち上げたかに見えたが、すぐに滑り落ちる。
「あー、失敗!」
朝陽が悔しそうに声を上げる。
「折角、みんなのおやつ取ろうと思ったのに。よし、もう一回だ」
「勿体無いわよ」
和が即座に制する。
「どうせ取れないように出来てるんだから」
「そんなことないって。取れたこと、何回かあるし」
「で、その時はいくら使ったの?」
「いくらって……」
朝陽は言葉に詰まり、苦笑いを浮かべた。
「絶対に買った方が安かったでしょ」
「それ言われると何も言えない。でもさ、こうやって取れたら戦利品みたいで楽しいじゃん。買ったのより美味しく感じるし」
「その気持ち、分かる!」
寧々が嬉しそうに同意し、ゲーム機の前へ歩み寄る。
「私もやってみよう。どれが取れそうかな」
中を覗き込みながら、真剣な表情で景品を選ぶ寧々を見て、和は小さくため息をついた。
「ちょっと、本当に勿体無いわよ。損するに決まってるんだから」
「深見さんは現実的だなあ」
朝陽は笑いながら肩をすくめる。
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