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夏休み

学生諸君は夏休みというものに入っていると聞く。これは毎日が夏休みとも言える座敷童子にとっても嬉しいことだ。夏といえば肝試しの季節、この時季だけ座敷童子は人間脅しが解禁となる。

まぁ…年中無休でこれをやっているお方もおられますが…。ともかく、日頃は人間を養護する側だがしばしの休暇にすることにした。


本日の肝試しが行われる場所は某神社。すでに人はもちろん私たちを始めとするこの世ならざる者も多数集まっていた。人間たちは境内を周って神社の中のものを取って来るらしい…。

一方の私たちは好きな場所で驚かせて、人間が発する悲鳴を専門の妖怪に測ってもらい、順位を競う。

優勝した者には賞品が贈られ、今回の賞品は自縛霊の怨念だ。部屋に置いておくだけで涼しくなる貴重な代物。

 座敷童子の参加は3人、お馴染みの凪子はもう場所を決めたようで木陰で漂っている。

常連の助六じいさんは気配だけなのですでに隠れているのかもしれない。

 助六じいさんは大のつく人間嫌いで有名な偏屈で頑固などうしようもないじいさんだ。本人によれば紀元前から生きているらしいが、年寄りのような口調にも関わらず、見た目は十代の少年という詐欺っぷり。私のアパートに来ては住人を怯えさせていく困ったじいさんだ。

 

 ひとまず私は神社の中に入って、隠れる場所を探した。


(人間とはどういうものに驚くのだろう……)


ここ数百年人間養護一筋だったのですっかり忘れてしまっていた。


(んー…どーするか)


 そうしてるうちに怪しげな部屋にたどり着いた。部屋中の蝋燭に火がつけられ、その光がより部屋を不気味に照らしている。座敷童子の性質上こういうのには心踊らされるのだがここは落ち着いて、真ん中に無造作に置いてあった箱に座った。

 そのまま思考に没頭する。


(姿を見せて脅すのもいいけど、ちょっと過激かな。声で脅すのもいいけど…自信はあまりない)


 うだうだと考え、結論は無難なものになった。


(んー…よし、蝋燭を消して行こう。じわじわと人間を恐怖に陥れるのだ!)


「キャー」


「凪子さん、246」


 悲鳴が聞こえ、一拍後に採点が聞こえた。

 どうやら肝試しが始まったらしい。


「キャ~」


「唐傘スケスケくん312」


「ギャアアアァァァ」


「助六さん849」


 この悲鳴には私も飛び上がった。さすが日頃からやっているだけある……

 そしていよいよ私の部屋に人がやって来た。

 入ってきたのは男の子と女の子、やけに顔が青いのは気のせいではないだろう。


「さっきのあれ何?」


「わ…わかんない」


「なんもいなかったよね」


「た、たぶん」


 二人はそろそろと箱に近付いてくる。私は気合いを入れて蝋燭を消していく。

 遠くから一つずつ……


「ちょっ…ロウソク消えちゃたよ?」


「風だよ。風」


 二つ、三つ……お堂の中はどんどん暗くなる。


「やばいって…やっぱなんかいるのよここ」


 女の子は男の子の服をギュッと掴んで怯え始めた。なかなかいい感じじゃないか

 空気を乱して風を起す。なかなか大変なのだがこれも賞品のためだ。

 二人は消えていくロウソクを気にしながら中央の箱に近付く。

 どうやらあの箱の中に取って来るべきものがあるらしい。

 最後は箱の近くの蝋燭を一斉に消して彼らを恐怖のどん底に落としてやろう。考えただけでわくわくする。

 残る蝋燭は中央の二本のみ。私はその前に移動した。

 二人が箱の蓋に手をかけた。


(よし今だ!)


 私は思いっきり空気を乱した。


(これで悲鳴が…)


「きゃ! ロウソクが倒れるわ!」


(え?)


 どうやら力を入れすぎたらしい。風は火を消すのを忘れ、燭台ごとなぎ倒した。


(まずい! ここ古いからすぐ燃える!)


「あぶねっ」


 男の子と私は同時に手を伸ばした。


 手を……。


「ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!」


「きゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


 耳をつんざくような悲鳴に私は身をすくませる。


(なんなの? 危ないから手を伸ばしただけじゃない……手?)


 ほのかな蝋燭に照らされている手。


 白い……私の手


(やば、つい手だけ実体化させてしまった!)


 私は急いで霊体に戻した。燭台を戻すことも忘れない。


「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」


「いやあぁぁぁぁぁぁ!」


 それが再び悲鳴の要因となる……


「沙夢さん2010点!」


(お、ちょうど今年だな……2000!?)


 二人は手と手を取り合って脱兎の如く逃げていった。


(……なんか、ごめんなさい)



 この日、沙夢の2010点を上回る者はおらず自縛霊の怨念は沙夢の物となった。

 二人が逃げ帰った後大急ぎで狐の子に火をつけてもらったのは余談であり、この件以来この神社が心霊スポットとして賑わうようになったことはさらに余談である…



 あぁ……やっぱり怨念は涼しいわぁ


 深夜近くには大家の部屋の窓からは青白い光が見えるとか……


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