表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

前哨戦…?

 帰宅するマデラインを見送って、家令から招待状を受け取ったヴァイオレットに「困ったら声をかけなさい」とウォーレンは(こた)えを待たずに去っていった。

 もしかしたらヴァイオレットが帰宅するまでの間に、マデラインと何か話し合いをしたのかもしれない。それがこの招待状に繋がっていて、ヴァイオレットで対処できない、もしくはしたくないのであれば、頼っても良いということなのだろう。

 また招待状を確認して驚いたのは、そのお茶会が今週末に開催されるということだ。現在週の半ば、お茶会当日まで二日程しかない。

 ラルカ主体だとマデラインは話していたが、ラルカや彼の側近が書いた招待状ではなかった。丸っこい字体は女性のようで、招待状自体に香水でも垂らしたのか、むわっとした匂いが広がっていく。

(……王妃さま直々に持ってこられたことも考えれば、恐らくこの招待状は殿下のところで出されずにいたのではないかしら?……)

 所々インクが(にじ)んでおり、作法以前の問題である招待状にはラルカの印章が押されていた。中身を確認して押したのか、確認せず押したのか不明だが、出すつもりは恐らくなかったのだろう。

 しかし招待状はマデラインによってヴァイオレットの手に渡ってしまった。

 招待するつもりのない相手が、手渡した覚えのない招待状を持って現れたら、どんな反応になるかなど想像に(かた)くない。

 けれど招待状を渡したことをマデラインが知っているため、欠席するには相当な理由が必要だ。招待されていなくても王城内で開催されるとなれば、マデラインは顔を出すことが許される立場である。

(……今後の参考にはなるかもしれませんね……)

 溜息を(こぼ)し、ヴァイオレットは招待状の返事を書いた。


 急ぎ用意したアフタヌーンドレスを身に(まと)い、ヴァイオレットは王城の中庭へと案内された。招待状に記載はなかったが、どうやらガーデンパーティーらしい。

 事前に招待客を調査する時間がなく、手土産は入口で預けておいたが、案内された中庭には椅子一つない立食の形がとられていた。

(……まぁ、これは……)

 軽食やデザートは幾つもの丸テーブルに置かれ、その一つ一つに給仕が配置されているが、丸テーブルもそれなりの大きさがあり給仕へ声が掛けづらい。またお茶会だというのに、飲み物を配る給仕の盆の上には冷たい飲み物しか載っていなかった。周囲を確認したが温かい飲み物は見当たらない。

 さらに言えば、ガーデンパーティーだとしても主催者が出迎えることはマナーの一つなのだが、ヴァイオレットが中庭の入口に案内されているのに主催者が来る様子すらなかった。案内してくれた使用人が申し訳なさそうにしているため、軽く礼をとって中庭へ足を踏み入れる。

 中庭といっても広さはあり、全容をすぐ確認できる広さではないが、それでもヴァイオレットは主催者であるラルカを見つけられなかった。

 代わりに招待客である令嬢たちから挨拶を受け、ヴァイオレットも招待客であることを明かし情報を得たところ、このお茶会の予定は一月(ひとつき)前には招待状が届けられたという。

(……どなたからも教えていただいていないということは、それだけわたくしに力がないということ……)

 仲良しこよしなど期待もしていないが、それでも公爵令嬢であり、ラルカの婚約者であるヴァイオレットに伝えないという選択をしたということは、つまりそういうことなのだ。

 貴族という社会は若くても、若くなくても、その社会で生き延びる力を持たなければ、貴族から爪弾きとなる。噂のことも考えてもヴァイオレットにはそれだけの力がないと判断されている、ということの証明であった。

 扇で口許(くちもと)を隠し、内心で苦笑する。

(……これだから、気が抜けないわ……)

 始まる前から力量を測られたヴァイオレットは、主催者が到着するまで情報収集するべく、令嬢たちを渡り歩いたのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ