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薔薇魔人

梅雨に入ったから

 とうとう梅雨に入った……

 こないだの豪雨で至る所が水に浸かったらしい。

 私の心配は一つ、このボロアパートが流されないかどうかだ。

 見た目は悪くないが中身はどうなっているかわからない。

 座敷童子にだってそれは言える。座敷童子にも好き嫌いはある……


 雨、朝起きてアニメを見終わっても雨、昼ご飯を食べ終えても雨だった。

 このままでは体の芯までふやけてしまいそうだ。

 私は恨めしげに窓の外を見る。

 雨女及び雨男、そんなに張り切るな 。

「――ジュ……ル!」

 ふいに何か声がしたような気がした。

 私は部屋を見渡す。人の姿はない、気のせいだろうか……

「ボンジュール!」

 今度はハッキリ聞こえた。途端に背中に寒気が走る。

 なっ!

 あの言葉、そしてこの高笑い、間違ない奴だ。 3ヶ月24日を経て奴が来た。薔薇魔人だ!

 ん?だがおかしい今は冬じゃない。奴はこの国が春になると同時に冬の国に旅立ったはずだ。

 そのままどこかで祓われてくれと願いながら送り出したのを覚えている。

 だから今年の冬までは現われないはずだ……

 私が軽くパニックになっている間にも奴は近付いているらしく、どんどん高笑いが大きくなっている。 そして……

「ボンジュール! 沙夢。僕は帰ってきたよ~」

 とうとう壁をすり抜け部屋に入ってきた。

 優雅なポーズを決めての登場だ。

 やはり彼だったことに私は絶望する。

 薔薇魔人、私より少し年上だった気がする。フランスの座敷童子だ。本名は長すぎて覚えてやるつもりもない。

「おや、沙夢。顔が青いよ? あぁそうか……僕との再開に言葉も出ないんだね! あぁ肩まで震わせて、僕は嬉しいよ。感動の再開に涙してくれているんだね!」

「今すぐでていけ~!」

 私は力の限り叫んだ。

「そ、そんな……わかっているよ。君は感情表現が苦手なんだ。側にいて欲しいならずっといるから」

 私は意思疎通不可能という厚い壁に打ちのめされた。

「沙夢、これを君に」

 私の心情など気にせず奴は私の目の前に薔薇の花束を出した。

 これこそこいつが薔薇魔人たるゆえんだ……

 つまり、薔薇魔人は薔薇が好きで好きで仕方がない。

 そしてその紅が目立つのが雪、だから冬にしか現れなかったのだ。

 この126年間、一度も!

「そ、そこに座って待っていろ」

 私はよろよろとキッチンへ行き、お茶の用意をする。

 頭がいたい、一体どうしてこんなにも早く帰ってきたんだ……

 私は戸棚の奥から真っ赤な瓶を取り出した。

 その中に入っているものは以前奴がくれた薔薇を干してお茶っ花にして置いたものだ。

 ふふっ……これで追い返してやる

 私は恨みを込めながらお茶を淹れる。

「ほら、飲め……」

 その薔薇茶を飲んでお前の好きな薔薇が無残にも茶になったことを嘆くがいい!

「感謝するよ!」

 薔薇魔は爽やかな笑顔で湯飲みを受け取り、口元に運んだ。

「おや?」

一口飲んで薔薇魔は湯飲みをのぞき込む。

「これは……」

そうお前が好きな薔薇さ!

薔薇魔はガバッと顔をあげた。

「あぁ!」

嘆け!

そして帰れ!

「僕の大好きな薔薇ちゃん! なんて美味しいんだ! 君達はお茶となっても気高く美しい!」

なぜ悲しまない……

「うん、うん、そうか……沙夢が作ってくれた。ふむ、ちゃんと陰干しして、おう! 蒸してくれたのか!」

とうとう薔薇魔人は湯飲みをのぞき込みながら喋り始めた。

駄目だ。私では太刀打ちできない……こいつは同じ座敷童子じゃない!

完全に敗北した。

「……それで、なんで帰ってきたんだ?」

薔薇魔はお茶を啜りながら答える。

「……実はね、故郷に帰ったら家がビルになっていたんだ」

「だからって他に憑く家くらいあるだろ」

「それがねぇ……なんか向こうの友人たちはみな恥ずかしがって僕を入れてくれないんだ」

嫌われていることに気付け。

「でも優しい彼らは僕に色々くれてね」

なるほど……物あげるからとっとと出ていけということか。

「親切にも愛する人が待っている日本に帰ったらどうかと背中を押してくれたんだ」

「……愛する人?」

フランスの魑魅魍魎よ。

体よく追い出して私に押しつけようとしていないか?

「そういうわけで来たんだよ」

何一つ気付いてないのか。

「はぁ……」

私は畳に落ちている花束に目を落とす。

あぁ……これからまたこいつと戦わなくてはいけないのか。

はぁ……今日は薔薇風呂決定だな


雨よ、いっそのことこいつを宇宙の果てまで流してくれ


じめじめ…

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