物語りのように
緊張を強いられる対面は終わり、ヴァイオレットはほっと息を吐く。フェルトやフェリアはまだ表情も感情も読めるが、セルジオは見せないようにすることが非常に上手く、意図的に隠されてしまうと読み取ることは困難だ。
(……及第点といったところかしら……)
三人共ヴァイオレットを可愛がってくれているのは理解できる。むしろ過保護なのではと思うほど、フェルトやフェリアなどロイターを差し置いてくれているし、セルジオも家族よりもヴァイオレット優先だ。
今回譲ってもらえたことにより、ヴァイオレットは三人の――どちらかと言えばセルジオの――満足できる解決策を提示しなければならない。
(……こういう時の判定は厳しいですから、わたくし、のんびりしている場合ではないですわ……)
もう何度目かになる決意が揺るがないうちに、求められている『悪役令嬢』となるよう、ヴァイオレットは邁進するしかなかった。この状況を招いてしまったのは、ある意味ヴァイオレットのせいでもある。
【・ヒロインは健気で守ってあげたいと思わせる女の子。平民から貴族の養女になることが多い
・ヒロインは貴族の常識に疎く、悪役令嬢が指摘指導をすることが多い→それがイジメになる
・ヒーローは貴族らしくないヒロインを好きになる→悪役令嬢が婚約者であり不仲
・ヒーローとヒーローの仲間とヒロインが仲良くなる
・ヒーローとヒロインの仲の良さに悪役令嬢が嫉妬して、ヒーローに近づきすぎないよう忠告したり、ヒロインにも同じように忠告する
・嫉妬が過ぎて、ヒロインにいやがらせをする
・過激になるとヒロインを襲撃し、女の子として辱めようとする
・卒業式や大きなパーティーで断罪される
・断罪後は大体国外追放か修道院送り→時々死罪も有り得る】
流行の小説を思い出しながら書き連ねてみるが、結末は断罪というのは変わらず、断罪後から時が戻る型も多いけれど、そんな未来が確定しているわけではないため除外した。
断罪後から時が戻るという型は希望ではなく、ただの夢でしかない。
筋書きを描くと豪語したからには、断罪までの結末をどう活かし、悪役令嬢となるのかが大切だ。国外追放か修道院か、その結末だけは少し変えてしまいたいが、難しいだろうか。
(……学園生活も楽しみたいですし、追放や修道院では通えなくなってしまいますもの。断罪されても学園に残れるようにしなくては……)
友人と呼べる存在はいないけれど、平民貴族関係なく過ごせる学園は、将来のことを考えればすごく貴重な時間だと思っていた。成人してしまえば、平民貴族の線引きは厳しくなり、商売でもしてない限り直接的に関わる機会はほぼなくなってしまう。
何の型にも囚われず過ごせる学園は、ヴァイオレットにとって息抜きの時間でもあった。現在は息抜きの暇もなく、また型に囚われつつある生徒も増えているため、少し残念ではある。
(……さぁ、ヴァイオレット。腹を括りなさい!!……)
内心で叱咤激励しながら、ヴァイオレットは笑った。
貴族の嗜みとして、無表情、笑顔は必須である。共通することは感情を読み取らせないことだ。
一週間もしないうちに「ヴァイオレットがミラへ宣戦布告した」だの「ラルカの目を盗んでミラに厳しく当たっている」だの、噂が広がっていく。
重ねるように「ミラの私物が破損したり盗まれたりした」だとか「ラルカがヴァイオレットからミラとの付き合いを反対された」だとか、噂が流れていった。