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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【43】その先に満ちるもの(2)

中天にはまだかかっていない太陽に照らされ、薔薇色の花弁に乗った露がキラキラと輝いている。

案内された大神殿の出口から、真っすぐに伸びる石畳の通路添いいっぱいに、見慣れた薬草がびっしり生えていた。


(少なくともビックリはした…………思ってたのとは違うけど)


周囲一帯、慣れ親しんだ香りが濃く漂っていて、大気からは澱みは感じない。ただ足元から立ち上る嫌な気配は、神殿の硬い石の床では感じなかったものだ。確かにここには、禍々しい気配を首都中に放っていたなにかが存在するのだ。

それに、すぅ、と静かに吸い込んだ香りに、微かな違和感があった。


(ローゼルムの香りのはず、なのに……どこか違う)


歩みを進めるのを躊躇い、すぐ傍にあるその植物を見下ろす。濃い緑の丸い葉と、薔薇色の小さな花。

しかしよく見れば、花と葉の間から覗く細い茎が、やけに黒い。


(……茎の色が、違う?)


ローゼルムの茎は紫色だがどちらかといえば淡い紫なので、黒と見まごうような濃さではないのに。


「どうしたの? メル」


動かないメイベルの様子に、隣のレッドがそう尋ねてくる。


「アル、見たことのない草花だと思って」

「見たことない?」


レッドは少し怪訝そうにする。メイベルでさえ最初はいつも見ているローゼルムと同じだと思ったのだから無理もない。


「いかがされましたか?」


なかなか歩き出さない王女に、案内役の神官も訝しんで尋ねてきた。


「とても美しい花園だなと思って」


メイベルが笑顔を作ってそう言うと、神官は少し微妙な表情になった。


「お褒めの言葉を頂き恐縮なのですが……これらは勝手に生えてくる、雑草のようなものでして」

「雑草? とても美しい花ですのに」

「ええ、我らが愛する創世神様の瞳と同じ色の花を付けますので見た目は好ましいと言えますが。

ただ繁殖力がすさまじく高いため、抜いても抜いてもこのように一面に生えてきてしまうのです」

「え……?」

「手の空いた者で代わる代わる除草しているのですが、このとおりなかなか追いつかぬので、正直を申せば些か困っておるのですよ」


繫殖力が高いと聞いて、メイベルは驚きを隠そうと必死に表情を作らねばならなかった。

薬師の村ローゼルムンド周辺には、限られた場所だけに生えているローゼルム。そこでも、数株が寄り添うようにひっそりと自生しているに過ぎない。メイベルも、研究に研究を重ねた末に今では畑での栽培に漕ぎつけられたが、そこまでの過程で何度も枯らしてしまった経験がある。

メイベルの調べた範囲では、安定して栽培するためには緑の歌で土を浄化することが不可欠だったのだ。


(やっぱり、外見と香りが似ているだけで私の知るローゼルムとは別の種類ということ?

手に取って調べてみたいけど……)


思ったことが表情に出てしまっていたのか、エスコートしている手をレッドがきゅっと握ってくる。

見上げれば、青い目を細めて笑んだレッドが小さな口の動きだけで「我慢」と伝えてきた。


「軽々に動かれませんよう、王女殿下」


ローゼスにも背後から小声でそう言われてしまった。二人に行動を読まれてむぐっとなりながらも、メイベルは背筋を伸ばして頷いた。

その時、石畳の通路をこちらに向かってくる神官服の一団が目に入った。

中でも先頭を歩く者の服装は他の神官たちとは異なり、白い神官服の上から装飾の入った重厚なマントを羽織り頭にはミトラを被っていて、遠目にも位が高いことがはっきり分かる。その証左に、近づいてきた彼らに対し案内役の神官たちが両手を胸に当て深く首を垂れた。


「メイベル王女殿下、並びにアルフレッド・アディル・フェアノスティ王弟殿下、遠路遥々ようこそおいでくださいました。

私は、シャルト大神殿の神官長を務めます、フェルス・マルタラと申します」


メイベル達に向けそう名乗った神官長は、白髪の混じった淡い金髪に、空色の瞳をした柔和な印象の初老の男性だった。微笑を浮かべたその顔を、メイベルは感情を抑えながら凝視した。


(この人が……)


無言のままのメイベルの隣で、レッドが鷹揚に頷いて見せた。


「急な訪問に関わらず、快く入国許可をいただき感謝する。神官長殿」

「過分なるお言葉、痛み入ります。此度は翼ある神獣の曳く馬車で来られたとか」

「ああ、天馬の馬車なら我が国の王都から二日で来られるのでね。

わが婚約者殿が貴国に出自があるとのことで、一刻も早く皇王陛下に婚約の報告をしたかったのだ。

途中、貴国国境の街に逗留したのだが、珍しい催しもあってなかなかに忘れられない夜を過ごせたよ」


含みを持たせたレッドの言葉に一瞬神官長の目がすうっと細められたように見えたが、すぐまた柔らかな微笑に戻った。


「左様でございましたか。それは祝着至極にございます」


悪意など微塵も見せることのない優しく慈悲深い人。それをそのまま体現しているかのような目の前の人物が、自分達に向けあの赤黒い鷲を放ったのかと思うと、逆に背筋が凍る思いがした。


(でも私は、私達は知ってるわ。

貴方が昨日、ケッタの住民が巻き添えになることも厭わないような罠を仕掛けたであろうことを)


メイベル達が何を言おうとも、それを信じるのはもちろん神官長を少しでも疑う者すら、この場にはおそらく誰一人いないに違いない。

分かっていたこととはいえ、あらためて自分たち以外誰も信用できる者のいない場所に来たのだと言うことを、メイベルはひしひしと感じていた。


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