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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【30】星降る夜と金色の朝(1)


シャルティア神皇国皇王殿の皇王執務室。

宵闇を締め出し魔道具の灯りが煌々と灯されたその部屋の扉が許可なく開かれ、部屋の主であるカイルゼン皇王と彼を訪っていたフェルス神官長が目を落としていた書類から顔を上げた。


「陛下! 伯父上!

フェアノスティから陛下の庶子が来るというのは本当ですの!?」


鼻息荒く入ってきたのは赤と金の豪奢なドレスを纏った貴婦人。彼女はマルタラ氏族から現皇王カイルゼンに嫁ぎ彼の第一子である王子を産んだ妃であり、同時にフェルス神官長の姪でもあった。


「さすが、マルタラ妃はお耳が早い。

フェアノスティ王国に陛下の御子の所在を確認したところ、陛下のご息女がフェアノスティ王国からお越しになると、彼の国から本日先触れが参りました」

「いったいどうなっていますの!?

そもそも先の儀式で、私の子を次期皇王に()()()()くださると仰っていましたのに!」

「その予定だったのですが、御存じの通り、皆の前に創世神様がお出ましになられてしまいましたのでね」


持った扇をギリギリと握りしめるマルタラ妃の手を、フェルス神官長は皺の寄った手で軽くたたいて宥める。


「フェアノスティから来たご息女に加わっていただき、今一度選定の儀を執り行いましょう。

次こそは、無事に次期皇王の選出ができますでしょう」


慈愛深いと民からの人気も高い神官長の笑みに、マルタラ妃もひとまずは頷いた。

だが憤懣やるかたないという表情は晴れない。


「聞いたところによるとその庶子、フェアノスティから婚約者を連れてくると。

しかも伯父上、黒髪の王弟らしいじゃないですか!

その者の話、私聴いたことがありますわ。なんでも自分の母の魔力を吸い取って死なせたと……!

なんて悍ましい、自分の身内を殺めた者がまだ王族籍にある国だなんて……」

「黙れ!!」


その時、言い募るマルタラ妃の声を遮るように、ずっと黙っていたカイルゼン皇王が机に拳を振り下ろしながら言った。執務室に響いた大きな音にマルタラ妃が驚いて小さく悲鳴を上げる。


「へ、陛下……?」

「……下がれ」

「私は、ただ……」

「下がれと言っている!!」


皇王のあまりの剣幕に、マルタラ妃は訳が分からないまま体を震わせて伯父の神官長の方を見る。

フェルス神官長が黙って首を横に振るのを見た彼女は、一礼すると退出していった。

扉が閉まるのを待って神官長が振り返れば、カイルゼン皇王は先ほど机に振り下ろした手で顔を覆っていた。


「これほど早く、薔薇の目の子本人が訪ねてくるとは……」


皇王の机の上には、フェアノスティ王国国王からの親書が置かれている。

王立学院宛に中級神官の名で出した表敬訪問の窺いも把握したうえで、国王の弟の婚約者の瞳が薔薇色をしていること、そして彼らが連れ立ってシャルティアに向かっているので入国と皇王との謁見を求めるという内容だった。

早朝、フェアノスティから魔法の馬に乗った先触れの使者がやってきたことを知った高位神官たちの侃々諤々とした様子がフェルス神官長の脳裏によみがえる。

しかも、王女とその婚約者一行は羽のある馬に似た幻獣の曳く馬車に乗って、明日には首都ベーゼに到着するとのことだった。


「先手を打たれましたな。

ですが、早々にご息女本人が我が国を訪れてくれるなら、かえって好都合。

妖精の言う通り、これで正統な後継者すべてが揃う。そのまま、儀式を執り行って、いつも通り選定の宣言をしてしまえば済みます」

「次もまた、妖精が現れる可能性もある」

「そうなれば、継承の間を使わず、大神殿で儀式を執り行い次期皇王が選定されたとだけ報じましょう。

先の儀式における異変の情報が洩れているようです。

ひとまず我々が今することは、フェアノスティからいらっしゃるご息女をお迎えする準備を整えることですな」


失礼いたします、と告げ、フェルス神官長は執務室を出た。

すると扉の外に、先ほど退出していったマルタラ妃が待ち構えていた。


「陛下は大丈夫なんですの!?」


言葉では大丈夫かと聞いてはいるが、その態度には皇王の身を案じている様子はない。彼女が真に心を砕いているのは、わが子が次期皇王に選ばれる未来だけだ。


「心優しき陛下は、儀式での異変以来心労を抱えておいでですからな」

「あの方の場合、優しいのではなくてお心が弱いと言うのですわ。

だいたい、今回の庶子のことだって、若き頃の陛下の失態でしょう。

留学先で子をもうけるなど、醜聞以外の何物でもないではありませんか」

「滅多なことを言うものではないよ」


ほんの少し叔父の顔をのぞかせた神官長が、マルタラ妃を窘めた。


「とにかく、フェアノスティから来る王女を迎え入れる準備をしなければな」

「本当に、その庶子を選定の儀に参加させるおつもりですの!?」

「もちろん、創世神様がそう仰るのだから、そのようにしなければね。

まだ見ぬその王女殿下が神域にまで無事に辿り着けるよう祈りましょう」


ふん、と不満げな返事をして、マルタラ妃が自分の宮殿に向け去って行ったのを見送り、フェルス神官長は柱の陰に控えていた中級神官に声をかけた。


「急ぎ、通信魔道具でケッタの街の小神殿に連絡を取りなさい」


言いながら、神官長は小さな紙きれを渡す。

黙礼した中級神官が急ぎ足で下がっていくのを見るフェルス神官長の横顔に笑みが浮かぶ。


「さあ、こちらも動き出そうか。

創世神様の所望される大切な王女殿下を一刻も早く魔法使いから引き離し、我々神殿にて保護し奉らねば」



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