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 ラルカとヴァイオレットの婚約から五年、十三歳となったヴァイオレットは学園へ入学した。

 婚約者となったラルカとの関係は、参加が義務づけられている王宮でのお茶会以外接点すらなく、進展も何もない状態である。

 王命であろうがせっかく婚約したのだからと、当初は歩み寄ろうとヴァイオレットも奮闘したものだが、婚約して一年()つ頃には諦め以外の感情をもてなかった。

 幼い頃のように暴力はないものの、無視は当たり前、たまに口を開いたら「いたのか」やら「寄るな」だとか侮蔑の視線と共に贈ってくる。賛辞が欲しいわけではないが、色々と自覚をもってほしいものだとヴァイオレットは内心で呆れていた。

 国王であれ、王妃であれ、王子であれ、常に影や監視官から王族として相応(ふさわ)しいか判断されているというのに、ラルカにはその自覚が芽生えない。

(……彼らにはお金も権力も通用しないもの……)

 不思議なことに影や監視官を輩出する一族は、金銭や権力に屈することなく、職務に忠実だ。時には王族を断罪することもできる権力を有しながらも、決して表の政治には関与しない。

 一体誰が彼らの(まと)め役で、どうしたら彼らを取り込めるのか、それは王族に近しい貴族であれば必ず疑問をもつ事象だった。

(……わたくしも昔調べようとして、お父さまに()められましたし……)

 以降、ヴァイオレットは影や監視官について調査することはせず、けれどラルカの婚約者として監視されていることを自覚して過ごしている。

 早くも入学から半年が()ち、ヴァイオレットは学園内の噂を耳にすることが多くなってきていた。

 やれあの令嬢とこの令息が付き合っているだの、やれあの教師は一定の貴族には評価が甘いだの、やれ平等を(うた)っているわりに不平等だの、やれ王子に近づく令嬢がいるだの――。

 敢えてヴァイオレットの耳に入るよう噂されているものもあるようだが、大抵はちょっとした(ひが)みからきているものだ。そのような些事(さじ)はヴァイオレットの興味を()かないが、王子がどちらかだけは確認しておくべきだろう。

 今年ヴァイオレットと同じく新入生として、第二王子が学園に入学しているからだ。

(……いくら平等とはいえ、王族の噂はそう簡単に流して良いものではないものね……)

 暗黙の了解というものである。また影や監視官が常に王族を見ているため、余計な手出しは不要だとも言えた。

 噂の出所までは追えなかったが、噂の中の王子がラルカであることはすぐ判明する。何より隠すつもりもないようで、学園のあちこちでラルカとその令嬢を見かけるからだ。

 この頃から噂の中にヴァイオレットが登場し始めていく。見知らぬ子女に「真実の愛を邪魔してる」だの「束縛が激しく王子を独占しようとしてる」だの、真実からほど遠い噂として流れていった。

 社交界であれば噂を上書きする必要性もあるが、ここは学園であり、暗黙の身分制度はあるものの、生徒は皆平等とされている。そんな中で権力を振りかざすように噂を上書きすれば、結果は目に見えていた。

(……さて、どうしたものかしら……)

 動くか、動かないか。

 ただヴァイオレットには影や監視官を動かす権限はなく、また彼らも学園内程度の噂では証人となることもないと断言できた。そのため動くとなれば、ヴァイオレット自身でということになる。

(……まずは二人がどうしたいか、からかしら……)

 思考を(まと)めたヴァイオレットは(みすか)ら調査に乗り出した。

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