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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【27】とっておきの手


皇王の庶子とその婚約者一行として神域に乗り込む計画を練った三日後の朝。


「さっっっっぶぅ!!!」

「見事に白一色ね」


メイベルはレッドと二人、一面真っ白に染まった雪原のど真ん中に立っていた。

二人がいるのはシャルティア神皇国の国境を越え少し南へと行った、フェアノスティ王国との緩衝地帯になっている場所。

南北に延びる街道がこのあたりを走っているはずなのだが、それすらも見事に雪で埋もれて、直前に走ったそりの跡がなければどこが街道だか見分けがつかない状態になってしまっていた。

なぜ、首都ベーゼを離れ、こんな場所に来ているかというと────


潜入作戦を具体的にどう進めるかを話し合っていた際、ヴィーゴがあることに思い至った。


「あの、俺たちもうすでに神皇国の首都にいるんですけど。

王国からの正式な使者として発つっていうなら、一回本国に戻るってことですか?

それに、ベーゼの外はすでに真冬で極寒の状況なのでは?

首都内は常春の状態で忘れてますけど、俺達のベーゼ入りもギリ街道が雪に閉ざされる前だったんでしたよね」

「そういえばそうだったね」


創世神の加護だとかで、シャルティア神皇国内、特に首都ベーゼ周辺は冬季にも関わらず穏やかな気候が続く。それで忘れがちになるが、外は猛吹雪と豪雪で一般的に旅には向かない時期である。生活必需物資など交易品の運搬は除き、急を要さない外交的な行き来などは通常なら冬季は極力避け、春を待つものだ。


「外交の取引だったら春まで待って相手をヤキモキさせるって手もあるけど、今回は使えないな」

『門と番人の妖精の状況を考えると、そんな余裕はない。春まで待ってはそれこそ手遅れになる。

時間を与えて準備されてしまうのも避けたいからな』

「先手必勝だな。同時にこちらの準備時間も限られてはしまうが」

「あの、仮にも殿下のご婚約となると王国内でもご婚約の発表とかいろいろしなきゃ信ぴょう性に欠けませんかね?」

『シャルティアからの連絡は書面だけで、直接人が来たってわけじゃない。だから王国内で王弟婚約のパフォーマンスまでして見せる必要はないだろう。その辺の細かい齟齬を疑わせる前に、一足飛びに神皇国の門を叩いちまえばいい。

とにかく、神官からの問い合わせの返書を準備しつつ、王国の正式な特使っぽく見せるための物資を積んだ荷を大至急国境付近まで向かわせる。それまでにそっちでもいろいろ必要な準備をしておいてくれ。

そんで、特使の体裁を整えたら、待ちきれなくてもう来ちゃいました☆って言って神域に押しかけろ』

「うわぁ……」


どう考えても迷惑千万な電撃訪問客である。だが、この際あちら側がどう思うかなどは構っていられない。

そこでふと、自分達がベーゼに着くまでに辿った行程を思い出し、メイベルが疑問を口にした。


「でも、大至急って言っても、今からフェアノスティ王都を発ったんじゃ、ベーゼ到着まで二カ月くらいかからない?」


流石に時間がかかりすぎではないだろうかと思う。

だがそれを聞いたレッドは「まさか」とにっこり笑った。


「そこはほら、フェアノスティならではのとっておきの手があるのさ」


いつもの調子で悪戯っぽく言うと、レッドはナザレと「アレを借りて」『ああ、アレか』などとごにょごにょと内緒話を始めた。

メイベルはとっておきの手とはなんだと尋ねたが、これまたいつもの調子で「どうせなら自分の目で見たらいいよ」とはぐらかされてしまった。


それからは、マルゴ&メリー商会のナルシーにしばらく店を閉めることを伝えに行ったり、念のために認識阻害機能付きの外套を人数分用意したりと、事前準備を行った。

そして三日後、メイベル達5人は秘密裏にシャルティアの国境の宿場街ケッタまで移動した。

当然、通常の移動手段では到底間に合わないので、レッドが“妖精の道”と呼ばれる転移魔法を使ってくれた。


この世界と、妖精達の住む世界、二つの世界の境界に作られたのが妖精達が巡る門。“妖精の道”の魔法は、世界の境界に門とは比べ物にならないほどの小さな綻びを二つ作り出す。片方の綻びから一旦妖精達の世界へ入り、もう片方の綻びから再びこちらの世界に戻るという魔法だ。妖精の世を経由することで、こちらの世界の遥か離れた二地点間をほんの一瞬で移動ができるらしい。


「要は、二つの場所でそれぞれ境界の壁に小さな虫食い穴を空けて、そこからちょこっと妖精の世に入り込んで通らせてもらうイメージ」

「なんかちょっと嫌な例えだな」


じゃあ今から自分達は世界の境界をかじって穴を空ける虫になるのかと思ったメイベルである。

門とは違って“妖精の道”で作った小さな綻びはすぐに閉じるので、世界の理を崩すほどの影響はないという。その代わり、大人数や大容量の物、例えば軍隊やら大量の荷を積んだ馬車などは通せないとのことだった。


物資を受け取るのはケッタよりさらに南、シャルティアとフェアノスティそれぞれの国境のちょうど中間くらいの地点らしい。

ローゼス達三名はケッタの街に残り、メイベルはとっておきの手とやらの種明かしも兼ねて物資の受け取りに行くレッドに同行を申し出た。そして、再びレッドが開いた“妖精の道”を通ってナザレから連絡があった地点に着いてみれば、そこは一面の銀世界だった、というわけだ。

吹雪くほどではないものの、雪混じりの北風にレッドがガタガタと震え上がる。


「だからそのカッコじゃ寒いよって言ったじゃん」

「北部の冬って、こんな寒いの……? さっきまでいた宿場街よりさらに寒い」

「ベーゼからはだいぶ遠いとはいえケッタの街もシャルティアの中だから創世神の加護とやらが働いているのかもね。

うちの村もフェアノスティ王国の中じゃ北寄りだったし、山の中だったから雪は深かったな」


さすがにここまでじゃないけどね、と付け加えたメイベルは、ローゼスが用意してくれた綿入れの上に厚手の外套と手袋に帽子までかぶってもっふもふの北国仕様。

一方のレッドは、普段着ている魔法使いのローブの上にフェアノスティ王都付近でよく用いられている冬用外套のみ。魔法もあるから大丈夫と豪語していたが、予想を遥かに超える低温と豪雪に速攻で陥落したレッドは、こちらもローゼスが念のためにと持たせてくれた上着を外套の下に着込むとようやく落ち着いた。


「本気で凍るかと思った……北国の冬舐めてた……」

「また一つ賢くなったね。

レッドくんは北方まで来たのは初めて?」

「王城から離れること自体珍しいから。

誰かに荷を運んでもらわなくても妖精の道で皆で一度王都まで戻ってもいいかとも考えたけど、一回城に戻ったら心配性な人たちが二度と外へ出してくれなさそうな予感がしてさ……」

「なるほどね。届けてくれる人には長旅をさせちゃって申し訳ないけど、荷を待ってる間にいろいろ準備できたし、よしとしよう」


そんな会話をする間、メイベルはキョロキョロと周りを見まわしていたのだが、フェアノスティ王国から運ばれてくるという荷は見当たらない。


「場所、ここで合ってる?」

「合ってる。けど万が一こっちを見つけてもらえなかったら困るからここに目印を作ろうか」


メイベルが首を傾げると、その場にしゃがみ込んだ魔法使いは「冷たっ」と言いながら両手を足元の雪の上に置いた。

レッドの両手から、魔力がゆっくりと溢れ出す。それと共に、彼の周りを取り巻く風がふわりと舞い始めた。頬を、髪を、撫でていく風は、先ほどまでの切り裂くような冷たさではなく、強張らせていた身体の力が自然と綻んでいくような温かさを含んでいる。


(風と、温かいのは火魔法……?)


メイベルが思ったそばから、レッドの手の周りの雪が解け始める。溶けた雪は水となり、その水すら魔法で操られて二人の周りから離れていく。やがて一面雪だった場所に、ちょっとした広場くらいの乾いた地面が出来上がった。石畳が敷かれているところを見ると、ここが街道の上で間違いないようだ。


「ひとまずこれくらいでいいか。あ、ほら、来たよ」


レッドが南の方角を指差すと、確かに、民家の屋根ほどの高さを、こちらに向かって移動してくる何かが見えた。


「馬車? ていうか、あれ、空を飛んでる?」


空中を進み、真っすぐこちらへと近づいて来る四頭立ての豪奢な馬車。飛んでいるのだから当然、通常聞こえてくるはずの車輪の音も、馬の蹄の音も、一切しないまま滑るようにこちらに向かってくる。

馬車そのものもだが、それを引いている馬も普通の馬ではなかった。

姿は馬とよく似ているが、青く透き通るような輝きのたてがみと、同じ色の蹄と瞳を持ち、その全身は光を纏ったかのように淡く発光して息を呑むほど美しい。そして馬と明らかに異なるのは、背には白く美しい四枚の羽根があること。


「レッドくん、あれって、もしかして幻獣の……?」

「天馬だよ。風魔法を身にまとって、空を駆けることができる幻獣。

フェアノスティ南部にある妖精の森に、ほんの僅かだけ生息してるのを、数頭手懐けた方がいてね。

今回特別にお借りしてきたんだ。

すごく足が速いから、フェアノスティ王都からベーゼまで二日ちょっとで着く」

「早っ!! 二カ月を、二日!?」

「天馬に合わせて馬車も風魔法を発動する特別仕様にしてるんだって!

カッコいいでしょ!!」

「たしかにこれはとっておきの手だね……」


そんな奥の手を自分が思いついた作戦をきっかけにして使わせてもらうことになるとは。言い出しっぺになるメイベルとしては、有難いやら申し訳ないやらだ。

やがて天馬が引く馬車は二人が経つ石畳が露出した場所付近まで来ると減速しながら空中を一回りし、ゆっくりと地面に着地した。

メイベルは目の前で止まった馬車の車軸に取り付けられた風魔法の源と思しき魔晶石にそっと触れ、そこに刻まれた魔法陣をじっと見る。

魔法陣の書き方は、書き手の癖が往々にして出る。それこそ見る人が見れば署名などいらないほどに。そしてそこにに刻まれた魔法陣の汲み上げ手法に、メイベルはすごく見覚えがあった。


──メイベル見てくれ!

  この前行った南大陸の国の土産屋で見つけたんだ。

  一回嵌めたら合言葉を言うまで外れなくなる両手用の腕輪!


旅好きの、魔道具に詳しい変わり者ハーフエルフの顔が脳裏に浮かぶ。


(これもビックリのひとつになる、のかな)


ふわりと笑んだメイベルの横で、ガシャリと金属音をさせて馭者台から鎧姿の騎士が降りた。レッドの前に歩み寄った騎士が、兜を取り跪く。


「アルフレッド王弟殿下、王立騎士団第一師団所属セドリック・ルーバー、ご用命の物資をお届けに上がりました」


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