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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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【23】水鏡の向こう

コメントにブックマーク、ありがとうございます。

もうものすっごく励みになります。

引き続きがんばります。


「ローゼスっ……!」


薬草店に戻るなり、メイベルはローゼスの姿を探した。

マルゴ&メリー商会に立ち寄りナルシーに話を聞いた後、「大丈夫、大丈夫」と自分自身に言い聞かせながらも心配は増すばかりで、薬草店に向けて歩き出した足は、早歩きから小走りに、やがて駆け足に変わった。

自分が昨日かけた『閉店』の看板がかかったままの正面の扉を開け、無人の店内を足早に抜けて奥に向かう。

不安と焦りがぐちゃぐちゃになった気持ちを抱え、メイベルは居間へと続く扉を開いた。


「おかえり、メイベル殿」


迎えてくれたのは、長椅子に一人ゆったりと座って何かの書物を捲っているサリシャだ。


「首都内の様子はどうだったかな?」


尋ねられたのに答える余裕がないメイベルは、きょろきょろと魔法人形の姿を探す。


「サリシャさん、ローゼスは!?」

「ローゼス殿なら……」

「メイベル?」


台所から手を拭きながら顔を出したローゼスのいつもと同じ姿を見て、メイベルは張りつめていた気持ちを吐き出すように脱力して蹲った。


「ローゼスぅ……よかったぁ……」


いつの間にかお気に入りの赤い髪色に戻していたレッドが、しゃがみ込んだ彼女の背中を撫でる。


「首都で、何かあったのですか?」


訝し気に問うローゼスに、「ちょっとね」と苦笑いしたレッド自身も、額にびっしり汗を浮かべていた。


「神域近くまで行ってみたらさ……ちょっと、思ったよりずっと、澱みが増してて、それでローゼスさんのことが心配になったんだよね。

ここはローゼルムに囲まれてるし、影響は出にくくはあると思う。落ち着いたら浄化の魔法をかけるといいよ」


少し落ち着いてきたメイベルは、蹲ったままレッドを見上げる。


「……そうする。ごめん、体調悪いのに走らせて」

「いいよ。薬草店(ここ)まで戻ってくれば良くなるんだから問題ないし」


はい、と差し出された魔法使いの手に、メイベルは魔力止めの腕輪をした手で掴まって立ち上がった。

その様子を少しだけ目を細めて見ていたローゼスを、台所からひょっこり顔をだしたヴィーゴが呼ぶ。


「師匠~、ジャガイモとニンジンの皮むき終わりましたー!」

「はい、ありがとうございます」

「え、ししょう……?」


彼を師匠と呼ぶヴィーゴとそれに平然と答えているローゼスに、メイベルが怪訝そうな視線を送る。 


「ええっと、ですね……」


困ったように眉尻を下げるローゼスを見て、サリシャが助け舟を出した。


「私から説明しようか」


 * * *



「おー、結構広いですね!」


レッドから受け取った魔晶石の鍵を手に二階の空き部屋の扉を開けると、明らかに本来よりも広さがある空間に繋がった。見上げれば室内のはずなのに青い空が見え、あとは壁も床も真っ白だ。

ローゼスはしばらく黙って天井に映し出された青空を見ていた。


「どうかしましたか?」

「いいえ。ここは、高さも結構あるということでしょうか?」


ローゼスが尋ねると、ヴィーゴから「みたいですね!」と元気な答えが返ってきた。


「鍵になってる魔晶石は、好きな武器を想像すればその形に変化するそうです。何でもローゼスさんがお好きな武器を使ってください」

「便利ですね」

「フェアノスティの騎士の訓練施設とかではよく使われている類のものです。

練習用の剣や槍もあるにはありますが、全種類の武器の実物を用意するよりこういったものの方が効率的で。

保管場所もとりませんし」

「魔晶石を創り出せる魔法使いがたくさんいるフェアノスティならではなのでしょうね」

「そうかもしれないです。

あ、でもローゼスさん、魔力ないって言ってましたよね?」

「そうですが、大量の魔力を消費するのでなければ魔道具は扱えます」

「一体どうやってるんですか?」


ヴィーゴの質問に、ローゼスが右手の中指に嵌った細い指輪を示しながら説明した。


「これを使っています。

指輪についたこの小さな魔晶石に魔力を込めてもらっていて、それで魔道具を起動しているのです」

「ほぇー、なるほど。それもメイベル嬢の作ったものですか?」

「体内の魔力が減っているようだが、手合わせなどして大丈夫なのか?」


感心するヴィーゴの隣で、サリシャがローゼスに問いかけた。


「少しくらいは大丈夫です。

村でも狩人を目指す若者たちの剣術指導をしておりましたし」

「……そうか」


いつも通りに微笑んで答えたローゼスに、サリシャは一拍置いてから頷いた。

では早速と、ヴィーゴが魔晶石を長剣に変化させた。彼が持ち歩いている自前の武器も長剣なので、得意武器ということだろう。

それを横目で見ながら、サリシャは魔法空間から出るべく外への扉を開けて振り返った。


「では私は外で待機している。しばらくしても出てこなかったら様子を見に来よう」

「了解です!」

「……頑張れよ、ヴィーゴ」

「? はい、頑張ります」


連れ二人からの度重なる激励にヴィーゴは首を捻りながら、念のために開けておくと言われた扉からサリシャが出ていくのを見送る。


「なんかレッド様にも似たようなことを言われた気がしますけ、ど……!?」


魔法空間内へと視線を戻したヴィーゴの目に、ローゼスが魔晶石を長い柄を持つ武器へと変化させる光景が飛び込んできた。

ハルバードというその武器は、は槍と斧が一体化したような形状をしている。斧部分があるため通常の槍よりも重いのだが、ローゼスはそれを軽々と扱って重さや感触を確かめている。その動きには迷いも隙もない。

なんとなく「この人強いな」とは思っていたヴィーゴだが、笑顔を絶やさないままのローゼスから伝わってくる異様な威圧感に背筋に冷たいものが走った。


「マジか……頑張れってこういうこと!?」

「手合わせは久しぶりですので、お手柔らかにお願いします」



 * * *



「その後、互いに長剣、短剣、ついでに無手でも手合わせをして、完敗したそうだ」

「あぁ~……」

「へぇ~」


メイベルとレッドが、それぞれに納得したような声を上げる。


「やっぱ強いんだ、ローゼスさん」

「ローゼスさんの太刀筋や体捌きは見惚れるほど綺麗ですごく勉強になります。

いろいろ話を聞かせていただきたくて、調理のお手伝いをさせていただいてました!」

「それで、師匠か」

「ローゼスは薬師の村でも少年や若者に向けて武器の扱いや体術を教えてたしね……」

「滞在中にまた手合わせしていただけたらと思うんですが……」


ヴィーゴに熱烈な眼差しを向けられてローゼスは困ったように微笑む。

基本的に人と、特に向上心がある若い者と関わるのは嫌いではない彼だから、本当は引き受けたいところなのだろうが────


「今は状況が良くないね」


メイベルよりも先に口を開いたのは、彼女の隣にいたレッドだった。


「妖精の狂化の兆候を強く感じた。

今日手合わせが出来ただけで満足しておきなよ」

「そうですよね……すみません」

「いえ、こちらこそ、ご期待に添えず申し訳ありません」


ヴィーゴもだけでなくローゼスも残念そうだが、体内魔力を消費するとその分妖精から送られてくる澱みを含んだ魔力を取り込んでしまう恐れがある。状況的にあまり身体に負担をかけすぎるのはよくないだろう。

その時ふと、レッドの耳元でまたきらりと何かが光っているのにメイベルが気付いた。


「レッドくん、やっぱり光ってるよね、それ」

「あー……」


指差された耳元に触れて、レッドは分かり易く嫌そうな顔になった。


「まぁ、今ならいいか……」


溜息混じりにそう言うと、レッドは耳に着けた金色のピアスに指先でトンと軽く触れて魔力を流した。

その途端──────


『おぉい!! 定期的に連絡入れろっつったろうが!!!

どんだけ音信不通になってんだよ!!』


少年の甲高い怒鳴り声が聞こえた。


「……うるさ」

『なんだと、このクソガキっ!!』


どうやら耳についているピアスは通信用の魔道具であったらしい。耳元で大声で怒鳴られたような状態のレッドは、耳に指を突っ込んでもごもごと文句を言っている。


「声おっきいよ、人外級じじい」

『だれがじじいだ! 連絡つかなくてどんだけ心配したと思ってんだ!』

「ごめんて。魔力が使えなくなってたんだから仕方ないだろ?」

『は!? 魔力が使えないって、どんな状況だよ!

まさか、神殿と揉めて牢屋にでも入れられたんじゃないだろうな!?」


レッドと会話する相手の姿は見えないものの、メイベルは何となく聞き覚えがある声のような気がした。

それと、話の流れ的に、自分には謝罪する必要があるように思えて恐る恐る声をかけてみる。


「あの、横から割り込んですみません。

彼の体調回復のため、私が魔力使用の制限をしたもので、それで魔道具の使用も出来なくなっていたんだと思うんです」


おずおずとそう声をかけ、名乗ったものかとメイベルが迷っていると、通信相手の驚いたような声が返ってきた。


『その声、メイベルか??』

「え……」

『おい、()()()()()()! 顔見て話したいから()()!』

「えぇ~~~~」


急な頼みごとをされ、レッドはものすごく面倒臭そうな返事をする。


『えぇ~、じゃねぇ! できんだろ?』

「我儘じじぃ……」

『なんだと!?』

「わかったから。今いる場所は“箱庭”?」

『そうだ』

「じゃ、そこの水盤と()()。準備するから待ってて」


(アルフレッド……?)


聞き慣れない名前で呼ばれた魔法使いは、ガシガシと頭をかきながらメイベルの方を振り返った。


「水を張れる物って、何かない?」

「手桶とか?」

「……それって、もしかしなくても前に僕が吐いたやつ?」


メイベルがこくりと頷くと、レッドは案の定「なんかヤだな……」と顔を顰めた。


「じゃあ大きめの皿でもいいや。それに水を張ってくれる?」


ローゼスが台所にある中で一番大きな皿を持ってきて居間の机の上に置き、メイベルがそれに水差しから水を注ぐ。

レッドは張られた水の表面に人差し指でちょんと触れ、小さく呪文を呟きながら、濡れた指先で皿のふちをくるりとなぞった。

すると水の表面に波紋が広がり、先ほどまで移っていた居間の天井ではない景色が映し出された。

遠隔地との通話をするのに用いられてきた古い魔法、水鏡(みかがみ)の魔法である。


『メイベル!』

「やっぱりナーくんだ!」

『久しぶりだな』


水鏡に映し出された銀髪金眼の少年の姿に、メイベルは嬉しそうに笑った。


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