贄 葛城真人の選択
「今からでも、贄として、私と儀式に臨んでもらえないかしら…?」
「え…。」
目の前の生き神様=四条灯は、痛いほどに真剣な表情で俺を見詰めていた…。
「で、でも、もう俺にはそんな資格っ…。儀式だって、メチャメチャにしてしまったし…。」
項垂れる俺の手を白く柔らかい手が握った。
「大丈夫。さっきの事はごく限られた関係者と当事者しか知らない事。
黒いパーカーの人の動きは気になるけれど、今すぐ島の人達が口を出してくるような事はないでしょう。
それに、儀式に関しての最終的な決定権は生き神である私にあります。儀式が終わった後で反対してくる人がいたとしても、撥ね退ける事ができるわ。」
「対外的にはなかった事にしてくれるって事か…?でも、君は本当にそれでいいのか?
君にあんなひどい言動をした俺と、このままずっと…あんな内容の儀式を…!」
先代の贄である神山明人からも改めて教えられた儀式の内容を思い浮かべ、俺は言葉を詰まらせた。
儀式の内容は男女の交わりを通して、高めた気を島全体に放出し、島全体を守る事。
そして、最終的には子作りを…。
思わず目の前の黒髪の超美少女の胸の膨らみや、腰回りを見てしまい、目を逸らした。
だ、ダメだ。どこを見てるんだ。俺!
「真人。私の望みはただ一つ。一刻も早く、祭りの儀式を執り行い、生き神としての役割を果たしたい。ただそれだけなの。」
四条灯は切実な目で俺に訴えかけた。
儀式さえできたら、もう、贄がどんな人物であれ構わないって事か?
「もちろん、強制ではないわ。真人に断られた場合は、もう一人の候補に当たってみる。引き受けてもらえたら、また清めの時間があるから、儀式が一週間が延期になってしまうけれどそれは仕方ないわね。
真人は、外の世界に戻りたいなら、私が責任を持ってバックアップする。許嫁さんとも復縁できるよう紹介状を書くわ。だから、安心して?」
「え。そ、それは、ちょっと…。」
俺はしかめっ面の茜の姿を思い出し、げんなりしてしまった。
そんな俺を見て、神山明人はニヤリと笑ってそれに付け足した。
「ふっ。まぁ、世間体もあるし、外の世界に戻るのが嫌なら、社でスタッフとして働くという手もある。」
「そいつはいい。最高だ!」
「スタッフとして思う存分こき使ってやる!」
その意見にキーとナーが嬉しそうな声をあげる。
更に神山明人は続けた。
「新しい贄の世話係となってもらうってのもよいかもしれないな。」
「え…。」
新しい贄…、つまり、他の男が社に入り、
四条灯と儀式の為に体を重ねるという事…。
そして、そいつの世話係として社で働くという事は、四条灯とそいつが睦み合い、子を成す過程をじっと見守らなければならないという事…。
俺の胸は錐で突かれたように鋭く痛んだ。
何だろう…?
許嫁だった茜が、他の男と許嫁になるのは、寧ろ望ましい事として受け止められたのに、今会ったばかりの目の前の少女が儀式としてでも、他の男とっ…て考えただけでどうしてこんなに辛い気持ちになるんだろう?
「まぁ、なんにせよ、どちらにせよ、断ったとしてもひどい目に遭うことはないから安心しろ?
生き神様が欲されているのは思い遣りの言葉などではない。是か否かその言葉のみ。
その答えにどのような気持ちや欲望が込められていたとしても構わぬ。
お前が断るなら、社はすぐ候補者に働きかけねばならん。
どちらでもよいからお前の意思で選べ。」
「そうね。真人が選んでちょうだい。私はどちらでも受け止めるわ。」
四条灯は、覚悟を決めたように、俺の手の上に重ねていた手を離し、自分の膝にのせてこちらの答えを待った。
暖かい手の温もりが失われ、人生の岐路を選択しなければならない時がやって来た。
四条灯は穏やかな笑顔で、神山明人は涼し気な表情で、俺の様子を見守り、
キーとナーは、こちらを威嚇するような表情で、「「(こ・と・わ・れ)」」と小声で呟いている。
「お、俺は…。」
躊躇いながら、俺は四条灯の顔を見た。
「俺は……。」
儚げに微笑む生き神の少女に、俺はゆっくりと自分の答えを告げた…。
*あとがき*
新年あけましておめでとうございます。
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「紅糸島」第二章全8話をこれから毎日投稿していきたいと思いますので、よければお正月のお供にして下さると嬉しいです。
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