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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

神ならぬ日に生贄を捧ぐ

作者: やゆよ
掲載日:2025/11/20


「違うんだよなぁ、ヘタクソ。今回もやらかしやがったなぁ。抵抗され過ぎの血の出過ぎ、部屋乱し過ぎの汚し過ぎ、こんな仕事っぷりでプロ名乗って許されると思ってんのか。食いっぱぐれても文句言えねえぞ、こンのヘッタクソ!!」


 師匠の罵倒が部屋に響き渡っていた。


 僕は正座して神妙な顔して馬耳東風。


「お前一人育てるのに幾らかかったと思ってんだ、このカスが!」


 借金取りに売られ、ここに来てから三年。毎日怒鳴られている。


 待遇も下僕か下働きがいいところだ。


 一緒に暮らしてはいるが、僕は師匠の名前も年も何にも知らない。


 師匠は師匠で。僕は「お前」。僕の名前って何だっけ。


 最近はネットで仕事の注文を受けている。師匠はネットが弱いから全て僕が引き受けてんだけど。


 人使いが荒い。リスクに対して給料安過ぎ。時給二千円って何だそれ。僕は親の借金のカタとしてここに来た。返しきれないのが分かってるから一生ここから出られないことも分かってるわけだが、この人とはそろそろ離れたい。


 師匠の僕に対するこの態度。世間一般ではパワハラっていうんだよね。仕事柄、労組なんて無縁で労働基準監督署にも行けないワケよ。


 つらい。


 師匠と僕の生業はーー、暗殺だ。





「何で女に生まれなかったのかね、この穀ツブシはッ」


 穀潰し。凡そ漢字で書くことはできないであろう、知性のない母親。


 振り返りたくない過去の上に立っている。


 師匠は俺に三食分の給料はくれるけど、やっぱりやさしくはないんだな。


 ハァ、って嘆いてばかりもいられないさ。


 ある日の依頼に謎の文言。


「憎い男にあなたの裁量で鉄槌を与えてやってください」

 

 依頼主も標的も書かれていなかった。アドレスを手繰ったが見事なまでに痕跡が消されていた。なるほど? プロがプロに依頼ってか。これは本腰入れないと。社長に報告すべき案件だ。


 しかしこれって、どうなんだ?


 僕にとって憎い男と言えば。


 ーーこの無能!


 社長兼師匠一択。他に知ってる人間もいないから。


 僕は肉体派じゃなくて頭脳派なの。僕の使い方間違ってるんだって。

 

 これは僕を試してる? 師匠をヤれって言ってる?


 大体師匠って何だよ。見て覚えろとか今時ないし。マニュアル作れよ。外では社長って呼べとかそれ以前に尊敬出来ないし。経理も身の回りの世話も全部僕がしてやってるのに自分は外で飲み屋の女の人とイチャイチャしてて穢らわしいし狡いし、偉そうなんだよ。


 師匠がやってることなんて許容して納得できることはひとつもない。


 やろっかなやっちゃおっかなどうしよっかなと悩んでたところ。


「どうしたんですか、それ」

「やられた」

 

 師匠の脇腹から滴り落ちる血を見て僕は焦った。酷い出血量だ。


「何してんスか、マジで」

「痛いぃ、痛いぃ」

「何でネコ先生のところに行かないでこっち来たんですか」


 モグリの医者、ネコ先生は同じビルの三階に住んでいるマッドサイエンティストだ。血と解剖が大好き。


「俺はもう死ぬ」

「……死んだら困ります。僕には金の管理ができない」

「じゃあ、これは何」


 師匠が持っている小瓶は僕が個人的に手に入れたモノ。ネコ先生から大枚叩いて買った痺れ薬。


「誰に使うつもりだったんだ。困る? 俺が死んで一番に喜ぶのはお前じゃないのか」

「ぐぬぬ」


 バレちゃあしょうがない。


「アンタにはもうついていけないって思ってたところだから」


 僕は師匠にトドメを刺した。


 僕は血みどろの師匠を置いて外に出た。


 ようやく解放された。あのハラスメント地獄から。これで自由だ。

 

 自由。


 何年振りだろう。


 

 

 何をすればいい。


 困った。何をすればいいか分からない。

 

 ふと横を見やる。喫茶店の窓に映る自分は何者でもなかった。


 自分を見ていた窓ガラスの横の窓ガラスは放射線状に割れていた。


 僕の目の前を横切る親子連れがいた。金髪碧眼で高く売れそうな年端もいかない少女と腹の突き出た鈍そうな父親。


 少女の直ぐ横に止まる黒塗りの車。扉が開いて腕がニョキっと伸びた。引っ張られる子供に余所見している父親は気付かない。


 僕はコートで動作を隠しながら、撃った。僕の小型拳銃は師匠の手製だ。ちなみに僕は目を瞑っていても対象に当てられる。


 タイヤがパンクして車体が平衡を保てなくなったがために運転手は右往左往、後ろに乗っていた奴といえば。


 隙を見せてしまい、体格の良い少女の父親に逆に車内から、しかも窓から引き摺り下ろされて一発殴られて路上に吹き飛ばされて派手に素っ転んだ。


 騒つく人々は二人を取り囲んで何をし始めたかと思えば司法の裁きを待たずに殴る蹴る。


 その後ろで英雄となった父親と思しき男を糾弾する男とその男を「パパ」と呼んで縋りつく少女。


 驚くほど無法地帯だった。


「どうだ?」


 声がして、後ろを振り向くと師匠が立っていた。


 怪我なんかしてるふうではなくて、大学教授みたいな知的な風采で。

 

「余興にしては物足りなかったか?」


 変装中の師匠に並ぶ。

 

 痛がってる腹を蹴ったぐらいじゃ不死身の師匠はヤれないよなと僕は苦笑した。


「それはこっちのセリフです。師匠、さっき俺が殺しませんでしたっけ」

「殺されるならお前がいいと思ったこともあったんだ」

「うわっ、有り得ないし」


 さてと僕はあのアドレスを特定し直さなきゃならない。


 あの文章の後ろに浮かんでいた、戻れの意味。サブリミナルなんて古い手を使ってきたな。

 

「お前の親はホントにバカだな。今度は何処にお前を売るつもりだったんだろうな」


 ここでは正気でいるのがキチガイなんだとさ。


「聞く必要はありません。すぐにお別れですからね」


 さて、お仕事の時間です。



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