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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第一章 錯綜(さくそう)
23/249

錯綜1-4-①:学園祭と和の母の死

      四.


 学園祭は盛況のうちに幕を閉じた。やはり高校の文化祭は中学とは雲泥の差がある。この学園が行事に特に力を入れていることもあって、規模も人の熱気も比較にならない。生徒も観覧に来た人々も、大いに盛り上がっていた。


 演劇では、教師も生徒と共に舞台に立つ。ただし教師が指導するのではなく、生徒の演出のもとキャスティングされる。教師といえども、その配役に異を唱えることは許されない。選ばれた役に従わなければならないのだ。もちろん、陰湿な題材は実行委員会によって却下されるため、不快になるような演目はないが、それでも普段は上品な先生が道化役を演じる場面などは、観客の目を引いた。


 上級生の芝居を見て、浩太は「あの先生がこんな役を?」と何度か驚かされたが、それもまた観る側にとっては楽しいサプライズであり、意外にも演じている教師たち自身も、それを楽しんでいるように見えた。これが、この学校ならではの“校風”というものなのだろうか。


 舞台演目は、キャスト、演出、構成、テーマといった要素ごとに点数がつけられ、総合点で優秀賞などが授与されるらしい。残念ながら浩太のクラスは、何の賞も得られなかった。演目自体が悪かったわけではないが、独創性に欠け、展開が読めてしまったという評価だった。下地となる話は周知のものだったが、そこにせめて一捻りあれば、もう少し印象は違ったかもしれない。要するに工夫が足りなかったということだ。


 そう言われて二年、三年の作品を思い出してみると、知っている話でも「あれ?」と思わされる場面がいくつもあった。一年生の演目は、どうしてもオーソドックスなものになりがちだ。きっと、評価を踏まえて二年生の時には思考を巡らせるようになるのだろう。担任が一言でもアドバイスをくれれば違ったかもしれないが、この学校は生徒の自主性を重んじる方針で、教師が口を挟むことは少ないらしい。


 何事も、経験して覚えるものだ。社会に出れば、そういうことは幾度となくある。常にアドバイスがもらえるとは限らないし、人は失敗を繰り返して成長するものだ。いつも誰かの助言で物事を進めてきた者は、自ら考える力を徐々に失っていく。つまり、挫折に弱い人間になってしまう。失敗を恐れていては、挑戦もできない。


「失敗を恐れるなかれ。失敗を経験することこそ、人が大きく成長する最大の機会である」──閉会の挨拶で、またしても校長がそんなことを言っていた。


「確かに社会にば、許されない失敗もあるかもしれない。だからこそ、それを見極める目を養い、小さな枠に収まらない自分を育てるために、高校生活があるのです」とも。


「高校なんてどこでも同じだろう」と思っていた浩太だったが、ここに来て良かったと、またしても思わされる。親子や兄妹でこの学校を選ぶ者が多い理由も、なんとなく理解できた。


 そして、学園祭に遊びに来た舞奈は、すっかりこの学校に進学する気になっている。偶然、同じく学園祭を訪れていた咲琴と出会い、すっかり意気投合したようだ。今度、咲琴に誘われてカンフー教室の体験に行くとも言っていた。もう、舞奈がカンフーを始めるのは、決まったようなものだろうと浩太は思った。


 和とはあれから特に個人的な話はしていない。昔サッカーをしていた頃のライバルだったとわかったものの、二人の関係性に大きな変化はなかった。浩太は「もう少し距離が縮まるのでは」と思ったが、彼女の態度は以前と変わらないままだった。


学園祭が終わって数日が経った頃、朝陽が不意に和のことを話し始めた。


「なあ、深見さんのお母さんのこと、ちょっと分かったんだ」

「分かったって……どういうこと?」

「学園祭の時、俺、出店やってたろ。隣の店の二年生が深見さんのこと覚えてたんだって。昔、近所に住んでたらしい。名前は違ってたらしいけどな。やっぱり、お前と同じで印象が随分変わってて、最初は気づかなかったって」

「それ、詳しく聞いたの?」

「うん。だって、客が来ない時間は暇だったしな」

「なんて言ってた?」


——人のプライベートに土足で踏み込むようで気が引けたが、どうしても気になって、聞かずにはいられなかった。


「自殺っていうのは、本当みたい。家の中で首を吊っていて、見つけたのは深見さん本人だったって」

「……マジで?」

「うん。学校の帰り道、パトカーとか救急車とかがいっぱい来てて、その中に、呆然とした顔で立ち尽くしてた深見さんの姿、今でも忘れられないって。その頃はショートカットで、結構ボーイッシュだったってさ。今みたいに地味な感じじゃなかったらしい」


——きっと、それが浩太の知っていた「和」なのだろう。


だが、そんな出来事があれば、人が変わってしまうのも無理はない。母親のあまりにも衝撃的な最期を、目の当たりにしたのだ。どれほどの痛みだったか、想像もつかない。

浩太たちは、幸いというべきか、母親の遺体は見ていない。だからこそ、「死んだ」と聞かされたときも、どこか現実味がなかったのだ。

お読みいただきありがとうございます。

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