その想いは風にのって
愛璃はクラスメイトから運ぶよう頼まれた資料の束を抱え教室を出る。体育館へ続く渡り廊下に出ると強風が彼女を襲った。
「ま、待って~」
一枚の資料が風に乗り飛んでいく。涙目になりながら五十メートル程追いかける。
「いっくよー!」
掛け声とともに思い切りジャンプする。
「やった!」
空中で見事に資料をキャッチする。
「へぶっ!」
そして見事な顔面ダイブを決めた。
「ま、またやっひゃった……」
愛璃はくしゃくしゃになった資料を見て、絶望の表情を浮かべていた。
「ぐすん……まだむっちゃ風吹いてるし、これ以上くしゃらないよう早く体育館に……」
黒い髪と白い紙を抑えながら歩き出すと、突然の大きな音に身を震わす。
「た、たいへん!」
愛璃は風で倒れた自転車を直していく。
「ちょっとアナタ! なに私の自転車倒してんのよ!」
振り返ると、愛璃を睨め付ける菜奈がいた。隣のクラスの子だ。
「え、ちが、私じゃ……」
「アナタお得意のドジで倒したんでしょ! いいから私の自転車に触んないで!」
翌日。愛璃は再び資料を運ぶよう頼まれ、渡り廊下に出る。
「ぐぬぬ~、今日は飛ばされないもん!」
やはり強い風が吹いていたが愛璃は資料を強く抱き、耐えた。安心したのも束の間、遠くで大きな音がするのが聞こえ身を震わす。
「た、たいへん」
自転車置き場に向かおうとした愛璃の足は、しかし一歩目で止まってしまう。
『いいからアタシの自転車に触らないで!』
昨日の菜奈の声が頭の中をかきまわす。
「あれ、あなた?」
引き返そうとすると渡り廊下を歩く上級生の女子に声を掛けられた。
「あなた、昨日私の自転車を直してくれた子よね。窓から見えたの。ありがとう!」
その言葉に愛璃は顔をほころばせる。
「あの、ありがとうございます」
「え? なんであなたがお礼を?」
「えっと、私、誰かの役に立ちたいって思ってて、でもドジで迷惑ばっかかけてきてて、だから、感謝されたのが嬉しくて」
その言葉に今度は先輩が顔をほころばせる。
「私ね、友達だと思ってた人が裏で悪口言ってて、人が信じられなくなってたの。そんなとき誰も見てないところでも、人の為に行動するあなたを見て私、嬉しくて。あのさ、私と友達になってよ」
愛璃は差し出された手を迷わず取る。二人手を繋いで自転車置き場の方へ走っていった。
おわり




