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恩讐の彼方

作者: 橘 蜜柑

 明け方、実家の父から電話がかかってきた。

長年認知症で、施設に預けられていた母が、肺炎を発症し、危篤状態だという。


月に一度は父の手前、お見舞いに出かけて、鳥肌がたつのをこらえながら手を握り、心にもない励ましの言葉をかけ、うわべだけの親孝行を義務的にこなしてきた。


夕べから体調を崩して寝込んでいた私が、危篤の連絡をもらって、まず感じたことは、「めんどくせーな」という気持ちだった。

祖父母の看取りに立ち会ったことがあるから、これから家族が慌しく大変になることはわかっていた。


遠方に住んでいる兄弟が到着するのは、夕方近くになるだろう。

隣県の私が真っ先に駆けつけなければならないのは明白だった。


私は難病を患っており、常時倦怠感に悩まされる状態であったが、見かけは元気そうに見えるらしく、人に理解されることが難しかった。いやな事があると、すぐ休むのかという目で見られるので、多少は無理しているつもりだった。


が、母の最期の看取りだけはしたくないということだけは、以前から決めていた。

親の死に目にあえないというジンクスにすがって、つめきりは夜中にする位母のことが憎かった。


もし看取りに立ち会っていたら、私は母に耳打ちしていただろう。

ーーお前なんか 早くしんでしまえ と。

そして、延々と母に私の生まれた幼少の頃から、今に至るまでの嫌がらせやいじめや、過干渉、人前での侮蔑、罵声といったエピソードの一つ一つをあげていくのだ。

人は、耳だけは死ぬ直前まで聞こえるらしい。


だが、想像するだけで、こちらもしんどいし、母の死ぬ姿など見守りたくもなかったので、私は、風邪で熱がでて、少し遅れる・・と父に告げ、布団に入りなおして二度寝した。


昼前にいくと、母は30分ほど前に臨終を迎えていた。

私は内心ほっとしながら、父に詫び、涙を浮かべようとしたが、どんなにがんばっても涙は出ず、安堵の気持ちのほうが強かった。


家に遺体を安置し、父と葬儀会社と打ち合わせが終わった頃、妹が到着した。


「姉ちゃん、ありがと。体力いるから、ここからはバトンタッチするわ」

という妹の言葉に甘え、私は一旦家に引き上げさせてもらった。


例のごとく、長男は仕事でぬけれないと電話してきて、到着したのは翌日通夜の時間少し前だった。

それでも、優遇されている弟の帰省は父を喜ばせた。

営業という仕事柄、訪問客の対応もスマートにこなし、だが、葬式が終わると、直近の新幹線に乗って、さっさと帰ってしまった。


結局、訪問客へのお礼の品やお香典の整理など、すべて私と妹で行った。


数ヵ月後、遺産分割で呼ばれて実家へ行った。


一人娘で一億円近くの資産があることを今回初めて知った。


法律では、父2分の一、兄弟3分の一ずつ。


一応平等には見えた。が、話はここからである。


たまたま私は、父の隠していた帳簿を見てしまったのだ。

・・・・弟妹に、毎年生前贈与が行われていたのだ。

それも、20年間にもわたって。

確か年間110万円までは、非課税のはず。ということは、2200万も差をつけられていた・・ということになる。

やっぱり、母は私が嫌いだったんだなあと改めて思い知らされて、ショックだった。

色々なことに兄弟差別つけられたけど、最後まで、これかとガックリした。


母の葬儀のときも、どうがんばっても本当に涙一滴もこぼれなかった。


お互い様ってことになるのかな・・・


私を鬱憤のはけ口にし、癇癪ばかりで罵っていた母を、決して許さない。


だが、忘れようと思った。存在自体を。もういないのだから。


わずかばかりの母の写真も全部破って捨てた。


故人を思い出さず、偲ばない、無関心なのが、一番の復讐なのだから。


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