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運命なんてお断り ~薔薇の瞳の魔道具師、虚弱体質の魔法使いを拾う  作者: 錫乃


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21/45

【20】妖精の気配

ブクマありがとうございます。

だいぶ間が空いてしまいました。

2026年最初の更新です。



サリシャとヴィーゴに窘められたレッドは、もっとゴネるのかと思われたが案外すんなり魔法書を諦めた。


「魔法書はあとでゆっくり読むことにしよう」


そう言うと、レッドはうーんと伸びをした後、すぐさま魔素を巡らせて魔力の全回復を行った。

シャルティア入国当日以降、浄化の魔法は使っていない。先に結界内の浄化をした方がよかったのではとメイベルは言ったのだが、今の薬草店周辺の魔素の状態なら特に問題ないという。


「僕もそう長いこと本国を離れていられない。

それに、魔素の澱みは加速度的に濃くなる。そろそろ動き出さないと。

確かめたいこともあるし」


そうは言うものの、レッドの額にはうっすらと汗が滲んでいて、無理をしているのは間違いない。

メイベルとしても早く白い妖精を見つけたい思いはあるから焦る気持ちはわかるのだが。


「数日前はまだ神殿兵さん達が市街地にたくさん出てた。

動き出す前に、私一人で市街地の様子を窺いに行ってくるから、少し休んで待ってて……」

「じゃ、一緒に行こうか」


当然とばかりに早速首都に繰り出そうとするレッドをメイベルが押しとどめる。


「でもレッドくん、まだ魔力回復したばっかりで顔色悪いよ?」

「このくらい平気。ていうか僕的には今だいぶ元気な方だから」

「私的にはまだふらついてるように見えるから。

それにきっと神殿兵さんたちが警戒してるから」

「顔はフードで隠してたし、魔法使いのローブじゃなければわかんないでしょ」


確かに、フードで隠していて人相がバレてるわけではないなら、ローブを脱いで一般的な庶民の服になってしまえば町の雑踏に溶け込めるかもしれない。そう思って、メイベルはあらためて目の前の青年をじーっと見つめてみたのだが。


「……やっぱ駄目」

「え?」

「レッドくんの髪、目立つし普通に職務質問されるから!」

「え、これ、駄目?」


予想外だという顔で自分の頭を指差す魔法使いに、メイベルは呆れ気味にこっくりと頷いた。


「逆に、なんでその色で目立たないと思ったのよ。フェアノスティじゃ真っ赤な髪は珍しくないわけ?」

「魔法や魔法薬でわりとみんな好きに髪色を変えてるし。まあここまでハッキリした赤はなかなかいないけど」

「やっぱり珍しいんじゃない」

「じゃあ普通に金髪や銀髪は?」

「普通って……シャルティアでは金髪銀髪も珍しいよ」

「うーん。なら、メイベルと同じ色味にすればいい?」


レッドがぽん、と掌を合わせて小さく呪文を唱えてから、両手で赤い髪をかき上げる。すると鮮やかな赤だった彼の髪が、メイベルの髪とよく似た茶色へと変化した。


「これで目立たなくなったでしょ?」


どうだと言わんばかりのレッドだが、言われた方のメイベルは何と答えていいものかと迷う。

出会って以降ほとんどの時間、澱みに当てられて唸っていたり魔法禁止でしょぼくれていたので忘れていたが、レッドの顔は到底一般人には見えないほどの美形だ。

髪色は確かに変化はしたものの、目立ちすぎる赤い髪の美青年が、髪色だけはありふれているがあり得ないくらいに顔が整った青年になっただけだった。

髪色がなんであっても、彼の顔立ちではただそこにいるだけで人目を引いてしまうだろう。


「レッドくんを目立たなくしようと思ったら顔の造作から変えないと駄目だわ……」

「なにそれ怖っ!」

「それに、街中で魔法を使っちゃわないかも不安」

「そこまで不注意じゃな……」

「いや、充分あり得るな」


メイベルの懸念に即座に同意してくれたのはサリシャだ。今だって、話の流れのまま即座に魔法を使って髪色を変えてしまったばかりだ。習慣になってしまっているものは案外侮れない。

結局、ローゼスの認識阻害外套を貸して姿を誤魔化し、かつメイベルがお目付け兼案内役で張り付くことになった。


「メイベル殿、うちの馬鹿をよろしく頼む」

「わかりました。私の手には負えない気もしますが善処します」

「みんなして酷くない?」


抗議するレッドの横で、ヴィーゴがローゼスの方に懇願するような視線を向けた。


「あの、ローゼスさんにお願いがあるんですが」

「私にですか?」

「はい! もしかしなくてもローゼスさん、対人戦闘技能、ありますよね??

身のこなしで何となくわかりました。

可能であればぜひ、手合わせをお願いしたいです!」

「でも、ローゼスは……」


澱みの影響が出ていることを思うと断った方がいいだろうとメイベルは考えたのだが、当のローゼスがにっこり笑って申し出を受けていた。


「いいんですか!? ありがとうございます!」

「ローゼス、大丈夫なの?」

「ええ、少しくらいなら。

メイベルとレッド様がお出かけの間、私はお二人にお相手していただいております」


村でもよく、ウィルたち若者の技術指導を請け負っていたローゼスである。久しぶりに指南役をしてみたくなったのかもしれない。


「わかった。でも、無理はしないでね」

「はい」

「じゃあ訓練用の場所を準備しよう。二階の空いてる部屋借りていい?」

「え、いいけど?」

「空間魔法を設置してくる。あと着替え。ちょっと待ってて」


あれをこうしてああしてと何やらぶつぶつ言いながらレッドは薬草店に向かう。そして程なく、彼らが使っている客室の窓が開いた。


「できたよ」

「早っ!!」


驚くメイベルの視線の先で、窓枠を蹴ったレッドが外へと身を躍らせた。

彼がいる客室は、二階である。


「ちょぉっっ!?」


空に浮く彼の足元周辺に風が巻き起こり、ローブから着替えた服と、茶色くなったレッドの髪が不自然に揺れる。途端に落下速度が緩やかになって、レッドは何事もなかったかのようにメイベル達のいる薬草園横の草地へと軟着陸した。

開いた口がふさがらないメイベルの目の前で、「あ、鍵忘れた」と呟いたレッドが客室に向けくるりと円を描くように指先を動かすと、二階の窓から太陽光を跳ね返して光る小さなものがいくつかひゅーんと飛んできて彼の掌の上に舞い降りる。

魔力の無駄遣いだと言おうにも、見ている傍からぎゅんぎゅん魔素を循環させて魔力が回復していっているのが感じられる。これだけ日常的にじゃんじゃか魔法を使って生活をしていれば、使えなくなったらさぞ窮屈だったろう。


(母様もここまで奔放じゃなかった……)


アシュリーも物を取り寄せるたりするのを魔法に頼ることは確かにあったが、高所から飛び降りるような真似はしたことがなかったと思う。

まあ、アシュリーが二階から飛び降りたりしようものなら、おそらくローゼスが危ないと怒ってぶち切れていたろうが。


「……母様って、アレでも常識人寄りだったんだなぁ」

「ん?」

「……なんでもない」


思わず零れた呟きに、レッドが首を傾げる。

たぶんこの自由人な魔法使いにはこれが通常運転なんだから、どう説明しても理解不能だろうと思うメイベルだった。

レッドは手招いてヴィーゴを呼び寄せると、先ほど風魔法で取り寄せた物を彼の掌の上に置く。


「この魔晶石が鍵。これ持って扉を開ければ魔法空間に入れる。

持ってない人が扉を開けてもただの空き部屋だ」

「ありがとうございます!」

「中に入る時は外にいる誰かに一声かけてから。鍵は一応みんなに配っといて。

中からの音も声も外には漏れないから、中にいる人が全員倒れたりしてた場合、気づかず助けが遅れて危険だからね」

「なんか怖い内容の台詞をさらっと言われた気がするけど、了解です!」


簡単に身支度を済ませ、メイベルはレッドと共に玄関を出る。

その際レッドがくるりと振り返った。


「ヴィーゴ」

「はい?」

「…………頑張れ。」

「え? あ、はい!」


ヴィーゴの返事に片手を上げて答えると、レッドは玄関の扉を閉じた。


「なに? さっきの」

「激励。」

「?」

「だってローゼスさん、かなり強いでしょ?」


さらりとそう聞かれ、メイベルは目を瞠った。

ローゼスの身のこなしでわかったとヴィーゴが言っていたのにも驚いたが、戦闘のプロである騎士とはそんなものだろうかとよくわからないなりに思っていた。だが、レッドは魔法使いだ。薬草店で家事しかしていないローゼスのどこを見て、そう判断したのだろうか。

レッドに尋ねてはみたものの、「なんとなく」という酷くい曖昧な答えしか返ってこなかった。

この話はもうお終いとばかりに、レッドはローゼスから借りた外套を広げたりバサバサと振ったりして感心している。

ひとしきり認識阻害魔法の術式などを確かめてから、彼は外套を羽織る。


「それじゃあ、僕たちは街歩きデートだね」

「……デートじゃなくて妖精探しでしょ」

「ベーゼに辿り着く前くらいには澱みに当たってふらふらしちゃってて、まだ首都内をちゃんと見てないんだ。だから、案内してよ」

「私だってシャルティアに来てまだ一カ月くらいだよ?」

「できれば街全体が見える高い場所がいいなぁ」

「全然話聞いてないし……」

「魔法で飛んでいいのならそれで解決なんだけど」

「駄目です。」

「でしょ?」


軽口を叩いて笑っているが、まだレッドの顔色は青白い。それでもこうしてすぐさま動き出そうとするのは、やはり彼の中にも焦りがあるからかもしれない。


(回復のためとはいえ、魔法禁止して足止めしたの、申し訳なかったかな)


メイベルもローゼスのためにはやく白い妖精を見つけたいが、レッド達の方も目的があってこの国に来ているのだ。

だが、メイベルのその考えを読んだようにレッドは微笑む。


「魔法が使えないのはキツかったけど、でもおかげで体調も戻ったし、薬草店に置いてもらってるから今後も澱みの影響は抑えられる。

助かってるよ」

「……ほんとに?」

「ほんとに」


整った目元を緩めたレッドの笑顔を、メイベルはじっと見つめる。

確かに、保護した当初に比べたら格段に体調は良くなったと思うし、身体から澱みの気配はほぼ感じなくなった。

魔力制限中なんとなく保護責任者的な立ち位置になっていた流れで、少々過保護気味になっているのかもしれない。でも相手は大人の男性だ。これ以上は口出しは不要かと、メイベルは黙って頷いた。

レッドが外した魔力制限の腕輪は再びメイベル自身が身に着け、外套も羽織る。


「胸元の魔晶石に触れると、認識阻害効果が発動する?」

「そう」

「思ったんだけど、これ着てたらお互いの認識も薄れて逸れるんじゃない?」

「そうよ。だから手を繋いで移動することになるの」

「おぉ! デートっぽくなってきた!」

「だからデートじゃないってば……はぁ、もういいや。

首都が見渡せそうな高い場所だっけ?」

「まずは現在のベーゼの状況を確認したいからね」

「西地区の小神殿に、観光客にも人気の鐘塔があるわ。そこからなら首都全体が見渡せるかも」

「じゃあ目的地はそこに決定。では街歩きデートに出発~」


レッドの宣言で、市街地へと向かって歩き出す。

目指す鐘塔がある小神殿までは、市街地を抜けていく必要がある。認識阻害の外套があるとはいえ、神殿兵に出くわす可能性は大いにある。

緊張気味に歩くメイベルを外套のフードの下でちらりと見たレッドが、繋いだ手をグッと引っ張って彼女を引き寄せ囁いた。


「そんなに周りを睨むようにしてたら逆に怪しまれるよ?

デートだとでも思って自然体にしてた方が、周囲に馴染んで溶け込める」


外套の認識阻害なしでは周囲に溶け込めない男の助言ではあるが一理ある。

メイベルはほぅとひとつ息を吐いて、肩の力を抜いた。


「街歩きってしたことないからわかんない」

「え、ないの?」

「ないよ。田舎育ちだって言ったでしょ?」

「村の中は?」

「用事があれば出歩くけど、基本的に家で研究とか制作とか……」

「色気ないねー」

「ほっといてよ。そういうレッドくんは女の子慣れしてそうね」

「僕もしたことないよ」

「嘘ばっかり」

「ほんとだよ。だから今回が初デート」

「それは光栄なこと……で……?」


会話の応酬をしているうちに市街地の真っただ中に入り込んだ頃、レッドの足が止まった。何だろうと思うメイベルだったが、押し寄せるように濃くなった魔素の澱みに気付き、思わず手で口元を押さえる。

隣に立つレッドの眉間には深い皺が刻まれていた。


「こりゃ、塔に登るまでもないか」

「数日前は、ここまで酷くはなってなかったのに……!」

「予想以上に進行が速いようだ。マズイな」


二人が見据える鐘塔のさらにその先、ベーゼの中心地にある半球状の大屋根から、濃く澱んだ魔素が渦巻くように迫ってきていた。以前から中心街に近づくにつれ徐々に澱みが濃くなっていたのだが、ここまで悪化しているとは思っていなかった。

それと同時に、澱みに混じって感じられる一つの気配と、その異常さ。


「妖精の、気配が……でも、なんて禍々しい。

これじゃまるで――――」

「魔獣と変わらないな」


メイベルが口にするのを躊躇ったことを、いつもの飄々とした態度からガラリと雰囲気を変えたレッドが言う。


「シャルティアの門は神域の中心、大神殿の地下。門番たる白い妖精が――――溢れ出す澱みに狂い始めている」


引き続き、のんびりながら楽しんで書いてまいります。

よろしくお願いします。

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