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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【26】彼女と彼の秘密(2)



レッドの腕に囲われたまま見上げれば、先ほど戯れのように変えて見せた瞳の色も出会ってから見慣れた澄んだ青に、そして、いつまでたっても見慣れない目に鮮やかすぎる赤い髪は光沢を持つ黒に変じていた。


(いや、変わったんじゃなくて、戻ったのか)


高魔力保持者の象徴。王家ですら数人しか生まれたことがないという黒い髪。

ただ、すべての光を吸い込んだような漆黒だった母のとは違い、レッドの髪は鋼を思わせる鈍い光沢があった。


「アルフレッドが、本当の名前なの?」

「そうだよ。レッドは愛称」

「赤が好きだから、ってわけじゃなかったんだ……」

「赤は好きなのは本当だよ? だからピッタリな愛称でしょ?」

「もうこの際だから聞いちゃうけどさ、レッドくんのフルネーム、教えてくれる?」


そう尋ねたメイベルに微笑みながら、レッドは一歩下がって片手を胸に添え優雅な仕草で一礼した。


「申し遅れました、レディ。

(わたくし)はドナート・アディル・フェアノスティが第三子、アルフレッド・アディル・フェアノスティと申します」


顔を上げたレッドの微笑を前に、彼の家名を聞いたメイベルが固まってしまった。


「フェアノスティ……」

「滅多に生まれない、珍しい黒髪の王族のうちの一人、だよ」

「王子サマってこと……?」

「兄が王位を継いだから、今は王弟って呼ばれてるけどね。

兄上の子供たちがまだ幼いから今はまだ王族(アディル)のままだけど、彼らがもう少し大きくなったら準王族(ソイール)になる予定」


いつものようにおどけた口調に戻ったレッドに、メイベルの金縛りも少し解ける。でも驚愕はまだまだ収まらない。

赤系の色が好きだから赤い髪にしていると豪語していたから、本当の髪色でないのも分かっていたし、知り合った時から彼らは全員貴族であろうとも予想していた。

でもまさかそのうち一人が王族だとは。

メイベルは生まれも育ちもフェアノスティの山奥で、王家の威光はさほど感じないまま大きくなったが、それでも王侯貴族とは敬意を払う対象であるということは学んでいた。

出会って以降の目の前の男とのアレコレを思い返し、メイベルは徐々に顔色を失っていく。


「もしかして私……王族相手に、いろいろやらかしちゃってない?」

「いろいろ?」

「いやだってタメ口だし……

泉に落としてカエル呼ばわりしたし、苦い薬を原液で飲ませたし、嫌がってるのに無理矢理呪いみたいな魔道具を付けさせたりもしたっ」

「泉に落としたのは神殿兵から隠そうとしただけで、まぁ冷たかったけど、わざとじゃないでしょ?

薬を原液で飲んだのは僕自身だし、魔道具だって澱みの排出のためのいわば医療処置みたいなもんじゃない」

「や……でもでもっ」

「僕は確かに王の弟だけど、身体も弱くて国政には全く関わってない、名ばかり王族なんだ。

だから不敬だとか、そんなの一切考えなくていいし、今まで通りただのレッドとして接してよ。

それに、せっかく仲良くなったのに今更敬語使われたりしたら悲しいよ?」


レッドはそう言うが、根っからの庶民のメイベルとしては正直どうかと思う。

でも確かに今更な気もするし、さんざんレッドくん呼びして定着してしまっているのでそれを改められるとも思えない。なにより「敬語はナシで」というのが王弟殿下ご本人のご希望だ。

とりあえず、シャルティアで行動を共にしている間だけはお言葉に甘えておこうと腹を括った。


「あの、それを言うなら我々だって、一国の王女殿下相手にさんざん不敬を働いたことになるのでは……?」


恐る恐るという感じで申し出たヴィーゴに、今度はメイベルの方が慌てて首を振る。


「止めてくださいよ! それこそ、さっきまで私自身知らなかったことだし、今までもこれからも、私は魔道具師兼薬草師のメイベルです!」


それを聞いたレッドが、何かを思い出したようにぽろっと零す。


「よく考えたら、君が関わってきた人たち、結構ビックリする面子ばっかりっぽいよねぇ」

「は!? ちょっと、まだ他にもサプライズあんの!? ねぇっ!」


その台詞に思わずメイベルが胸倉を掴んで揺さぶると、王族で魔法使いの青年は苦しいよと言いながらもあははと笑っている。


「ナーくんが竜王でレッドくんが王弟殿下ってのも勘弁してほしいくらいビックリなのに……!」

「僕からのサプライズはもうないよ」

「ほんとでしょうねっ!?」

「僕からはね」

「~~~~っ」


僕からはとわざわざ言うからには、まだ他のサプライズがあるのは確定だ。


(ローゼスからいろいろ聞くのも結局先延ばしにされているし……私の周り、というよりたぶん母様の交友関係がオカシイんだわ)


母と、ナザレを筆頭にちょくちょく村に訪ねて来ていた母の友人達を順に思い浮かべ、心の中で悪態をつく。


「…………もういい。まだ他にもビックリがあるならそれが出たそのときにあらためてビックリする」


最終的によくわからない理屈で無理やり納得したらしいメイベルに、一同はそれぞれに笑った。

両手を腰にあて、不機嫌な顔のままでメイベルが尋ねる。


「で?

大事(おおごと)にするって、具体的にどうするの?」

「君には今から、王弟の婚約者になってもらう」


レッドから帰ってきた返答をふむ、と頷きかけたメイベルが再びカチンと固まった。


「婚約者!?」

「そう」

「王弟の、ってことは……レッドくんの?」

「そーいうこと」

「だからなにがどうなってそうなんのよ!? 説明っ!」

「まあまあ、今から説明するから。

ことの顛末は、そうだな……

城下にお忍びで遊びに行った僕が、街娘として暮らす君と運命的な出会いをした、っていうのはどう?」

「……なんか、恋愛小説の冒頭部分みたいね」

「でしょ?

僕と君は出会ってすぐに燃え上がるような恋に落ち……」

「…………」

「あーはい、そのものすごーく嫌そうな顔は一旦引っ込めようか」


話の流れにメイベルは何とも形容しがたい表情になり、ローゼスはすべての表情筋の動きを止めてしまっていた。表情の抜け落ちた彼の様子に気付いたヴィーゴが小さくヒッと声を上げ、サリシャに小声で問いかける。


「レッド様、ローゼスさんにぶっすり刺されたりしませんかね?」

「それは別にして、こやつは一度程よく痛い目に会えばいいと思うぞ」

「聞こえてるよ、二人とも。ていうか程よく痛い目ってなに?」


ひそひそ話を隠そうともしない連れ二人をじろりと見るも、レッドは「まぁいいや」と言ってあらためてメイベルに向かい説明を再開した。


「とにかく、二人は恋に落ち、結婚の約束を交わした。

で、婚約したちょうどそのタイミングでシャルティアからの問い合わせが舞い込んだ。

黒髪の魔法使いの子供で、薔薇色の瞳を持つ存在を探しているらしい、と。

薔薇色の瞳といえば皇王の子供だというのを知った僕たちは、問い合わせに応じ、父であるかもしれない皇王陛下に会いにシャルティアを訪れることにした────という筋書きにする」

「ふむ……?」

「愛してやまない婚約者の身が心配で仕方ない僕は、彼女に同行して神域に入る。

当然、王弟とその婚約者なのだから護衛も付いて来る。だから何人か随行者がいても全然不自然じゃないだろう? これなら、皆で一緒に神域に潜入できる。

大々的に名乗り出てフェアノスティ王国からの正式な特使として入国。しかもそこに王族のおまけまでくっついてくるとなれば、あちらとしても表立って危害を加えようとすることも冷遇することもできない、ってわけ」


熱烈な恋愛をしたという設定は横に置いておくとして、レッドの案は有効だとメイベルも思った。

神殿兵のマテオとギレルはベーゼ市街の小神殿所属の下級兵で、神域内へ入ることは許されていないそうだ。

他にも、ベーゼに来て以降現地の人と少なからず関わる中で見聞きしたが、神域の中がどうなっているのかの情報はほぼ集まらなかった。

味方もいない、未知の場所へ行くのなら、一人でも多く信用できる仲間がいる方がいい。


『名乗り出て、お前ひとりで行くつもりだったわけじゃないだろう?』


ナザレの問いかけに、伏せていた目を上げたメイベルが大好きな魔法人形と目を合わせて答えた。


「ローゼスと二人で、って思ってたよ。

でも、皆が一緒に来てくれるなら、心強い。

ね、ローゼス?」


大切な少女の手を握り、藤色の優しい眼差しでローゼスが頷いた。


「はい。ヴィーゴ様の剣技、素晴らしかったです。頼りにしております」

「師匠にそう言っていただけて嬉しいです!

サリシャ様も俺なんかよりずっとお強いんで!」

「えっ!? そうなの!??」

「そうだと思っておりました。私の身体が万全なら、お手合わせをお願いしたかった」

「こちらこそだ。落ち着いたら今度こそお相手願いたい」

「師匠、俺も!」

「はい。是非」

「ねぇ、僕は??」

「レッドくんは神域内の魔素の澱みで倒れないように細心の注意を払ってね。なんか対策グッズ考えないとだわ」

「えぇ~!?」


そんな一同の様子を見て、ナザレも頷く。


『もう察しはついてると思うが、シャルティア神皇国の神、創世神と呼ばれる存在は、かの地の門の番人である白い妖精だ。

神域の中、おそらく大神殿地下にシャルティアの門はあり、妖精シャルトもそこにいる。

代々、シャルトから加護を得る存在なのは本来シャルティア皇王のはずで、その証左として皇王の血を引く子はシャルトと同じ薔薇色の瞳になる。

シャルトは自ら選んだ皇王ただ一人に加護を、シャルティアの大地には祝福を与えてきた。妖精であるシャルトが神として崇められたのもそういう訳だ。

だが今現在、妖精シャルトから加護を得ているのは────』

「ローゼス……」

『そして、シャルトの加護を受けているローゼスはシャルティアを離れ、皇王の子であるお前とその母であるアシュリーをずっと傍で護ってきた。なんでそうなったか、詳しくは全部終わってからローゼスの口からゆっくり聞くといい』

「……わかった」

『とにかく、この(いびつ)でこんがらがった状況が、シャルティアの魔素の澱みの原因と、根深くかかわっている。

お前とローゼスの二人が、現状を打開するための鍵だ。

アルフレッドおよび他二名は二人を護りながら、神域内に入り状況を確認。

シャルティアの門近くにいる妖精シャルトに会い、メイベルが澱みを浄化する。

神皇国としては、フェアノスティ王国のことは気に食わんが、かといって事を構えるつもりはないようだ。国としては表立って外交問題を起こすような行動はとらないだろうが、皇王はじめ王族達や神殿側がどう出てくるか、油断はできない。

あちらとの境界線である門が不安定なのも気にかかる。妖精の狂化が進めば、いつ魔獣が溢れかえってきてもおかしくない。

気合い入れろよ、クソガキ』


皆の視線が集まる中、黒髪の魔法使いは事態の鍵を握る二人をじっと見て、微笑んだ。


「もちろん。最愛の婚約者とその家族の未来がかかってるんだからね」


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