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「ヴィオ、何やってんだよ」

 懐かしい声には苛立ちが含まれていて、理由を何となく察してしまったヴァイオレットは「何、とは?」と振り向いて何事(なにごと)もないように問い返す。

 振り向いた先には幼馴染であり、ここ半年は遠征で王都にはいなかったロイター ノトスユークが立っていた。最後に会った時よりも身長は伸び、筋肉もバランス良くついた身体(からだ)はヴァイオレットと同じ年齢には見えないだろう。

 辺境伯の第二子であるロイターは近衛や兵士を目指すため、遠征で各地を飛び回る騎士科に所属し、入学後から遠征に飛び回っていたはずだ。

「おまえならあんな噂流させないようにすることも、さっさと見切ることも、手を打てるだけの能力(ちから)はあるだろ」

 苛立ちを散らすように髪を掻きあげる()(ぐさ)からは乱雑さが(うかが)えるが、その穏やかな声色からはヴァイオレットを心配していることが知れる。

 幼馴染だけあってヴァイオレットの性格を把握しているロイターは、質問する手を緩める気はないようだ。

「まぁ、それは買い(かぶ)りというものですわ」

 だからこそヴァイオレットはしれっと流して、ロイターを置いて再び歩き出す。

 ロイターもそれで納得するような性格ではなく、長い足ですぐさまヴァイオレットの横に並び「ていうか、この事態、セル(にぃ)は知ってんのか?」と確認された。

「セルジオさまは卒業されていますし、知らないと思いますわ」

 唐突に登場した幼馴染の一人の名前にヴァイオレットは首を(かし)げて答えるが、ロイターは一人「そう。いや、知ってて何か策を(ろう)してそうだな、あの人の場合は」何かを呟いている。

 騎士科とは学問よりも遠征を中心にした、武に特化させた科であり、一年の大半を国中で遠征することが授業の一環だ。年度によって遠征期間は異なるが、今年の遠征期間はまだ終わっておらず、ヴァイオレットは(いぶか)しげに問いかける。

「? ところでいつお戻りに?」

「昨日だよ。入学して半月で遠征とは騎士科の方針として間違いではないけど、これは仕方ないじゃ済まないだろ」

 何なんだよあれはとまだ何かを呟き続けるロイターが立ち()まったため、仕方なくヴァイオレットも歩みを緩め、眉根を寄せるロイターを見上げた。

「怒ってるんですの、ロイター?」

「いや、不甲斐ない自分に呆れてるだけ。この分じゃフェル(にぃ)やフェア(ねぇ)も知らないんだろうな」

 最初から苛立ちを隠してはいなかったロイターだが、その苛立ちはヴァイオレットに向けたものではないらしい。

 戻ってきたタイミングや話の内容から遠征先にまで噂が流れているのか確認したかったが、彼の兄姉(きょうだい)の名が出て思わず「フェルトさまやフェリアさまがなんですの?」と尋ねてしまった。

「いや、何でもない」

 けれどロイターは教えるつもりがないようで首を振り、再び一人考え込んでいる。

「ところで何か用があったのでは?」

 (まと)まらないロイターの話に本題があるのではないかと確認すれば「あったっちゃあったし、なかったっちゃないんだけど」と歯切れ悪く区切るロイターは意を決したようにヴァイオレットを射貫いた。

「これ以上何もさせたらダメだ」

 痛いくらい真剣な表情(かお)はヴァイオレットも初めて見る。

 ぐっと歯を喰いしばるように、腹の底に力を込めるように、握り込んだ爪が(てのひら)へ食い込むように、その気迫はヴァイオレットを飲み込んだ。

「ロイ、ター?」

 名を呼ぶ声が緊張で(かす)れている。

「何かあってもダメだ」

 重ねて告げてくる声も(かす)れていた。その理由が解らずヴァイオレットは声をかけようとするも、(のど)が詰まったかのように声は出ない。

「それがヴィオのためだ」

 ヴァイオレットの(こた)えを待たず、ロイターは足早に遠ざかっていった。

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