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第2話「王都の裏側と、猫の影」


ギルドの仕事にも少しずつ慣れてきた。

配達の仕分け、物資の整理、伝票の整合性チェック……やっていることは違っても、基本は「管理」だ。俺にとっては馴染みのある業務だった。


「加藤くん、今日が初めての休みだな。ゆっくりしてきな!」


頭の寂しいギルドのおじさん――今では俺の直属の上司みたいな存在だ――がニコニコしながら言ってきた。


(さて……異世界で初めての休日か)


食堂で朝飯を済ませた俺は、ふらっと王都の街を散策することにした。


中央の商業区は賑わっていて、通りには魔道具の屋台や冒険者向けの装備を売る露店が立ち並ぶ。人間ばかりで、獣人の姿はほとんど見かけなかった。


先日ギルドのおじさんにこの世界の獣人について聞いた。


「加藤くん、昔から獣人は純粋な私たち人間とは違くて、異物人間といわれているんだ。だからスラム街には気をつけなよ。」


なんてことを言っていたがギルドのおじさんは不満そうに話していた。


「……偏ってんな、この世界」


そう思いつつ、路地を抜けるうちに、いつの間にか街の空気が変わっていた。


建物は古くなり、地面の石畳も割れて雑草が生えている。店は閉まり、通る人の服装もどこか擦り切れていた。


(これ、完全に……スラム街か)


そして、その一角には、はっきりとした“境界線”があった。

そこを越えた瞬間、獣人の姿が増え、代わりに人間の姿はぱったりと消えた。


大人の目は鋭く、子供たちは壁の影からこちらを見ている。

まるで「入ってくるな」と言われているようだった。


けれど俺は、引き返す気になれなかった。



(見なきゃいけない気がする。俺が、ここに来た意味を)


そう思って歩き出した次の瞬間――


スッ


「……!?」


何かが、俺の懐に素早く手を入れて、サッと走り去っていった。

見えたのは、金色の髪としっぽ。そして鋭く尖った猫耳。


(……盗られた。財布だ)


「ちょ、待てっ……!」


気づいた頃には、猫耳の小さな影はすでに裏路地へと駆けていた。

俺は咄嗟に走り出す。舗装されてない石道に足を取られながらも、なんとか距離を詰めていく。


やがて、瓦礫に囲まれた袋小路に追い詰めた。


小柄な体。破れたフード。鋭く光る目だけが、じっと俺を睨んでいる。


「……返せ。それ、俺の5日働いた金だ」


声をかけても、猫耳の少女は無言のままじっと見てくる。敵意というより、警戒。いや……それ以上に、“あきらめ”のような表情だった。


少女は、そっと腰をかがめ、石を握る。


(……ああ、これ以上追い詰めたら、戦うつもりなんだ)


俺は、ゆっくりと手を挙げて見せた。


「……やめとけ。俺は戦えない。けど……お前が困ってるのはわかった」


見たところ身体には生傷が少しあり、やせ細っている。

これはもう諦めるか。


「……それで飯でも食えよ」


何も言わず、何も返されなかった。

ただ、少女は俺の顔を一瞬だけ見て――すぐにその場から姿を消した。



夕方、ギルドに戻ると、おじさんが笑顔で迎えてくれた。


「おー、おかえり!どうだった?王都の見物は」


「……まぁ、色々と勉強になりました」


俺はそれだけ言って、風呂に入り、簡単な食事を済ませて部屋に戻った。

疲れていたのに、なぜか眠れない夜だった。



一方、その頃。


スラムの片隅、薄暗い小屋の中。


猫耳の少女は、開いた小銭袋の中身をじっと見つめていた。


「……」


彼女は無言のまま、袋を抱きしめるようにして、そっと目を閉じた。


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