表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

パニック関連

ゾンビになって、みんな仲良く

「うああ…………」

 己の口からもれる音。

 それを疎ましく聞きながら、男はさまよっていた。



(なんでこうなったんだ)

 不明瞭ながら意識はある。

 考える事が億劫になってどれくらい経っただろう。

 それでも男は動いている。

 生きてるのかどうかも曖昧なままに。



 それは突然やってきた。

 のろのろと歩く多くの者達が。

 そいつらは人々に襲いかかり、その身をかじっていった。

 それを見て人々は逃げだした。

 男も例外では無い。

 その場から急いで離れていった。



 だが、運悪く隠れていた者に襲われた。

 その時に体を噛まれた。

 食い殺されることはなかったのは運が良かったのだろう。

 そのままどうにか走って逃げることが出来た。



 だが、そこから意識が朦朧としていった。

 考えがまとまらない。

 思考することが出来ない。

 自分が何をやってるのか分からない。

 何をすれば良いのかも分からない。

 ただ、何も考えずにさまよい歩いていった。



 そうして近くの町にたどりつき。

 驚いく顔を向けてくる者達を見て。

 男は襲いかかった。

(え?)

 そんな自分に驚きながら。



 体が動かない。

 思い通りにならない。

 襲った者を噛みつくのを止めることが出来ない。

 そもそも意識がまともに働かない。

 何とか自分のやってることを理解するのがやっとだ。



 それを止めようとして引き剥がされる。

 そんな者達にも襲いかかった。

 何度も何度も噛みつこうとした。

 なんでそうするのか分からないまま。



 やがて、噛みついた者も周りにいた誰かに噛みつき始めた。

 どんどんとそれが広がっていった。

 不思議とそんな者達に親近感を抱いた。

(ああ、仲間だ)

 ぼんやりした頭に、そんな思いが浮かんできた。



 その仲間と共に歩き出す。

 出会った人間に襲いかかっていく。

 噛みついて噛みついて、何度も噛みついて。

 そうして仲間がどんどん増えていく。

 それが嬉しかった。



 何となく抱いていた空虚感。

 胸の中に大きな穴があるような感覚。

 それが消えていく。

 仲間の存在が埋めてくれる。

 だからもっと仲間を増やしたくて、様々な人間に噛みついていった。



 仲間がかなり多くなった。

 楽しかった。

 一緒にいる仲間の存在はとても大きい。

 今までに感じた事のない幸せを味わった。



 そんな男の前に警察があらわれた。

 それらが一斉に銃を撃った。

 仲間の先頭に立っていた男は、銃弾を受けた。

 だが、痛みは感じなかった。

 体のどこかに当たった感触はあったが。



 その衝撃を気にする事もなく、男は警察に近づいた。

 近くに居た警察官に掴みかかった。

 そいつにも噛みついた。

 これでいずれ仲間になると思ったら嬉しくなった。



 もっともっと仲間を増やしたい。

 何よりも仲間が欲しかった。

 どうしてそう思うのかも分からないままに。



 仲間がいればいい。

 それだけで幸せだった。

 ただただ仲間が欲しかった。

 仲間、仲間、仲間…………。

 仲間の存在が全てだった。



 そんな男の歩みは、ある所で止まる。

 立ち塞がる戦車と装甲車。

 銃を構えた自衛隊員。

 それらが一斉に攻撃を仕掛けてきた。



 拳銃とは比べものにならない強烈な攻撃。

 それを受けて、さしもの男も吹き飛んだ。

 戦車砲の攻撃は受けてないが、体中を銃弾が貫通した。

 手榴弾の爆発にも巻き込まれた。

 まだ生きてるが、まともに動く事は出来なかった。



 それでも男はかまわなかった。

 周りにはまだたくさんの仲間がいる。

 それだけで充分だった。



 ただ、これ以上仲間を増やせない。 

 それだけが残念だった。



「仲間…………」

 体を吹き飛ばされた男の口からもれる。

 仲間の存在を求める。

 そんな男に自衛隊員がよっていく。

 その姿を見て、男は不満を抱いた。

「なんで…………」

 そいつは仲間ではない。

 まだ噛んでない。

 噛んでないから仲間になってない。

「なんで、仲間じゃないの…………」

 それに答えず、自衛隊員は男の心臓を撃ち抜いた。

 頭も。

 男はそれでようやく死んだ。



 後日、この事件について政府発表が行われた。

 ゾンビのように人々に襲いかかる者達。

 噛まれることで感染することから、それはなんらかの微生物によるものではないかと考えられた。

 また、その行動から、食欲が噛みつく原因かと考えられた。

 しかし、研究結果は意外な原因を提示する。



「彼らは仲間を求めていました」

 研究結果の発表において、事実が伝えられる。

「それは感染者の発言からも想像できます。

 彼らは自分と同類の仲間を求めてました」



 原因となってるのは微生物だった。

 それに感染した者は、同じ感染者を求めた。

 感染した者を仲間と認識していった。

 そんな同類をただただ増やそうとしていった。

 同じ微生物を内包する存在を。



 食欲ではない。

 何かを食べたいわけではない。

 ただ、感染のために体に傷をつけた。

 その為に噛みついた。

 噛みついて、唾液を通して相手の体にうつる。



 仲間を求めてのことだった。

 微生物に感染した者達の行動は、全てはこれが理由だった。



「微生物に感染された者は、同類を求めます。

 自分と違う存在を認めません」

 だから襲いかかる。

 仲間にするために。

「そうして仲間にすることで、安心感を得るようです。

 感染者を調査した結果、そのような反応があるのを確かめました」



 仲間だけを求める。

 仲間以外は許せない。

 だから感染者は襲いかかってくる。



 そのおぞましさに、発表を聞いたものは戦慄をおぼえた。

 仲間を増やす。

 その為だけに感染者を増やしたことに。



 その他にも様々な特徴が示された。

 痛みへの異様な耐性。

 体が損傷しても動くほどの強靱さ。

 人間の限界を超えた力の発揮。

 これらも大きな脅威である。



 だが、これらを使う目的。

 そちらの方が多くの者達におぞましさを感じさせた。



 仲間。

 ただそれだけを増やす。

 その為だけに行動する。

 生きることへの執着でもなんでもなく。

 同類を増やす事だけを求めるということに。

気に入ってくれたら、ブックマークと、「いいね」を


面白かったなら、評価点を入れてくれると、ありがたい

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ