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揺らぎまくり

 色々と検証したり、噂の動向を確認したり、ラルカやミラの行動を調査したりと、日々は目まぐるしく過ぎていく。

 噂には少しずつ過激な内容が増え、ヴァイオレットがミラを(けな)しただとか、私物が破損されられていただとか、ラルカに(すが)りついて婚約破棄はしたくないと駄々を()ねていただとか、誰もいない教室で思わず笑ってしまったほどだ。

 やはり噂の出所の多くが元婚約者の令嬢たちとラルカであり、ヴァイオレットを悪役にしたい意思が見え隠れしている。どちらもその根底にはヴァイオレットとラルカが婚約を解消することにあるようだ。

(……殿下の見目麗しさに惹かれているのかしら?……)

 散々暴力や暴言に(さら)されてきたヴァイオレットからすれば、性格というものは性質であるため、余程のことがなければ変わらないだろうと身を(もっ)て知っている。婚約して五年、伊達に最長記録を更新しているわけではないのだ。

 身体(からだ)に残る傷はないが、傷は何も身体(からだ)にしか残らないわけではないのだから。

 元婚約者の令嬢たちは幼かったとはいえ、婚約破棄された理由は当主から聞かされているはずだ。それをまるでなかったかのように振る舞う理由の一つが、学園内ではラルカがそういった素振りを全く見せていないことにあるのだろう。

 このまま噂に乗せられていれば、(いず)れラルカが噂を真実とすることは目に見えていた。ヴァイオレットとしてもそのまま婚約破棄となることは構わないのだが、それでは(いささ)か面白くない。

 考えた結果、憎まれる役回りを目指し、()つラルカやミラ、元婚約者の令嬢たちへ警告することにした。

(……腕の見せどころですわ……)

 憎まれる役回りとして噂は放置し、けれど時々それぞれに聞こえる範囲で「現実と小説の世界観を混同させられては困りますわ」や「婚約は契約の一つですものね」などと貴族社会を思い出させる発言を繰り返していく。

 報告する者がいる中で、誰も傷つけず悪役という存在を植えつけるには、(いま)だ残る貴族社会の規則に(のっと)るしかなかった。もちろんそれで全てが解決するわけではないが、しないよりはしたほうが良いといったところだろうか。

 具体的な計画が立てられない現状、少しでもヴァイオレットが対応したという事実が大切なのだ。

 けれどもやはりそれを理解できない者は一定存在するようで、この日もヴァイオレットが一人歩いていれば「ほんと悪役令嬢(・・・・)だな」と(さげす)まれ、空き教室の前を通れば「権力に物を言わせた婚約なんて」と声高に話されている。

(……権力を(かざ)してきたのは王家ですけれど、王命ってこと知られていないのかしら?……)

 隠す必要のない理由だが、そういえば王命だということは噂一つ上がらないなとヴァイオレットは今更ながら気がついた。これは恐らく王家が情報を操作しているからだろう。

「いつまでラルカさまを縛りつけるつもりなの?!」

 ついにはミラが直接ヴァイオレットの(もと)を訪れ、ラルカは望んでいないのだから解放しろと突きつけてきた。

(……あら、わたくしの予定では二人に直接関わるつもりはありませんのに……)

 動向を探っているとはいえ、ヴァイオレットはまだ準備不足である。何せあまり近づくと先日のようなふしだらな現場に遭遇してしまうため、気が進まず調査も進んでいなかったのだ。

「聞いてるのッ?!」

「……わたくしからは何もお話しできることはありませんわ」

 思い出して赤くなってしまいそうになるのを誤魔化すよう返せば、それは少しばかり高圧的に見えたようで「そうやってラルカさまを独占してるのねッ!!」と詰め寄られる。一歩後退しようとすれば、一歩近づかれ、高位貴族に対する礼儀など全く見られなかった。

「ラルカさまはあたしを選んだの、アンタじゃなくてこのあたしをッ!! 恋愛は自由にするものなんだから、アンタはラルカさまを解放しなさいよッ!!」

 お茶会で話していた時は語尾を伸ばすような甘ったれた話しかたをしていたミラは、本来このように語気を強める話しかたをするのだろう。言葉で、態度で、(おのれ)は誰よりも偉いのだと、強いのだと、知らしめるしか手法を知らないのだ。

「……何度も申しておりますが、わたくしからは何もお話しできることはありませんわ」

 少しばかり(あわ)れんで返せば、(つば)が飛ぶのも構わずミラは(わめ)き散らす。罵詈雑言とも言えるそれらは余すことなく報告されるが、ヴァイオレットがそれを教えることはなかった。

 何も反応しないヴァイオレットに「ラルカさまはあたしのなんだから」と捨て台詞(ぜりふ)()き、ミラは苛立ちの足音のまま去っていく。

(……難関ですわ……)

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