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ヴァイオレット

 五年、それをたった五年と見るか、もう五年と見るか、人それぞれ違うだろう。

 ヴァイオレットにとってこの五年間はやっとだと感じるほど窮屈で、不自由で、理不尽だった。

 それでもヴァイオレットが何とか五年を過ごせていたのは、ウォーレンを始め家族と、幼馴染たちが傍で支えてくれていたからだと感謝している。

 大衆で流行した小説が世界各国で価値観を変化させ始めて数年、早い国では貴族制度や王制が撤廃し、民主主義が主流となっていた。けれども早急な変化は国を混乱させる一因ともなり、内乱が誘発されている国もあると聞く。

 クリペレアン帝国は他国の様子を収集し、ゆっくりと長期間で変化させていくことを選んだ。何よりクリペレアン帝国は四大公爵、五大侯爵、六大伯爵と(まも)りの(かなめ)が貴族制度に(もと)づいている。

 また海洋伯や辺境伯といった他国への牽制ともなる砦も貴族制度の一部で、それらをどういった形で変化させていくのか、下地を作ることの大切さを王族は知っていた。

 そういった変化を受け入れる中で、王族の婚約は変化後に揉める要因を少なくするための布石でもあり、協力を得るための契約でもある。

 特に王族やその婚約者となる子女は変化していく中、王族としてそれらを背負って生きなければならず、教育の中で変化させていく内容や年月を教え込まれ、(はや)ることのないよう厳命されていた。

 民主主義が悪いというわけではなく、王制や貴族制度によって国としての形を(たも)っているため、早急の変化は受け入れられないのである。クリペレアン帝国の軍事力が周辺国よりも高いため余計な火種を生まないためでもあった。

 けれどそれらに納得できず、周辺国に(なら)うべきだと、国王は第一子でも第二子でも変わらないだろうと、好き勝手行動している第一王子ラルカに同意する者も増えている。若い世代はそれが顕著で、ラルカが婚約破棄を続ける中、政略結婚など古い考えだと広まっていっていた。

 婚約もラルカが誠意をもって相手方に話を通していれば問題とならなかったが、ラルカがとった手段は暴言や暴力、物品の破壊など攻撃的なものばかり。そのせいで王家に協力的だった貴族も離れていったりと、変化させていく流れが()まってしまっていた。

 恐らく王家はこの段階でラルカ以上の思想をもった人間が王族に現れたら厄介だと、変化を受け入れる準備が崩れてしまうことを(いと)い、王命を発するに至ったのだろう。

 王弟であるウォーレンを父にもつヴァイオレットであれば、この状況を理解し、将来のクリペレアン帝国のため動けると判断して。

 揉めに揉めて婚約者となったからにはヴァイオレットも意地があった。王家の全てを受け入れることはなく、それでいて王家の思い(えが)く令嬢となり、ラルカと共に歩む将来を見据え、生涯を終える。ヴァイオレットは幼いながら妃として自覚をもっていた。

 相手がラルカでなければそれらは正しく叶えられただろう。ラルカは成長してもやはり変わらず、子爵令嬢と恋に堕ち、ヴァイオレットを悪役令嬢として祭り上げるほど(おろ)かになっていた。

 ヒーローとヒロインは悪役令嬢を犠牲に恋を(じょう)(じゅ)させる。物語りと同じことをラルカはヴァイオレットに求めていた。

 長い年月をかけ変化させようとしているクリペレアン帝国の王族を否定するように、物語りと同じように行動すれば変化は受け入れられると信じて。

 勃発した攻防戦は恋の(じょう)(じゅ)が終戦で、犠牲はヴァイオレットただ一人、それ以上もそれ以下も必要なかった。

 十三歳のヴァイオレットができることなど限られているが、それでも求められているのならと、多少揺らぎつつも、態度で示してきたつもりである。

(……まだ――まだですのよ、殿下……)

 もう五年、我慢する必要はなくなったのだと、ヴァイオレットは嬉しくなった。

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