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クリペレアン帝国

 クリペレアン帝国。

 世界で見れば小さな国だが、この大陸から見れば大きな国に当たる。ここ数百年は大きな(いくさ)もなく、他国との外交はあるものの、ほとんどが自国内で発展してきた国でもあった。

 国の北側は他大陸へ続く大海原があり、外交や貿易、他国からの侵略の砦となっている。この地を(おさ)めるラメールシー海洋伯一族は知略武力共に申し分ない能力を持ち、また領民の多くも優秀な者が多いと噂になるほどだ。

 南側は隣国と地続きとなっており、こちらも北側同様の扱いである。地続きとなっている分、侵略や盗賊などを受けやすく、武力だけ見れば国の騎士団や北側の軍事力よりも遥かに高く、それだけ危険の高い地だとされていた。

 砦を築くことなくこの南側を守り、(おさ)めているノトスユーク辺境伯一族もやはり知略には優れているのだろう。

 東西は(けわ)しい山々が深く広くあり、山々を切り開いて軍事進行すれば生態系の異変で気づかれるという、ある意味天然要塞があるおかげで南北よりは(おさ)める能力は必要なかった。

 もちろん領民がいる限り、(おさ)める能力が低いことは許されないが。

 そして、そんな彼らを(まと)め上げる王族は、国の中心部に王城を構えていた。王族が直接(おさ)める領地が王都であり、四大公爵、五大侯爵、六大伯爵が王城を守護するように領地を持っている。

 周辺国から貴族制度が失われつつある中、クリペレアン帝国が貴族制度を(たも)っているのは、この体制で数百年侵略を(ふせ)いでいるからだ。

 幾度か制度の改変を(こころ)みた歴史もあるのだが、上手(うま)く機能せず、長い年月をかけてゆっくり改変していく方向で現在まで引き継がれている。

 何より改変の一部として機能しなかった原因が王族の婚姻にあるらしく、現在も王族の婚姻に関しては慎重に定められていた。しかしそのおかげで男性優位の社会に女性が食い込むことになったというのだから、それは良かったのかもしれない。

(……女性というだけで政治に関われなかったり、貿易や外交に関われなかったりしてたんだもの。それが今は取り払われ、女性の能力も認められるようになったわ……)

 少しずつでは改変は()され、貴族制度の撤廃まではいかなくとも、爵位に関係なく協力し合う体制に変化しつつあった。男女も平等とまではいかないが差別から区別までに変化し、様々(さまざま)な部署で男女が働いている。

 しかし、それでも婚姻に関してはまだ政略結婚や爵位を見ての婚姻が多く、特に王族から伯爵にかけてはより顕著であった。

 現在、クリペレアン帝国には王子が二人。

 法律上、側妃を(めと)ることもできるが、国王と王妃の仲は良好のため、特に進言されず、やがてそれぞれの王子に婚約者を定めることになった。

 基本的に王子の婚約者は、四大公爵、五大侯爵、六大伯爵から年齢の近い令嬢が選ばれる。ヴァイオレットも王子と年齢は近かったが、現当主である父親が王弟であり、血統が近すぎると除外された。

 父親としても、国や家に縛られることは望まず、本人の自由に生きてほしいと願っていたため、特に反対しなかったという。

 婚約者候補の令嬢が多かったことも幸いし、ヴァイオレット以外の令嬢がそれぞれの王子と婚約することになった。

 順調に(すべ)り出したはずの婚約者選びは、第一王子の婚約者が定まらないことで、(つまず)くことになる。

 第一王子が五歳になった年から始まった婚約者選びが、五年()っても定まらなかった。いや、正しくは婚約者自体それぞれの爵位から選ばれ決定するのだが、すぐ破談となってしまう。

 原因は第一王子自身にあった。

 彼は何が気に入らないのか、婚約者となった令嬢に暴言を()いたり、叩いたり、ドレスをわざと汚したりと、婚約者の親がいようがいまいがお構いなしに、王子であることを笠に着せ振る舞う。

 さらには王子教育も受けず、傲岸不遜で、侍従や侍女の選定も困難を極めた。この状態で第二王子の婚約者や侍従、侍女を選定すれば反感を買ってしまうと、全てが宙に浮いた状態になってしまったのである。

 状況を報告された国王や王妃が第一王子へ注意を(うなが)しても、どこ吹く風といった態度を第一王子は崩さなかった。

 育て方を間違えたと王妃が(なげ)いていたようだが、第二王子は穏やかな性質で揉めることも少なかったというから、本人の性質の問題だろう。

 やがて第一王子に釣り合う令嬢はヴァイオレット一人となってしまっていた。

 血統の近さなどもう関係ないと、(あと)がないことを知っている国王は父親へ命じたが、父親は猛反対したらしい。いっそ他国から嫁入りさせるか、他国へ婿入りさせるかしてでも、第一王子の婚約者にはさせたくないと反対した父親に対し、国王は非情にも王命を(くだ)した。

 ヴァイオレットを第一王子の婚約者とする、と。

 大人たちのそんなやりとりを知らないヴァイオレットは第一王子に引き合わされ、やはり暴言や暴力を振るわれたが、王命によって婚約者となった以上辞退はできなかった。


 第一王子・ラルカ クリペレアン 十歳

 ブラッドレイン公爵令嬢・ヴァイオレット ブラッドレイン 八歳


 王命によって結ばれた婚約は、第一王子がどんな態度をとろうとも(くつがえ)らず、またヴァイオレットも王宮で王子妃教育が始まったが逃げることは許されず、共に仲を深めることなく現在まで婚約は続いていた。

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