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あら、まぁ…

 調査に乗り出したヴァイオレットだが、堂々としているラルカと令嬢のおかげで手はかからず、少し物足りなさを感じていた。

 近寄りすぎればヴァイオレットだと気づかれてしまうため、少し離れたところや、上階から眺めたりする程度だが、それでも常に二人は寄り添っている。人目を(はばか)らないどころか、二人でいることを見せつけているような印象だ。

 多くの目撃者がいるため証言は集められるが、相手の一人が王族であることを踏まえると、証言してもらえる可能性は低く、また相手方の証言に利用されそうでもある。

(……小説でもそうでしたけど、何故(なぜ)断罪までに婚約破棄しないのかしら……)

 制度や法律は国によって異なるが、クリペレアン帝国に限って言えば、王命に対し王族の正当性が認められれば、ラルカ側からの婚約破棄が可能だ。わざわざ噂を流す必要もない。

 そもそも相手の令嬢とは顔見知りどころか、接点すらない状態で、ヴァイオレットが悪役として噂されていた。小説のような展開を望んでいるとしても、少し雑すぎるのではないだろうか。

(……いえ、まず悪役となる者に期待を寄せすぎではなくて?……)

 一人の人生を狂わせてまで得る幸福とは何かしらとヴァイオレットは溜息を()いた。

 図書館の窓際に座り、そこから見える中庭で仲睦まじく過ごす二人を眺めながら、ヴァイオレットは視線を手元に戻す。ここ数日間の噂の記録をつけたノートには大したことは書かれず、二人の今後を探るとだけ書き込まれていた。

 代わり映えしないなと席を立ったヴァイオレットがふと中庭へ目を向けると、知らぬ間に移動していく二人の姿が見える。

 周囲も二人の行動には慣れてしまっているようで、何もなかったかのように過ごしているが、向かう先が(ひと)()のない学舎であることにヴァイオレットは気がついた。

(……これは……)

 直接(まみ)えることで噂を助長してはならないと、常に一定の距離を(たも)っていたヴァイオレットだが、それでは二人の真意に気づけない。

 しかし二人が向かう先であれば、人知れず二人の真意を知ることが可能だと気づいたヴァイオレットは、(はや)はやる気持ちを抑えながら図書館を(あと)にした。


 四大公爵家の令嬢としてヴァイオレットは目立つ存在であり、また噂によって存在感は増している。そのため誰かに尾行されることを懸念して、わざと遠回りな道を選んで学舎へ向かった。

 けれどヴァイオレットがあまり他人(ひと)と行動しないことが幸いし、無事一人で学舎へ辿り着く。

 学舎の中に入っていく二人の背中を追いながら、ヴァイオレットは学舎を囲む草木の中に身を隠した。こちらからは学舎の中を観察できるが、学舎の中からではヴァイオレットに気づかない絶妙な位置で、ヴァイオレットは二人を待つ。

(……制服が派手ではないことが幸いしましたわ……)

 しばらくして現れた二人は中庭よりも大胆に身を寄せ合い、観察しやすい窓際まで寄ってきた。これも隠しているようで、見られたい願望故なのかとヴァイオレットは半眼で眺める。

(……わたくし、男女の交際については小説でしか知らないですけど、実際見るとすごいのですね……)

 婚約者として妃教育は受けているが、まだ閨教育は受けておらず、ヴァイオレットは口づける二人を見て赤くなった。小説でも碓かに舌を絡ませる口づけのシーンは(えが)かれるが、こんなにも生々しいものだとはヴァイオレットは思わなかったのである。

 他人の情事を(のぞ)くなどはしたない行為だが、やはりヴァイオレットも思春期であり、そういったことには興味津々だった。

(……まぁッ、あんなにッ……)

 音は聞こえないが、それでも小説のようにぐちゅ…くちゅ…と激しく舌を絡ませている光景に、ヴァイオレットは観察することも忘れ、釘付けになる。

 ヴァイオレット ブラッドレイン、どんなに淑女教育を受けていようともまだ十三歳。

 ラルカの手が令嬢の胸を(まさぐ)り始めた辺りで耐えきれず、逃げ出してしまった。


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