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お茶会

 招待を受けている令嬢を見渡せば、このお茶会の意図を深く感じさせる。何故(なぜ)なら招待客全てがラルカの元婚約者であり、ラルカ主体だというのに令息の招待客が一人もいなかった。

 本来お茶会は女性の社交場だが、王子や王家が主催するお茶会であれば、通常男女関係なく招待される。この場合のお茶会は、夜会に出席できない年齢の子女を交流させる意味があるからだ。

 そのため一人も令息がいないこのお茶会に、ラルカが一人主催するとなれば、ラルカの側妃や愛妾を選ぶ場であると明確に示したことになる。

(……けれど、わたくしにも元々お茶会の招待状は用意してあったということは、わざわざ見せつけるために呼ぶおつもりだったのかしら……)

 現在ラルカが懇意にしている令嬢は、このお茶会に招待されている令嬢たちよりも爵位は低く、また噂によると平民から養女となったようだ。優秀な平民を養子にとることはよくあることで、ヴァイオレットもそのこと自体はあまり気にしていない。

 王命で決められた婚約であるため強くラルカに執着しているわけではなく、けれどヴァイオレットを婚約者から(はず)したいのであれば(ほか)のやりようがあっただろうと、後手(ごて)に回っているからこそ腹立たしかった。

 しばらく歓談していると中庭の入口が騒がしくなり、主催者であるラルカが訪れたのだと知れる。視線だけ向ければラルカの腕にべったりと張りついている令嬢の姿があった。

「よく来てくれた。おれの名前で招待しているが、今回の主催者はこの、ミラ レスティヒノ嬢が(つと)めてくれている」

「ミラ レスティヒノですぅ〜、皆さま仲良くしてくださいねぇ〜」

 紹介され前に出たミラは礼すらとらず、ただにっこりと微笑む。招待状からある程度予測していたとはいえ、貴族として爵位も名乗らず、ラルカの腕にべったりと再び張りつくミラに皆が唖然としていた。

 誰一人マナーとして返事をすることのない状況に、ヴァイオレットは我に返り、ラルカたちの前へ進み出る。

「この(たび)はご招待いただきありがとうございます」

 礼儀(カーテシ―)でラルカに返すヴァイオレットを見た令嬢たちは、そこで我に返ったらしく、追従するように礼をとった。

「ヴァイオレット、何故(なぜ)おまえがいる」

「王妃さまより、招待状をいただきまして」

 (こた)えはあるが、礼を崩していい許可は()りず、叩頭(こうとう)したまま返す。敢えてマデラインの名を出せば、ラルカはそれ以上何も言わず「パーティーを楽しむがいい」と中庭を歩いていった。

「ラルカさまぁ〜、歩くの早いですぅ〜」

「あぁ、すまない。見たくもない者がいたものだから」

「そうなんですかぁ〜? 嫌いなら嫌いでいいと思いますぅ〜」

 出席の返事をしたにも関わらず、ヴァイオレットが出席していることを知らなかったらしいラルカに呆れながら、ヴァイオレットは身を起こす。

 周りの令嬢たちもヴァイオレットに合わせるように礼を戻し、二人の世界を作りつつあるラルカとミラの背中を見送っていた。

 仮にもお茶会だということで、誰かと歓談するのかとラルカを見ていたが、ミラを張りつけたまま軽食を食べさせあったり飲み物を回し飲みしたりしていて、誰一人として声をかけることができずにいる。

 何度かヴァイオレットが助け船を出すように「皆さまともお話ししてはいかがですか」や「マナーは守らないと皆さま困りますわ」などと声をかけたものの、ラルカは一瞥するだけで、ミラに至っては勝ち誇ったような笑顔を向けてくるだけだった。

(……深く穿(うが)ちすぎたかしら?……)

 令嬢の誰もがラルカの側妃や愛妾を狙ってこのお茶会の招待を受けたはずなのに、ヴァイオレット以外誰も話しかけずにいる。これまでもが週を明ければ噂となるのだろうと考えれば気が滅入るが、ヴァイオレットはもう気にしないことにした。


 最終的に丸テーブルでの立食は誰も手をつけず、そのことを不満に思ったミラがそれを口に出し、ラルカがそれに同調したことで主催者が不在となり、よく解らないままお茶会が終わったのだった。

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