自習室における攻防戦
公共の場では利用者のモラルが試されます。図書館の自習室では利用者の使い方次第で、他人に迷惑をかけてしまう恐れがあります。これから図書館に行こうとしている人に見ていただきたい短編小説になっています。
N県N市に住む大学3年生の高梨悠平は、市が運営する図書館の自習室で自習監督のアルバイトをしている。アルバイト内容は1時間に1回の巡回と、地元の中学、高校生から勉強の質問が来た時に対応することである。しかし質問コーナーは設けているものの、ほかの自習室利用者の目もあるせいか、まったくと言っていいほど質問が来ない。
今日も質問が来なくて暇してる悠平は、課題を淡々とこなしていた。イヤホンで曲を聴きながらの勉強はあまり好きではないが仕方がない。周りを気にせず集中するためだ。
どうもこの自習室は彼の目につくことばかり起こる。わざわざ自習室に来ているのに目の前の奴はずっとスマホをいじっているし、友達同士で来た生徒たちはお喋りがやめられないようだ。制服から地元の高校生だということはすぐに分かったが、わざわざここでしなくてもいいだろう。大方、試験前で勉強している感じを出したいのだろう。
しかし、そのためだけに周りの生徒に迷惑をかけていることを自覚しないのだろうか。もう。2回ほど注意をしているが聞き入れない。できれば出禁にしたいところだが彼にはそんな権限もないので、もう黙っていることにした。
悠平が自主室に来てから2時間ほど経ち、アルバイトも残り3時間というところで事件は起こった。トイレから帰ってくると、なぜか皆、彼のことをチラチラと見ているのだ。それぞれ、怪訝そうな表情をしている者、好奇な目を向ける者、真顔で見つめてくる者までいる。
彼は目の前にいる自習室にはふさわしくない生徒に対し、少し睨みを利かせながら居心地の悪さを感じていた。質問したいなら、遠慮せずにくればいい。
しかし、そんな彼の思いとは逆に皆、悠平のことをただ見続けるだけである。
2,3分経っても、彼を見る目は一向に減らない。それどころか彼が顔を上げるや否や、皆、スマホをいじり始めたり、ひそひそと小声で何か話している。しまいには、彼の目の前に座っていた生徒が席を移動してしまった。
これには明らかに嫌がられていると、悠平は確信した。何がそんなに嫌なのか。直接言ってくれればいいのに。彼は自身の勉強に集中することにした。周りを見ないことで、何とか人の目を気にしないようにするのだと自分に言い聞かせながら。
しかし、彼を見る目の数は減ることがない。それどころか増している。悠平自身も顔はあげていないものの、周囲の人間の彼を見る気配が増している事にいよいよ恐怖を覚え始めた。
5分後、自習室にいるすべての人が彼を見ていた。今や、好奇な目を向けていた者も白い目に代わっていた。なぜ、自分がこのような目に遭うのか。こんな真面目に勉強していない奴らになぜバカにされた態度をとられなきゃいけないのか。
さすがに我慢できなくなってきた悠平は、何か一言言ってやろうとイヤホンを外し、声を上げようとした。しかし、声を上げることはなく彼はすべてを理解した。なぜ、皆が彼を見ていたのかを。
まだ音楽が流れていたのだ。
投稿後、2日ほどは内容を変更することがあります。本来は、投稿前にチェックすべきなのですが、変更したい点は投稿後に出てくることが多いです。大きく変えることはありませんが、少し文をいじったりすることがあるのでご了承ください。