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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第三章 陰影(いんえい)

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陰影2-3-⑨:思いがけない顔合わせ

「何でって、紫園さんに誘われたからだけど。聞いてなかった?」


朝陽はそう言いながら、寧々の方を見る。


「……聞いてない」


和がボソッと呟くと、寧々はわざとらしい笑みを浮かべて応えた。


「あれ、言ってなかったっけ?まあ、いいじゃない。人数多い方が楽しいし」


寧々は悪びれる様子もなく、軽く肩をすくめる。


「そうだよね」


朝陽もあっさり同調した。


「ところで、和はどっちがいい?」

「どっちって?」

「今ね、三人で何を観るか相談してたの。トランスフォーマーかハリーポッターで迷ってて」


突然振られて、和は少し言葉に詰まる。映画を見に来ること自体が久しぶりで、内容がはっきりとは分からない。ただ、ハリーポッターは本を何冊か読んだことがあるから、僅かに親しみがある。


「私は……どっちでも」

「ええ~。和に決めてもらおうと思ってたのに」

「そんなこと言われても……」

「ああ、悩む!」


寧々がわざとらしく頭を抱える。


「じゃさ、上映時間が早い方にしない?」


朝陽がそう提案すると、


「あ、それいい!そうしよう。さすが朝陽!」

「さすがってほどじゃないけど」


頭を掻きながら、朝陽はまんざらでもなさそうに笑った。上映スケジュールを確認すると、トランスフォーマーの方が三十分ほど早く始まることが分かり、そちらに決まった。内心では少しだけ残念に思ったものの、その気持ちを表に出すことはなかった。それでも上映までまだ四十五分ほど時間があるということで、下の階にあるゲームセンターで時間を潰すことになった。


「私、一度来てみたかったんだ。日本のゲームセンター」


寧々は物珍しそうに辺りを見回し、目を輝かせている。


「来たことないの?」


朝陽が意外そうに聞く。


「うん。去年まで日本にいなかったし、帰ってきてからも、色々あって落ち着かなかったから」

「そういえば、紫園さんって帰国した時は別の高校だったんだよね。どうしてわざわざ転校してきたの?」


今度は浩太が尋ねた。その問いは、和自身も密かに抱いていた疑問だった。


「うーん、帰ってきた直後は深く考えてなかったし、日本の高校のこともよく分からなかったから。どこも同じようなものだと思ってたんだよね」

「前の学校で嫌なことがあったとか?」

「そういうわけじゃないよ。住んでいる場所の近くでいいかなって、軽い気持ちで選んだだけ。でも少し落ち着いてきたら、他にも選択肢があるんじゃないかって思って。それで調べてみたら、明星がいいなって思ったの」

「へえ……それで編入って、すごいよ。明星って編入ほとんどいないって聞くし、試験もかなり難しいって有名だよ。しかも、去年まで日本にいなかったのに」

「私、勉強が趣味だから」


寧々は少し誇らしげに胸を張る。その様子に、三人とも思わず苦笑した。


「そうは見えないけどね」


朝陽が冗談めかして言い、和も内心で同意する。ただ、寧々はいつもこうして軽やかに振る舞っているが、その裏に別の顔を隠しているのだろうと、最近になって感じるようになった。


 人はそれぞれ、自分を守る方法を持っている。和のように心を閉ざし、人と距離を取って生きる者もいれば、寧々のように明るさを纏い、本心を見せないようにする者もいる。そのどちらが正しいのか、あるいは楽なのか、和にはまだ分からない。


「ねえ、この間の子、あれから会った?」


寧々が、思い出したように和へ視線を向けて尋ねてきた。その声は何気ない調子だったが、どこか探るような響きも混じっている。


「この間の子って、駅前で会ってた女の子のこと?」


和が確認すると、寧々はすぐに頷いた。


「うん。何となく気になって。やっぱり花音ちゃんに似てた気がして」

「会うには会ったけど……」


和の返事に寧々は少し驚いた顔をして、寧々が身を乗り出す。


「え? 会ったの?」

「この前、デパートでばったり。お母さんと一緒だったよ」

「名前は聞いた?」

「聞かなかった。特に話もしなかったし、向こうも買い物の途中みたいだったから」

「どんなお母さんだった?」

お読みいただきありがとうございます。

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