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紅糸島の奇祭〜カースト底辺の俺を嫌って、イケメンに擦り寄る許嫁よ、さようなら!これから俺は、島の生き神様に贄として愛されひたすら甘々の日々を送ります〜  作者: 東音
第三章 少年は生き神様と遊ぶ

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精霊達との確執


「うげっ…。キーにナー…!今のは、やっぱりお前達の仕業だったのか…。」


「お前の様子が心配な生き神様のご命令で、様子を見に来てみれば、起きた途端に元許嫁の娘と密会しておるではないか…。これは、生き神様にご報告しなければと様子を伺っておると…。」


「お前ときたら、復縁をしたいという元許嫁の娘の気持ちにはとんと気付かず、挙げ句に生き神様への想いを語り出し、敵に情報を提供しようとする始末…!」


 憤懣やるかたないといった様子で迫ってくる双子の精霊達に俺は慌てて謝った。


「そ、それは、悪かった。軽はずみだったよ。けど、茜は口は悪いけど、何の力もない奴だぜ?そんな敵っていう程でも…。」


 そう言いかけた俺に双子達を呆れたようなため息をついた。


「「ハァッ。お前、恋に狂う女がどれ程恐ろしいか知らんのだな…。」」


「明人の元許嫁だった女がその後どうなったか知っているか…?」

「え?い、いや、先代の贄=神山秋人については、市長の第三男だったという事は知ってるけど、元許嫁の人の情報はさっぱり…。」


 キーの問いに、俺がそう答えると、ナーが厳かな表情で告げた。


「明人が贄に選ばれ、許嫁を解消したその1年後ー。元許嫁の女は、海に身を投げて自殺したのだ。」


「…!!」


「娘の部屋に『自分の事をずっと覚えていて欲しい』と明人宛ての手紙があったらしい。もはや、呪いと言ってもいい程の女の情念ではないか…。」


「あ、茜も…そうなるっていうのか…?」


 先代贄の元許嫁の壮絶な最後に茜を重ね合わせ、震えながら俺が問うと、キーとナーは、二人揃って首を振った。


「いや、あの娘は自殺するようなタマではないだろう。」

「ああ。寧ろ、お前を取り返そうと、生き神様に敵対してくる可能性がある。あの娘一人ならともかく、社に敵対する他の勢力と組まれたら厄介だ。」


「茜が…。そんな…。」


「お前が実質的にあの娘とどんな関係だったかは知らんが、社に贄として入った以上、優先すべきは、生き神様ただお一人だと言う事を肝に銘じて置くのだな…。」


「それはもちろん、分かってるよ!俺は誰よりもあかりを大事に思っている。」


「「真人ちょうしのよいおとこよ。それが、口だけにならない事を祈っているよ…。」」


 そして、双子の精霊は言いたい事だけを言って、空に舞い上がって行き、去ろうとするところを引き留めた。


「あっ。待ってくれ!キーとナーに言いたい事があるんだ。」


「「なんだ?」」


「あの…。儀式の時は、卑怯な手を使って、お前達を封じてしまって本当に申し訳なかった。俺に対する当たりが強かったのも、生き神様であるあかりを守りたい一心でやった事だと、今なら分かる。

 謝ってすむことじゃないけど、本当に申し訳なかった!」


 怪訝な顔をする精霊達に、俺は思い切り頭を下げた。


「また、面妖な事を…。」

「葛城真人、頭を上げよ…。」


「…!」

 穏やかなキーとナーの声に一瞬許されたのかと頭を上げると…。


 彼らは、眉間に皺を寄せ、理解出来ないものを見つめる表情で俺を見ていた。


人間おまえたちのその、謝るという行為だが、一体何の意味があるというのだ?」


「え?そ、そりゃ、自分の行動や考えが間違っていた事を認めて、できれば、許してもらって、関係を良好に出来ないか、相手にお願いする事…じゃないか?」


 感情というものをまるで映していない、キーの白銀の瞳に、基本的な事を問われ、面くらいながらも、俺は恐る恐るそう答えた。


「それこそ無意味…!我らは、その件については、生き神様より、お前に手出し無用と申し付けられておる。心配せずとも、その件についてお前が不利益をもたらされることはない。」


 ナーの方は赤い瞳に僅かに怒りの色を含ませて、突き放すようにそう言い捨てた。


「け、けど、今は、俺も生き神様であるあかりを心から守りたいと思っている。キーとナーとは、志を同じくするもの同士、表面上の関係だけでなく、わだかまりをなくして、理解して協力し合えるんじゃないか…?」


 取り付く島もない精霊達に、俺が縋るように主張すると、キーとナーは蔑むような目で俺を見た。


「ハッ。生き神様をお守りしたいだと?

 我らと同じレベルで、生き神様をお守りできると思っているなら、笑止!」

「全くだ。保身の為、贄の役目からさえ逃げ出そうとしていた奴が、偉そうに何を言うか…!」


「う、うぐっ!それは、ぐうの音もないぐらい、その通りだったが…!でも、今は違う!」


 精霊達に厳しい追求を受け、俺は怯んだが、儀式の後、母を悼んで慟哭していたあかり姿を思い出し、ここは引けないと、反論した。


「俺は、生き神様であるあかりの過酷な運命を…、あの子の涙を知ってしまった。

 なかった事にはできない。親の命と引き換えに神の力を得るなんて、悲し過ぎるじゃねーか!

 あかりが命を縮めてまで神の力を使わなくてすむ方法はないのか?

 できる事なら、俺は、あの子を救ってやりたい!!」


 俺が拳を握り、決然と言い放った言葉は、双子の精霊達の表情を少しも揺らす事ができなかった。


「真人よ。それを我々が今まで何百年もの間、一度も考えなかったと思うか…?」

「そして、歴代の生き神様が、その贄に当たる者達が一度も考えなかったとでも思うか…?」


「…!!」


 キーとナーは静かに、嘆息した。


「我らとて、出来る事ならば、生き神様を救って差し上げたい。しかし、神の力を授かった時点で、生き神様は普通の人間として生きる道を既に断たれておるのだ。」


「生命力を生きとし生けるものに分け与える事の出来る生き神様のお力は、実体のない神様として祭り上げられている現状だからこと、行使できるもの。

 もし、これがあのようにお美しい女性の姿で力を奮われている事が知られたらどうだ?

 権力者は、自身の欲望を満たすに、生き神様を得ようと、奪い合うやもしれぬ。あるいは、神の力を分析する為に怪しげな研究所に囚われるやもしれぬ。

 どちらにしろ、生き神様にとって今以上に不幸な状況になる事に間違いないだろう…。」


「そ、それは……。」



「我らも、歴代の贄達、生き神様を知る数少ないスタッフ、皆が何百年も考えた結果、結局、生き神様を社の奥深くに世間から隔離し、お隠しする以外に、お守りする方法がなかったのだ…。」


「生き神様のお力を行使しなければ、この島の柔い地盤は数年持たずに、崩壊し、海に沈むであろう。

 生き神様が心身を犠牲にして、島を守り続けているにも関わらず、島民は島から出れない、寿命が70までなのは、生き神様の呪いだと、好き勝手に噂をする人間どものなんと多い事か…。」


「…!」

 キーとナーの言葉に、そんな身勝手な考えをしていた人間の一人であった俺は苦々しい思いで唇を噛み締めた。


「我々はそんな人間の自分勝手さ、醜さを長年嫌という程見続けて、もういい加減うんざりしておるのだ。

 いざというときは、この島の人間達がどうなろうと、生き神様を近くの無人島にお連れして、そこでひっそりと暮らしても構わぬとさえ思っている。」


「…!!」


真人おまえに頼めることがあるとすれば、その時、流石に止めに入るであろう、スタッフの足止めをする事ぐらいではないかの?」


「お、俺は…!」


 躊躇う俺を見透かすように、キーとナーは声を揃えて言った。


「「出来ぬであろう?我々と理解し合えるなどと、容易く口にせぬ事だな?真人にんげん?」」


「キー…。ナー…。」


 双子の精霊は、小馬鹿にするようにそう言うと、空高く舞い上がり、姿を消した。


 いつもは、バカだのアホだの俺の資質に関して罵詈雑言をぶつけてくる彼らだったが、今回は、人間として丸ごと切り捨てられた気がする。


 精霊達と人間の間に深く大きな溝がある事を痛感せずにはいられなかった。



          ❇

          ❇


「ふぅむ。それで、お前は、生き神様をお救いする道を模索するのも、精霊達と分かり合う事も諦めるというんだな…?」


「いや、諦めるとまでは言ってないけど…。ただ、難しいんじゃないか…とは…。」


 面白くなさそうな顔の神山明人に問われ、俺は顰めっ面で俯いた。


 あの後、社の屋敷に戻った俺を出迎えたのは先代贄である神山明人で、余程暗い顔をしていたらしい、俺は、彼に共用スペースのテーブル席に連れて行かれ、洗いざらい吐かされてしまったのだった。


「歴代の贄達が、長い時間かけても、救えなかった生き神様を俺がどうこうするなんて、出来るとは思えないし、精霊達のように、島の人間が全員死んでも構わないなんて、俺にはとても思えない。

 そしたら、もう手詰まりじゃねーか。」


「ふむ。真人よ。確かに私も含め、歴代の贄が生き神様の犠牲を目にしながらも、現状を変えられなかったのは事実。

 歴代の贄の中にはお前より、遥かに賢い奴もら行動力もある奴がいたであろうにも関わらずだ。」


 神山明人の言葉に俺は力なく頷いた。そう説明する彼こそ、自分よりは遥かに強く、賢く、行動力もある事は明白で、でも、そんな彼であっても、どうする事ができなかったのだ。

 自分に何が出来るのかと絶望したくもなるというものだ。


「精霊達と人間とは従うべきことわりも何もかも大きく違うからな。彼らの言う無茶な方法もあるにはあるが、生き神様の同意は得られないだろう。」


 更に頷く俺。


 島の人間を全員犠牲にしてでも、逃げて、自分だけ生き残りたいなどとは、人一倍優しく責任感の強いあかりなら決して言わないだろう。


「ここまでの状況を鑑みて、無理だと判断するのは、ある意味、賢い常識のある大人なら当然といえような…。

 だが、島のことわりを全て反故にし、儀式を台無しにしようとしたお前が、今更もっともらしく、常識を語るなど、つまらんし、気持ちが悪いわ!」


「は、はあ?」


 え?今、俺、めちゃめちゃディスられてる?!

 俺が呆気にとられていると、目の前の麗しい長髪の男は、顔を顰めて更に続けた。


「愚かな子供なら、それなりに、がむしゃらに足掻いてみてこそ、見えてくるものもあるというもの。

 まずは、お前の全てを持って、生き神様を満たして差し上げよ!」


「い、いや、そんな事言われても…。」


 お前、バカなんだからとにかく頑張れと無茶振りされ、俺は目をパチクリさせるばかりだった。


「何か良策が見つかったなら、私から、儀式前にお前と生き神様の会合の場を設けてやってもよいと思っておる。」


「えっ!あかりに会えるの?いやいや、でも、儀式以外に、個人的な感情で会う事は出来ないって、この間言われたばかりで…。」


 神山明人の申し出に、一瞬あかりに会えるかもしれない期待に胸を膨らませたが、すごい剣幕で怒られた事を思い出し、再び俺はシュンとした。


「それは、話の持っていき方によるだろうな。まぁ、そこは任しておけ…。」


 ウインクをして、自分の頭をコンコンと叩く神山明人は、いかにも有能そうで、俺の出来ない事を易々と実現してくれそうな頼もしさがあった。


「…!!あかりに会える…!!よっしゃあ!✧✧」


 そうと決まると現金なもので、先行きの不安や、運命の事はひとまず置いといて、

 想い人に会える喜びに俺はガッツポーズをとり、この前、儀式の後犯してしまった失態をなんとか取り返そうと、心に誓うのであった。



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