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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第一章 錯綜(さくそう)
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錯綜1-4-⑤:殺人事件と不穏な笑み

その夜のことだった。

 夕飯を終え、風呂から上がってリビングに戻ると、テレビではニュースが流れていた。浩太は冷蔵庫から飲み物を取り出し、ソファに座っている父の頭越しに、なんとなく画面に目を向けた。


 誰かが殺されたという内容だった。特に珍しくもない。世の中は事件で溢れている。毎日のように、誰かが事故や事件で命を落としている。ニュースでは「身元不明の四十代くらいの男性」と報じられていた。


 そのとき、映像が切り替わった。近くの防犯カメラに偶然映っていたという男の姿が画面に映し出される。身元を知っている人がいないかと、探しているようだったが、それを見て浩太は思わず動きを止めた。


 (……見間違いか?)


 そう思いながらもう一度、注意深く映像を見直す。テレビでは同じ映像が繰り返し流れている。ふっと上を見上げたその男の顔――まちがいない、あの男だ。


 一昨日、和と話していた、あの男。


 (あいつが……殺された……?)


 和と関係があるとは思えないが、それでも、つい最近見たばかりの男が殺されたという事実に、動揺を隠せなかった。


 翌朝、学校で朝陽に会うと、やはり彼もそのニュースを見ていたようで、話題はすぐにそのことになった。


「昨日のニュース、見た?」

「うん。やっぱり、あのときの男だよな」

「俺もそう思った。殺されたって?」

「駅裏の路地で撲殺って言ってたよね。、昨日の未明に発見されたって警察が発表してた」

「まさか、深見さんが……」

「さすがにそれはないだろ。大人の男を、女の子が殴り殺すなんて」


浩太はすぐに否定したが本当は、ニュースを見たとき、浩太の脳裏にもふとそんな想像が頭をよぎった。


「……でも、気になるよな」

「うん、気になる」


そんな会話をしていると、和が登校してきた。朝陽はすぐに駆け寄る。


「おはよう、深見さん」

「おはよう」

「ねえ、昨日のニュース、見た?」

「ニュースって……何の?」


いつものように無表情に返す和。知らないのだろうか。


「ほら、この間、君に絡んでた男。殺されたんだよ、昨日のニュースで」

「ああ、それね」


どうやら和も知っていたようだ。


「……それが何?私には関係ないわ」

「だって、ついこの間、君と一緒にいたのに――」

「一緒にいたわけじゃない。ただ、絡まれてただけでしょ。変なこと言わないで!」


いつになく、和の口調が荒くなった。


「え……ご、ごめん。でも、」

「だから、知らない人だって言ったでしょ。そんな人、どこで死のうが私には関係ないし」


 そう言い捨てて、和は自分の席へと向かった。その気迫に押されて、朝陽は言葉を飲み込み、所在なげに戻ってくる。浩太はその肩越しに和の横顔を見た。


 (……え?)


その顔が、笑っているように見えた。ゾッとするような、氷のように冷たい笑み――なのに、どこか嬉々としている。浩太は慌てて目をこすり、もう一度見直す。すると和の表情は、もういつもの彼女に戻っていた。見間違いだったのだろうか?


「……急所突いたかな」


耳元で、朝陽がぽつりと呟いた。きっといつになく和が強い口調で言い返したことを言ってるのだろう。確かにあれは違和感だ。


 始業のチャイムが鳴る。二人は席に着いたが、浩太の脳裏には、さっきの和の“笑顔”が焼きついたままだった。あの場面で笑うなんて、おかしい。けれど、あの笑い方をどこかで見たような気がする。誰かの顔と、和の顔が重なるようで重ならない。それが誰だったのか、思い出せない。


 それきり、和とは事件について話すこともなく、期末試験が終わり、二学期も幕を閉じ、街はクリスマスムードに包まれていった。


 クリスマス・イブの日、浩太は朝陽の家に招かれていた。なぜか舞奈も一緒だった。舞奈は、咲琴が通っているカンフー教室に入りたがり、結局、浩太はそれを止める理由を見つけらず、父も反対しなかった。まさか「俺より強くなられたら困るから辞めろ」とも言えないので、今では咲琴とすっかり咲琴と良くなっている。


 舞奈は咲琴へのプレゼントを用意しているようだったが、浩太は特に何も準備していない。男同士でプレゼント交換なんて気持ち悪いから、やめようと朝陽が言った。浩太も、それには大賛成だった。


 祖父に持たされた土産を手に、舞奈と二人で家を出た。考えてみれば、兄妹ふたりで出かけるなんて、小学校以来かもしれない。なんとなく気恥ずかしかった。


「あ〜あ」


横で舞奈が、ため息をついた。


「なんだよ」

「なんでお兄ちゃんと二人で歩かなきゃいけないのかなって思って。こんなとこ友達に見られたら、最悪」


それはこっちの台詞だと、浩太は内心で毒づいた。


「お兄ちゃんが、朝陽くんみたいにカッコよかったら、まだマシなんだけどね」

「悪かったな」


 確かに朝陽は整った顔立ちをしている。あの素直さが、顔にもそのまま表れている感じだ。本人は気づいていないが、クラスの女子の中には、彼に好意を寄せている子も何人かいるようだった。浩太も何度か、「朝陽に彼女いるの?」と聞かれたことがある。気は多いくせに、朝陽は特定の相手を作ろうとはしていない。なんだかんだ言って、まだその気がないようだ。

お読みいただきありがとうございます。

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