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紅糸島の奇祭〜カースト底辺の俺を嫌って、イケメンに擦り寄る許嫁よ、さようなら!これから俺は、島の生き神様に贄として愛されひたすら甘々の日々を送ります〜  作者: 東音
第三章 少年は生き神様と遊ぶ

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閑話 友人から受け取ったもの

《真人の友人 桐生俊也視点》


「真人の奴、元気でやってんのかなぁ…。」


「トシちゃん、それ言うの今日5回目!」


 帰り道、頭の後ろに手を組んでポツリと呟くと、隣を歩いている一つ年下の許嫁で家が隣の渡良瀬わたらせきぬが、苦笑いして両サイドの短いツインテールをふるんと揺らした。


「きっと真人くんの事だから、元気にやっているよ。お祖母さんの菊婆が、社の取り締まり役なんだし、問題ないって!」


 そう言って、絹は俺を勇気づけるように、肩をポンと叩いた。


「トシちゃんがそんな顔してたら、逆に真人くんに心配されちゃうよ?ホラ、しゃっきりしなよ?」


「そうだな…。すまんな。絹…。ありがと。」

「いや〜、いいけどさぁ。」



 友人の真人が生き神様の贄に選ばれ、学校を去ってから、早2週間が過ぎた。


 許嫁だった香月さんは、その翌日から学校をずっと休んでいる。

 俺が見る限り、香月さんは真人とケンカばっかりしていて、とても仲のよい許嫁同士とは言えなかったが、こんな形での別れは流石にショックだったのだろう。


 イケメンの冬馬の話に寄れば、最後に学校に荷物を取りに来た時、真人は急に海を見たくなったと言って、トイレから外へ脱出したという事だ。


 思い付きで突拍子もない行動をするのは、実にあいつらしい。

 結局その後、菊婆に海辺で無事保護されたと聞いて、ホッとする気持ち半分と、そのまま逃げおおせてくれていればよかったのにという気持ち半分だった。


 冬馬は、責任を感じてかどうかは知らないが、その日早退して以来、香月さん同様学校を休んでいる。


 冬馬の許嫁の鹿島さんを初め、女子達はクラスの中心人物だった冬馬と香月さんが休んでいる事を心配して、クラスの空気全体が沈んでいるように思えた。


 せめて、真人と一回でも連絡が取れれば、少しは気分が晴れるのにと思いながら自宅に着いたところー。


「あれ?トシちゃん家に車停まってるね。お客さん?」

「え?」


 絹の言う通り、白いライトバンが家の前に停まっていた。車のフロントに社のマークがついていた。


 バン!


 俺達が注目する中車の中から出て来たのは、女性にしては大柄の白髪の老女だった…。


「「菊婆!!」」


 絹と二人して大声を上げたところ、菊婆が、こちらに気付き、手を振ってきた。


「おお、これは、俊也くん!すっかり大きくなって。許嫁の絹さんも娘さんらしくなって…。」


 驚いたように俺達を見遣って、目を細めた相菊婆に、息せき切って、俺は矢継ぎ早に質問をした。


「菊婆、真人は元気ですか?落ち込んでませんか?また、脱出とかやらかしてませんか?」


「俊也くん…。」

「トシちゃん…。」


 俺の必死な様子を、菊婆は目を丸くして、絹は心配そうに見詰めていた。


「俊也くん。真人の身を案じてくれてありがとうな…?真人はなんとか社のお屋敷で元気にやっておるよ?

 実は真人から俊也くんに届けたいものがあると言われて、それを渡しに来たのじゃ。」


 そう言い、菊婆は、小さなダンボールの箱を俺に手渡した。


「これは…?」


「家にあった真人のゲームの機器とソフトじゃ。もう自分は使う機会がないから、よかったら、俊也くんに使って欲しいそうじゃ…。」


「真人…。」


 俯き、涙目になった俺に、菊婆は更に厚紙の封筒を俺に差し出した。


「それから、これは真人の全財産だそうじゃ。もう自分は使う機会がないから、俊也くんに譲りたいと…。」

「ええっ?!」


 俺は驚きの声を上げ、反論してしまった。


「そんな馬鹿なっ!?ゲームは使わないから譲る事があってとしても、真人がお金を使わないから譲るなんて事あり得ないでしょうっ!!

 割り勘一円単位まで計算して、自販機で10円借りた時も容赦なく取り立ててくる奴ですよっ?あいつは…!!」

「お、おうっ。儂も珍しい事もあるものだとは思ったのじゃがな…。」


「ト、トシちゃん〜、言い過ぎだよ〜?」


 思わず、菊婆に詰め寄ってしまった俺を止めるように、絹が袖を指でツンツン引いてきた。


「最近あいつも心境の変化があったのか、以前よりは、面構えがマシになってな。」


「心境の変化…?」


「ああ。俊也くんにそれを渡して欲しいというのもその成長の表れではないかと思うのじゃ。

 せめてものあいつの好意じゃ。俊也くん。受け取ってやってはくれんかの?」


「ううっ。真人の奴…!分かり…ました…。」

「うっ…。ぐすっ…。」


 俺が菊婆から、涙を浮かべて神妙な顔でその封筒を受け取ると、絹も鼻をすすっていた。


         *

         *


 菊婆が、俺と絹に何度も手を振り、去って行った後ー。


 絹を連れ、家に入ると、玄関口でその封筒をあらためた。


「五万円…。真人、全財産少なすぎじゃないか?イテッ!」

「コラッ!そんな事言わないの!!人の好意を…!」


 思わずそんな感想を言うと、絹に額にゲンコツを当てられてしまった。


「好意だぁ?あいつにどんな心境の変化があろうが、そんな慈善事業するわけねーだろ!別の目的がどこかに書いてある筈だ。」


「へっ?だって、封筒の中にはお札しかないよ?お札に何か書いてあるとか?いや…、ないよ?」


 俺の言葉に絹はお札の表面を調べて首を捻っている。


「いや…。この封筒、下の方が厚みがあるだろ?ここをこうするとっ…!」


 ビリッ。


「えーっ!?」


 封筒の下の部分を丁寧に千切ると、封筒は二重構造になっており、封筒と封筒の間の隙間に小さな紙が入っていた。


「そんな構造になっていたの?!ビックリ!よく分かったね?」


 感心している絹に、俺はいたずらっぽい笑みを浮かべた。


「伝七郎もいるし、真人との間で、昔からこういう暗号ごっこよくやってたからな。」


「へーっ。厨二病もたまには役に立つんだね?」


「厨二病言うなし…。」


 渋い顔をした俺を急かすように、絹は俺の肩を揺らした。


「そ、それでそれで?秘密のメッセージはなんて書いてあるの?」


「うわ。揺らすなって。今開くから!」


 俺はゆっくりと二重構造の封筒に入っていたその小さなメモを広げていくと…。


 見慣れた汚い文字が目に飛び込んで来た。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


『トシ、久しぶり!俺がいなくても元気してっか?


 ションボリして、許嫁の渡良瀬さんに世話かけんじゃねーぞ?


 実は、お前にしか頼めない事をお願いしていいか?


 あっ。なお。この先は、渡良瀬さんにもお願いしたい事が書いてあるので、彼女と一緒に読んでくれ。』


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「何言ってんだ。真人め。絹に世話かけてんのは、てめーじゃねーか。」


「アハハッ!真人くん相変わらず面白いねっ?」


 俺が文句を言うと、絹は軽やかな笑い声を上げた。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


『実はな、社でお世話になっている女の人がいて、その人にサプライズでプレゼントをしたいんだが、女の人の好むものがよく分からん上に、屋敷から出られない俺は買いに行く事ができない。


 すまないんだが、渡良瀬さんに頼んで、俺の代わりに、服でも、小物でも若い女の人が好むものを買いに行ってもらえないか?』


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 俺と絹は急いで目を見交わした。


「!!あの真人が、女の人にプレゼントしたい…だと?」


「きゃーっ。恋バナの匂い!これ、絶対好きな人だよ!!」

「マジか?社で世話になったっていうと、スタッフの人か誰かかな?」

「分かんないけど、手紙に書いてないかな?」


 俺達は、手紙の続きを読み急いだ。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


 余ったお金は、渡良瀬さんとのデートの軍資金に使ってくれや。


 ケチの俺がお前に自分のお金を使っていいなんて言うわけないとか、後で使った分返してくれとかうるさく行ってくるんじゃとか思うかもしれないが、俺だって一生に一度の頼みをする時ぐらい奮発するさ。


 そこは信じてくれ!』


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「自分が俺にどう思われてるか、よく分かってんじゃねーか…。」


「ふっ、くくくっ…!」


 半目で零す俺に、絹が声を殺して笑っている。


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


『プレゼントが用意出来たら、伝七郎を社のお屋敷の2階、一番左端の部屋に向かわせて知らせてくれ。

 どうにかして、社の境内には取りに行けるようにする。


 言うまでもないが、菊婆や他の人には絶対秘密な?


 では、よろしく頼む。


 あと、服を買いに行く場合の為に、その女の人のサイズを以下に書いているが、これは絶対渡良瀬さんだけで読んでくれ。トシ、絶対見んなよ?』


 ✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽✽


「あっ。ここは私だけで読まなきゃいけないんだね。」

「なんだよ。真人の奴…。付箋なんか貼りやがって…。」


 文章の下にサイズについて、書かれた部分に付箋があり見えないようになっていた。


 絹は手紙を手に取り、俺に見えないように、付箋を捲っていたが…。


「はっ?!爆にゅっ…?え、ウエストほっそ!ふええマジでぇっ?!///」


「な、なんだよ。絹。そんなに驚くようなサイズだったのか?俺にも見せてくれよ?」


 付箋をめくる度に大声を上げる絹の反応に気になって、手紙を覗き込もうとすると、絹は慌てて付箋の辺りを手で押えた。


「うわあっ…!こんなのトシちゃん見たら、絶対ダメェ!!」

「な、なんだよぉ…?俺だけ除け者にしやがって…。」


「はーっ。衝撃的だった。真人くんの好きな人、すっごいんだね…。」


 文句を言う俺に構わず、絹は、赤い顔で自分の何かを確認しながらふーっとため息をついていた。


 一体どんなサイズだったというんだろう?気になるじゃねーか…。


「あ、まだ手紙続いてるから読むね?『渡良瀬さんにサイズを確認してもらって、数字を暗記してもらったら、この手紙を陽の光の当たるところに置いてくれ。秘密保持の為、自動的に火が付き処分されることになるだろう。』???そんな事できるの?」


「ミッション◯ンポッシブルみたいだな…。まぁ、いつもの奴の冗談かもしれないけど、一応やってみっか…。」


 庭に出て、庭石の上に手紙を置き、しばらくすると…。


 ポウッ!!ゴォォッ!


「「!!!」」


 火が点り、あっという間に手紙は灰になるのを、俺達は瞬きもせず見守った。


「す、すげー!ホントに燃えた…。」

「ど、どういう仕組みなんだろ?」


 俺と絹は、目の前の出来事に呆然と顔を見合わせた。


「ま、まぁ…。日の光に当てると発火する薬品を塗っているとか、何か仕掛けがあるんだろうけど、驚いたな…。」

「うん。真人くんの厨二病、進化してるね…。」


「ま、まぁいい…。ふはは!真人。俺なんかにミッションを託すとは、馬鹿な奴め。絹!今からこの金で豪遊してパーっと使い切ってやろうぜ?」


 気を取り直して、悪い顔でそう提案する俺に、絹は嬉しそうに頷いた。


「うんっ!そうだね!そして、豪遊するついでにミッションもしっかり遂行しちゃうんだね?

 トシちゃん元気になってよかった!じゃ、私、着替えてくるねっっ。」

「おうよっ!」


 隣の自分の家に着替えに戻る絹を見送り、俺も、家に戻ろうとした時…。


『ったく、友人も厨二病とは、厄介じゃの…。

 真人め。こんな事の為に、精霊を無駄遣いしおって…!』


「!?」


 微かに誰かが囁くような声がしたような気がして、後ろを振り返ってみると、そこには誰もいなくて、ただ、庭の草の葉が揺れているだけだった…。

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