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ダメなものはダメですわ

「どういうことだい、ヴィオ」

 普段であればフェルトの落ち着いた声色は安心できるものだが、この日に至っては珍しく苛立ちが混ざっている。火急の用だと呼び出されてすぐ「邪魔をしないでくださいませ」とヴァイオレットに釘を刺されたからだ。

 一人掛けのソファにそれぞれ座る、残りの二人からも(いぶか)しげな表情が向けられている。

「ですから、ロイターまでお使いになってまで、学園内のことに関わらないでくださいませ」

 扇で表情を隠すこともなく、貴族独特の言い回しをするでもなく、直接的に告げたヴァイオレットはそれぞれから視線を浴びた。それは批難するものではなく、どういうことだと問うような、心配しているんだと伝えるような、少し強い視線。

 しかしヴァイオレットはそれぞれの視線から逃れようとせず、ただ真っ直ぐに向き合い、意志を見せた。

「そうは言うが、ヴィオ。きみは全く悪くないというのに、入学より前からきみの悪評が噂されてたんだろう?」

 ほんのり眉尻を()げるフェリアからの問いかけに「それはそれ、これはこれ、なのですわ」と笑いかける。

 実際噂が流れ始めて対処するまでに半年以上()ち、ヴァイオレット自身対処しようと決めたのは最近のことだ。けれど恐らく三人はヴァイオレットよりも情報収集し、対処は各々(おのおの)が取るつもりで動いているのだろう。

 だからこそ、ロイターに忠告を持たせたのだ。

「いやいや、きみは王命でアレと婚約してるんだ。王命を引っ張り出した張本人が撤回を求めるでなく、きみの瑕疵(かし)でなかったことにしようとしている汚さについては問い詰めてもかまわないだろ?」

 忠告を聞くつもりはないヴァイオレットに少し焦ったようにフェルトは提案する。三人にとってヴァイオレットは(いま)だお(てん)()な妹のままで、庇護する対象なのだろう。

「いいえ、王命を受け入れたのは我が公爵家であり、わたくしです」

 強く、きっぱりと、ヴァイオレットは断った。

 いつまでも庇護される幼いヴァイオレットはいないのだと知らしめるように。

「つまり、ヴィ、きみはこれを許すと?」

 表情をすっかり落とし、表情を読めなくしたセルジオからの詰問に、ゆっくりとヴァイオレットは首を横に振り「許す、許さない、それ自体を決めるのもわたくしだけです」と答えた。

 そもそも学園内での噂を、学園外から操作する必要はない。ましてや学園内のいざこざは学園内で解決するよう教師も求めているし、生徒たちも学園内だからと割り切っているからだ。

「なら、おれたちが好き勝手するのも、おれたちの勝手で、ヴィがとやかく言うことじゃないな?」

 射貫くような視線で関与するなと告げるセルジオに、それこそこちらの台詞(せりふ)だとヴァイオレットは言い返す。

「わたくしが――わたくしだけが、この問題に対処する資格がありますの。皆さまが参加される理由は解りませんけれど、わたくしは許可致しませんわ」

 相談程度はしても許されるかもと考えていたヴァイオレットだが、それを噯気(おくび)にも出さず、笑みすら崩さなかった。

 虚勢が見破られていたとしても、ヴァイオレット自身で立ち向かいたいのだと伝えるために。

「ヴィオ、悪役ってどういうことか、解っているのかい?」

「相手は一人ではないんだよ?」

 フェルト、フェリアからそれぞれ心配だと言葉をかけられたヴァイオレットは「そうですね、理解はしているつもりですわ」と眉尻を()げた。

 ここからどう挽回していくか、ヴァイオレットの策略が(はま)るか、ヴァイオレットが()められるか、それはまだ少し読めない。

 困ったような笑みを浮かべながらも、それでも手を出さないでとお願いするヴァイオレットにフェルトやフェリアは頷いた。

 ちらりと視線を向けたセルジオはまだ沈黙を(つらぬ)いている。

「筋書きを書くのはわたくしです」

 誘導してみせますと宣言すれば、セルジオの目が見開かれた。ヴァイオレットがそこまで強く考えているとは、セルジオも思っていなかったのかもしれない。

「面白い。そこまで言うなら見せてもらおうか」

 交渉は成立したけれど、望み通りでなければヴァイオレット自身が危険なのだと、まだヴァイオレットは正しく理解できていなかった。

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