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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【41】作戦開始


何周か首都上空を旋回した後、白銀の面をつけたヴィーゴが天馬たちに高度と速度を下げさせ、太陽が天頂に昇るよりもだいぶ早い時間に一行の乗った王族仕様の天馬馬車は首都ベーゼの正門前の街道上に着地した。

冬のシャルティア国内を旅する場合、雪がある場所ではそりを使い、首都に近くなって雪が減ってきたところで馬車に乗り換えるらしい。そのため、ベーゼの正門の前には多くの馬車が首都内へと入るのを待つ列を成しており、メイベル達の乗る天馬馬車もそれに倣って車列の最後尾へと並んだ。

翼のある馬が引く豪勢な馬車は大変目立つ。風魔法で外の喧騒はほぼ聞こえてこなかったが、ケッタの国境検問所のとき同様周囲の注目が集まっているのは想像に難くない。


(この格好もきっと、ベーゼの街中に出たりしたらすんごい浮くんだろうなぁ)


自分自身も高価そうな生地を惜しみなく使って更には緻密な刺繍や宝石で飾られたこてこての貴族令嬢ドレスに身を包んでいることを思い出し、メイベルは長めのため息をついた。


「どうしたの?」


問いかけにメイベルは視線を上げる。前の座席に長い脚を組んで座っている男は、本人は不本意らしいが煌びやかな衣装が整い切った容姿に似合いすぎるほど似合っている。

分かってはいたが借り物衣装の自分とはえらい違いだと、メイベルはむぅっと小さく唸った。


「……別に。レッドくん見てたらなんか腹が立ってきただけ」

「え!? なんで??」


完全なる八つ当たりである。

疑問符を浮かべまくるレッドが、いつもの癖で頭をガシガシしそうになるのを隣のサリシャに止められている。ぶぅぶぅ文句を言う彼の手首には、小さな魔晶石の嵌っただけの飾り気のない銀色の腕輪がある。例の、魔力抑制の魔道具だ。

澱みの渦巻いでいるだろう神域に入る前に、メイベルはレッドの体調管理のため何か対策グッズを作れないものかと考えていた。だが準備時間もほぼない上に妙案も浮かばず、出来たことと言えば緑の歌でローゼルムの生育を促進しつつ、精油や乾燥させたものをなるべく多く用意することくらい。あと確実に効果がありかつ一番手っ取り早いのが、無意識のまま常に魔素を循環させている彼が澱みに当たるのを極力避けるため、魔力の使用と循環を最大限抑制するこの腕輪をつけてもらうことだった。

魔道具の腕輪部分は型作りから鋳造までメイベル自身が行った物で、自分的には装飾品としてもシンプルで良い出来だと思っていた。だが、王族仕様の馬車内で礼装を纏った状態の王弟殿下が身につけるにはどう見ても貧相で不釣り合いだ。


「せめてもうちょっと、凝った装飾にすればよかったかな」


メイベルの視線が自分の手首辺りにあることに気付いて、レッドはこてりと首を傾げる。


「そう? わりと気に入ってるけど、僕」


けろりとそう答えたレッドの意外な反応に驚かされた。


「呪いみたいだって、着けるのあんなに嫌がってたくせに」

「いやだって魔力の流れを抑制されるとなんていうかこう、苦しいっていうか、詰まった感じになるんだよ。鼻づまりとか、のどに何かがつっかえるみたいなさ」

「わかるけど相変わらず例え方が残念……」


両手の指をワキワキと動かしてなんともいえない不快さを表現した後、レッドはふっと笑んで手首の銀色を撫でた。


「でも、このデザインは好きだよ。ゴテゴテじゃらじゃらしてないし。

それにこれ、メイベルの手作りなんでしょ?

だから好き」


そう言ってすごく嬉しそうに笑う。そんなレッドに、メイベルは眉間にぎゅっと皺を寄せ、なんとも形容しがたい顔になった。


『馬鹿だが、口先だけの世辞は言わん』


昨夜のサリシャの言葉を思い出し、メイベルは小さく「ありがと」と礼を言った。

サリシャの言う通りなら今も本心でそう言っているのだろうが、この男の場合、そこに言葉面以上の含みもなさそうな気がするからなんとなく面白くなくて素直に喜べない。


「天然タラシ……」

「なに?」

「……なんでも」


そんな会話をしていた時、コンコンコンとノックの音がした。


「レッド様、門から数名、神殿兵が出てきました。こちらに向かってくるようです」

「警戒しつつ、遮断の風魔法を解除」

「了解です」


馭者台のヴィーゴが操作したのだろう、音や風を遮断する風魔法が解除され、途端に周囲の喧騒が耳に入り始めた。それに交じって、馬の蹄の音が近づいてくるのがわかった。


「私はシャルティア神皇国首都治安維持部隊隊長のホルラント」

「ならびに副隊長のマテオと申します」

「シャルティア皇王カイルゼン陛下のご息女殿下、ならびにフェアノスティ王国王弟殿下の御一行とお見受け致します。間違いございませんでしょうか?」


(マテオさん!?)


聞き覚えのある名前と声に、メイベルとローゼスが顔を見合わせた。

息を呑んで身体を強張らせるメイベルと、白銀の仮面を握りしめるローゼスの耳に、ヴィーゴの返答する声が聞こえる。


「はい、間違いありません」

「カイルゼン陛下より命を受けてまいりました。

両殿下を神域内へご案内せよとのことでございます」


コンコンコン、と外からのノックが聞こえたのに対し、レッドが背後の壁をコンコンと二回ノックし、了承の意を伝えた。


「皇王陛下のお心遣いに感謝申し上げると、王弟殿下の仰せです」

「ではこれより、我らが先導を務めます。

大神殿前までご案内いたしますので、続いてお進みくださいませ」

「了解いたしました。よろしくお願いいたします」


少しの振動と共に、馬車が車列を逸れて門へと向かって動き始めた。蹄の音が近くなって窓の外を窺えば、左右に並走する神殿兵の姿が見えた。うち一人は間違いなく、シャルティア入り以降幾度となく顔を合わせたことのある神殿兵のマテオだった。


「マテオって……ああ、カエルの時の彼か」


レッドが思い出したように呟いた。メイベルがサヤの森で倒れていたレッドを保護した際、彼もマテオに遭遇しかけていたのだ。

スカートの上で手をぎゅっと握ったメイベルに気付き、レッドは大丈夫だと告げた。


「外からは車内の音も聞こえないし覗き見されることもないように作られてるから安心していいよ」

「……うん」

「彼とは知り合い?」

「シャルティアに来た当初から、いろいろ気にかけて薬草店を見に来てくれてた人。

あちらからしたら新参者の素行調査も兼ねていたんだろうけど」

「にしては、親しそうだったよね」

「ん?」

「……なんでも」


隣でもの言いたげにじっと見てくる叔母の視線がなんとなく煩わしくて、レッドは会話を終わらせ顔を背けて外を見る。窓の外には白い軽装鎧に身を包んで背筋を伸ばし馬に跨る若い神殿兵の横顔があって、メイベルの視線もそちらを向いているようだった。


『ごめんね、送ってあげたかったんだけど』

『お気になさらず。お仕事、頑張ってください』


神域近くを調べていた際、森の泉で灌木の陰に隠れながら聞いた会話が耳に甦って、レッドは軽く眉を顰める。


(あちらには明確に好意がありそうだったけどね)


口に出さずに飲み込んだ呟きが胸の奥に落ちていく。心の中に湧いた自分でもよくわからないもやもやを、レッドは頬杖をつきながらやり過ごした。


神殿兵に囲まれた馬車は、首都の通りをゆっくりと進んで行った。沿道にいる人々はただならぬ様子の一行が通り過ぎるのを何事かと話をしながら見送っていた。

そうしてようやく、大神殿前の中央広場で馬車が留まった。


「ここから先は徒歩で進んでいただくことになります」


ホルラント隊長の声が聞こえた。レッドが先ほどのようにコンコンとノックすると、ヴィーゴが馬車の扉を開け、白銀の面をつけたローゼスが護衛として先に降り、荷下ろしのためにサリシャもそれに続いた。

いよいよだ、と緊張で強張るメイベルの頬に、ふわりと温かいものが触れて撫でた。


「そんなに硬い表情をしてたら逆に怪しまれるよ?

ここから僕らはシャルティアの王女とフェアノスティの王弟だ。ひれ伏しなさいよ貴方達、くらいの心持ちで鷹揚に構えてないと」


いつか言われたのと似た言葉にメイベルが視線を上げれば、席から降り片膝をついたレッドがメイベルの頬に手を添えてニッと笑っていた。


「ケッタの街ではさほどフェアノスティへの反発は感じなかったけど、ベーゼでの風当たりの強さは覚悟しないといけないだろう。

でも君は独りじゃない、仲間で運命共同体な皆で行くんだ。婚約者の僕もこうして傍に居るしね」


ウィンクしながらそんなことを言うレッドに、メイベルも思わず小さく噴き出した。


「運命共同体じゃなくて、婚約者の演技で皆を騙す共犯、っていう方が近くない?」

「何て呼ぼうと変わらないさ。

そうだ、互いの愛称を決めておこう」

「レッドくん、じゃダメなの?」

「それは皆が呼ぶ愛称だから。僕らだけの愛称があれば、婚約者味が増すでしょ?」

「婚約者味とか言ってる時点でもう胡散臭いけど。それにメイベルは短い名前だからわざわざ愛称に略されることなんてないし」

「いいからいいから。メイベル、メイベル────メル、っていうのはどう?」

「メル……メルか。じゃあ、レッドくんはアルフレッドの、アルだね」

「メルとアル。いいじゃん、気に入った」


大神殿に着く前まで、正体不明のもやもやを感じていたレッドだったが、メイベルとの悪だくみじみたこんな短い遣り取りだけで嘘のように気持ちが晴れていったのを感じた。こんな些細なことでと、自身のことなのに不思議でならない。

メイベルの頬をそっと撫でていた白い絹の手袋をした指で、今度は彼女の手を掬い上げ口元に寄せていく。


「他の人には呼ばせないでね、僕のメル」


軽く指先に口づけながら真っすぐ見つめてくる青い瞳の王弟に、それを演技開始の合図だと理解したメイベルは目を細めて微笑んだ。


「貴方もね、私のアル」


ふふと悪い笑みを交わして一度手を離すと、レッドは馬車から先に降りた。それからメイベルに向け、優雅な仕草で手を差し出す。


「おいで、可愛い僕のメル」


腹を括ったメイベルも席を立ち、差し出された手に掴まってフェアノスティ王国の紋章が入った馬車を降りた。ゆっくりとステップを降りて広場の石畳の上に降り立つ。周囲は静まり返り、ただ皆の視線だけが集まってくるのは痛いほど感じた。

ケッタを出発するときは熱狂的な雰囲気で送り出されたが、シャルティアにおいては今のこの状況が普通であったのをメイベルは思い出す。それでも何を恥じることがあると毅然と背筋を伸ばした。


「おぉ……」

「薔薇色の瞳……創世神様に愛されし、王族がたの証だ」


近くに居た民衆の一人が、メイベルの瞳の色に気付いて小さく声を漏らした。そこからざわめきが拡がっていき、一人、また一人と民がその場に跪いていく。

誰の隣に立っているのかも、先ほどまで冷たい視線を向けていたことも横に置いて、ただ瞳の色が濃い薔薇色だというだけで名前も知らぬ娘一人にここまで尊崇を現せるものなのか。顔を伏せていく民を前に、シャルティアで生まれ育っていないメイベルは彼らの反応に恐怖すら感じた。

その時、大神殿の中から神官らしき服装の人物が数人、姿を現した。メイベル達の傍まで来ると、神官たちは両胸を手に当てその場に膝をついて跪礼した。ここまで馬車を先導してきた神殿兵もそれに倣って跪いて首を垂れた。


「王女殿下、ならびにフェアノスティ王国王弟殿下、お越しをお待ち申し上げておりました」

「ここからは我らがご案内申し上げます」


マテオ達の役目はここまでのようだ。彼ら首都内を守る神殿兵達は神域には入れない。神域内には専属の兵士と使用人、彼らが護る王族と中級以上の神官たちのみが立ち入れるのだ。

首を垂れたままで先頭にいた神官が静かに声をかけた。


「ここより先、馬車は入ることがかないません。翼ある馬とこちらの馬車は私共の方で丁重にお預かりいたし……」

「それには及ばない」


レッドが神官の言葉を遮った。目配せされたヴィーゴが頷き、天馬たちを繋いでいた魔道具のハーネスを取り外した。


《フィスノキア》


レッドが前に繋いでいた内の一頭の鼻頭を撫でながら、北大陸の共通語とは違う、耳慣れない言葉で語り掛けた。天馬たちを手懐けた人物が使う言葉、エルフ言語である。


《近くで待機していておくれ。僕が呼ぶまでは自由に過ごしているといいよ》


戒めを解かれた天馬たちはブルルと鼻を震わせ、レッドに鼻を摺り寄せた。しばし撫でられた後、四頭の美しい幻獣は嬉しそうに嘶いて広場から天空へと飛び立っていった。


「またあの子たちに魔力を食べられてたんじゃないの?」

「ほんの少しだけだよ」


互いの耳元に唇を寄せて小声で話しては小さく笑みを交わす二人は、会話の内容が聞こえない傍目にはとても仲睦まじく映っていた。

そうしているうちにその場に残された王族仕様の馬車は、サリシャにより下ろされた荷物と共にヴィーゴが空間魔法で格納してしまった。

目の前で繰り広げられたあれやこれやに目を瞠りっぱなしの神官たちに、レッドが鷹揚に話しかける。


「では、案内を頼むよ」


ハッと我に返った神官が立ち上がりこちらへと大神殿の方に歩き出したのに続いて、メイベルの手を引いたレッドが歩を進め、その後に護衛騎士二人とメイドが付き従う。

出迎えの神殿兵達の前を通り過ぎる際、「メイベル……?」と小さく名前を呼ばれたのが聞こえたが、メイベルは前を向いたまま歩みを止めることなく、大神殿へと向かって歩いていった。


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