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深層の滓(しんそうのおり)  作者: 麗 未生(うるう みお)
第二章 遠因(えんいん)
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遠因2-2-⑮:初めての夫との対話が呼び覚ます意識

「私も同じです。あんな形ではありましたが、毎晩いろんな話をしたり、一緒に出かけたり買い物に行ったり…。それはそれで楽しかった。このまま穏やかに年を取っていくのも悪くない生活だと、何度も思いました」

「でも、あんな風に思い切ったことをするまでには、色々苦悩があったのでしょうね。さすがに驚きましたが」

「正直、自分でも驚いていました。私にあんな行動力があったなんて」

「愛のなせる業、というところですか?」


寛子がそう言うと、亘之は苦笑した。でもその笑みには陰りがなかった。


「寛子さんは、その後ご結婚を?」

「……一度しました。でも結局は戻ってきました。吉之助さんのように、自分の意思で歩んだわけではありませんでしたから」

「そうでしたか…。それも、きっと私のせいですね」

「それは吉之助さんのせいじゃありません」

「いいえ。そもそも、私があなたとの縁談を断っていれば、あなたは初めからもっと良縁に恵まれていたはずです。全ては私の身勝手のせいなんです」

「吉之助さんのそういう優しいところ、私、嫌いではありませんでした。身勝手だとは思てますが、誠実でもあると感じてます。矛盾してますが……今は少し羨ましいくらいです。私もこれからは、自分の意思で歩いていきたいと思います」

「人生はまだまだ長い。寛子さんの人生も、これからです。心から、お幸せを願っています」

「ありがとうございます。今日はこうして会えてよかった」

「ええ、私もです。ここで寛子さんに会えるとは。いえ、もしかしたらとは少し思っていたんです。この辺りがご実家の近くだと知っていましたから。ただ、私が訪ねて行ける立場ではないし。近くにいても偶然出会える可能性なんて、ほとんどないだろうと思っていました」

「でも、こうやって会えちゃいましたね。ちょうど仕事の帰りだったんです」

「仕事?」

「あ、ええ。この先のスーパーでレジをしています」

「スーパー?あなたが?」

「変ですか?」

「あ、いや…何となく、あなたのイメージに合わない気がして」

「家族にも“私にできるはずない”なんて散々言われました。でも、もう一年続けています」

「そうでしたか…。寛子さんも、ちゃんと自分の足で歩き始めているじゃないですか。安心しました」


吉之助は、どこかホッとしたような顔を見せ、そのまま軽い足取りで去っていった。彼は、もしかすると何度かこの辺を歩いて、いつか寛子に出会えないかと探していたのかもしれない。いつか謝りたい、そんな思いを抱きながら。何となく、そんな気がした。


 その背中を見送りながら、寛子の胸の奥にあった重い塊がふっと消えていくのを感じた。正直、彼のことを思い出すことは滅多になかった。けれど、心のどこかでずっと引っかかっていたのだ。こうして再会し、普通に言葉を交わせたことで、自分の過去にひとつのケジメをつけられたように思えた。


(私も吉之助さんのように、自分の意思をはっきり言って生きていきたい)


そんな思いを胸に抱いたその時、不意に背後から声を掛けられる。


「今の誰?」


振り返ると、宜之が立っていた。


「宜君…」

「今の人、誰?ずいぶん親しそうに話していたけど」

「見ていたの?」

「通りがかりに寛ちゃんの姿が見えてさ。なんだか真剣に話してるみたいだったから、気になって」

「今のは……最初の夫よ」

「最初のって、あの……?」

「ええ」

「何だって、今頃。まさか寛ちゃんとよりを戻したいとか?」

「あるわけないでしょ。だって、彼は……言ったでしょう」

「じゃあ、なんで」

「偶然よ。でも、あの人も、それなりに私のことを気にしてくれていたみたい」

「何を今更…」


宜之は腹立たしそうに、吉之助が去っていった方角を睨む。


「あの人もきっと色んな思いを抱えて、苦しんだのだと思うわ」

「あんな奴に同情する必要なんてないよ。寛ちゃんの気持ちを踏みにじったんだから」

「気持ち、と言っても……」


寛子はふと、吉之助と一緒にいた頃を思い返した。あの時、寛子はどんな気持ちでいたのだろう。確かに複雑ではあった。世間的には妻と呼ばれながら、実質的には違う立場。だが、そのことに深く苦悩していたかと問われれば、そうでもなかった気もする。

お読みいただきありがとうございます。

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