たまにある旅行
注 この話を書いたのは2年前です。
半フィクションでお送りします。
早朝に久々ながら凪子がきた。いつもと同様にテレビからの登場。
おかっぱ頭に着物という古風な格好だ。
「おはよ~」
「……おはよ」
珍しい、あの凪子が起きている状態で家に来るとは。
「沙夢ちゃん暇?」
「暇」
年中無休で暇。
「遊びにいこー!」
いつもながら唐突の誘いだ。だが暇なので断るはずがない。
「どこに?」
「京都!」
京都といえば修学旅行 そして寺巡り……
「祓われない?」
「大丈夫、寺の人見えないから」
凪子は自信たっぷりにそう言い
「見えるのって神主でしょ?」
と付け加えた。
「陰陽師じゃなかった?」
確か昔祓われそうになったのは陰陽師だった。
千年前ほど、平安の都のころの話だ。
「そんときは……」
そんときは。
「逃げればいいじゃん」
そう、座敷童子のスピードは音速並みだ。
「やっぱそうなるんだ」
私はため息混じりであきれる。
「当たり前! さぁ、行くよ!」
私はしょうがないなぁと思いつつ神経を集中させる。すると体が徐々に光を帯びて、霊体になる。
座敷童子が一つできた。
「ビュビュンと京都に~行こう!」
というわけで、ビュビュンと京都に来たわけですが、雨です。
ここまで私たちを嫌うのか雨女、と落胆しつつ金閣寺へ。そこには昔馴染の座敷童子がいるのだ。
雨の中でも堂の絢爛豪華さは損なわれることはない。建設途中をまじかでみたこともあったが、何度も焼けては何度も金ぴかになった。なぜ金なのかと何度疑問に思ったかわわからない。
「おーい! 遊びに来たよ~」
凪子が元気良くキンキラの寺に向って手を振ると、フワフワと一人の座敷童子がでてきた。私たちは彼の姿に絶句する。
「おやぁ、凪子さんに沙夢さん、お久ですぅ」
とまったり口調で挨拶したのは601歳の鹿苑だ。
「いくら金ぴかが好きでもそれはないんじゃない?」
凪子は目を見開いたまま少し首をかしげる。
「ちょっとまぶしい」
鹿苑の服がまさに金ぴかだったのだ。しかも踊ってサンバを歌った彼のような金ぴかじゃない。
のっぺりと金ぴかなのだ。
「いいでしょ、寺とおそろいなんですぅ!」
なんだか笑顔まで輝いて見える。
(まぁ、本人がいいならいいかぁ)
「凪子さんと沙夢さんは京都に観光ですかぁ?」
「うん、いいでしょ!」
凪子は発案者なだけに大得意だ。
「はい、京都はにぎやかですからね。もしよければ弟の所にも行って下さい」
「慈照の所?」
私は双子の弟の方を思い浮かべる。
「慈照くんかぁ、そういえば最近あってない」
「帰りに寄っていこうか」
「そうしてやってください」
鹿苑はまぶしい笑顔をますます輝かせた。
そして私たちは1時間ほど話をして、京都の町をねり漂った。
清水寺の霊たちに絡まれ、茶を頂いた。自縛霊を見掛けたり、ちらほらなんかよく分からんものが浮いていたり……
「さすが京都だねぇ」
銀閣寺に向っている途中で凪子が呟いた。
「そうだね。平安のころは普通に魑魅魍魎がいたから」
「ここに住んでれば話し相手には苦労しないよね」
確かに苦労はしないが話が合うのだろうか……
ほどなく銀閣寺につき、入口近くに浮いている座敷童子を見つけた。
「慈照くー……ん」
私たちは彼の向こうにある寺を見て固った。寺が、白い幕で囲まれていたのだ。
「おや、凪子さんに沙夢さん久しぶり。驚きましたか? 今修復工事をしているんですよ」
私たちに気付いた慈照が兄そっくりの顔と声で説明してくれた。私たちは慈照の姿を見て服がギンピカじゃないことに安堵した。
「じゃあ今どこにすんでるの?」
私は布の間から見えている慈照の家を眺めながら訊いた。
屋根も壁もなく骨組みだけだ。ここに住むのはいくらなんでも無理だろう……
「ご心配なく。ひとまずあっちの家に憑いていますから」
慈照は庭を隔てた向こうの日本家屋を指差した。本殿ほどの気品はないけどなかなか広くて立派な建物だ。
「早く直るといいね~」
「はい」
慈照は視線を白幕に移した。足元では外国人観光客が白幕に驚いている。慈照のためにも観光客のためにも早く工事を終わらせて頂きたいものだ。
「それとね私たちお兄さんにもあって来たの」
「そうですか。僕も兄も座敷童子に会うのは久し振りなんです。ここらへんは違う人達のほうが多いですから」
慈照は視線を私たちに戻した。
「古い家が多いのにね」
と、凪子が相槌をうつ。
「座敷童子より先祖の霊の方が取り付いてるみたいです」
なるほど、それは座敷童子の数倍は役に立つ守護霊だ。
いたずらをするということは間違ってもないだろう。
その後私たちは慈照とともに山を漂った。
「この山すごいね。こんなに苔があるなんて」
私は様々な苔に感嘆の声をあげる。
「えぇ、この苔は大切な苔なんです」
慈照は嬉しそうに説明をしてくれる。
「こっちは?」
凪子が別の苔を指差す。苔もよく見ると一つ一つ違うのだ。
「それはちょっと邪魔な苔です」
「ちょっと邪魔? じゃあこれは?」
凪子は隣りの苔を指差す。
「それはけっこう邪魔な苔ですよ」
「けっこう邪魔な苔? おもしろーい」
凪子と私はクスクスと笑った。
「本当に邪魔な苔なんです」
慈照が真面目な顔で苔をにらんでいる。本当なら苔をむしり取りたいが座敷童子なだけにすり抜けてしまう。
「ふーん……苔にもいろいろあるんだぁ」
「苔もよく見るとおもしろいわね」
そして私たちは慈照に見送られ京都を後にした。
そして家に帰り、人の姿になってつい呟く。
「重っ……」
今はもう銀閣寺もきれいになっているそうです。