第四話 第一試験
どんどんと会場にいた人達がいなくなってきて焦り始めるリテシアと小雪。今では千人以上居た席にはもう残り数十人しか残っていない。
「これちょっとまずいんじゃ……」
小雪の言うことに同調するようにリテシアがうなずく。
「んじゃ、そろそろ行くか」
とことことジェフの後ろを歩いて会場の真ん中の開けた場所に出ると、3人が待ち構えていた。どうやら、私達の前に試験をした人はすでに終わって次の第二会場に行ってしまった。
「次は君たちか……よし!じゃあ始めよう」
男が突っ込んでくる。イノシシの如くジェフの間合いまでやってくる。どうやら猪突猛進タイプらしい。
後ろの魔術師はため息をつき、魔術を唱える。
「………赤き生き物よ、その身体で我が敵を燃やし尽くせ、ファイア!」
「はっ!危ないリテシアちゃん!お願い精霊さんリテシアを守って!」
狙いがリテシアと分かって瞬時に小雪が精霊に指示を与える。私が後衛に回って全体を見渡せればジェフのみの火力でなんとかなるかもしれない。
「なるほど……アヤ召喚獣だ。一気にあの後衛の子を落す!」
(は、始まった。どうしよう私戦えないし……少しでも作戦会議ができたらよかったけど)
「早くこいつらを落とさないといけないんだがキツいな……」
リテシアを狙ってくる一番面倒な魔術師を最優先で倒すしか選択肢は無さそうなんだが、邪魔な剣士をどうするか。剣でも折れば戦意喪失してくれるか?とりあえずやってみるか!
「どうしただねジェフ君。君には一番注目しているんだ。もうちょい活躍してくれよ」
「あぁ、てめえに言われるまでもねえよ!!まずはてめえから終わらせる!」
俺は魔力を溜めて剣士を腹に狙いを定める。
——よし!はい……った……え?
「どうしたのかな?ジェフ君」
……マジか、一発あってたはずだった。なのに当たったのは俺で……
魔術師がチャンスと思ったのか此れ見よがしにジェフに火球を放つ。
「ジェフ!何も出来ないけど壁くらいにはなれます!」
そう言ってリテシアはジェフに前に立つ。
「……やめ、ろ……リテシア……そんなことしたら……」
最前線のジェフの前に立ったことにより魔術師のファイアが眼前に迫る。
——火球が迫ってくる。父を見返すどころかここで死ぬ気がする。
そんなの……
「私を呼べ、少しは力を貸してやりましょう」
頭の中で声が響く。聞いたことのない女性の声。でも今は警戒している暇はない!助けてくれるなら誰でもいい。
「……誰でもいい。だから……来てください!」
「ふっ、それで良い」
声が聞こえたと同時に火球が目の前で消える。
その代わりに一人の女の人が立っていた。正体自体はローブをかぶっていて分からないが、守ってくれているのは分かる。
「さて、久しぶりに呼ばれたんだ、少しは遊ばないとね!」
少女は、光のごときスピードで相手の裏を取り魔術師を一撃で気絶させる。あまりの速さに誰も動けない。
「なんだ、君は!3人じゃなかったのか?」
「ふふっ、不正じゃないよ、だって私は主の物だもん、私は人じゃない、物だよ?」
そう言ってあっという間にもう一人も倒した。
小雪もジェフも何とも言えない表情でこっちを見る。
「リテシア、お前……」
「リテシアちゃん……」
二人とも私を責めるのだろう。実力で勝ちたかったのによく分からない人に助けられてしまった。
お前とは絶交だと、きっと言うに決まってる。
「……すごいよ、リテシアちゃん。こんな技が使えたんだ!それ召喚魔術だよね?それも魔物じゃなくて、人を呼べるなんて聞いたことないよ、わぁ〜、本物みたいに良くできてる!」
小雪は私が召喚?した人をぺたぺたと触りうっとりしている。
「これは相当なものだろうな、おそらく国がお前を見つければ速攻連れて行かれる、
だろうな」
「二人とも私を責めないの?怒らないの?」
弱々しく小雪とジェフに言った。
「えっ?怒る?まっさか〜、怒るわけ無いでしょ!これは不正じゃない、魔術を使っただけ、これで怒るとかありえないでしょ、そんな奴がいたら私が許さないよ」
「あぁ、そうだな俺も怒るな、速攻」
「……ヒグッ……うぅ……二人ともうぅ…」
私は泣いた。まさかここまで優しいとは思わなかった。
数分の間、二人に抱きつき、慰めてもらった。
「さて、剣士とやら、どうする?このまま私と戦うか、負けを認めるか」
女の人が剣士を見下ろしながら、問いを投げ掛ける。
「負けだ。降参する」
剣士の降参で私たち3人の第一試験はようやく終わった。後はこの後に控える第二試験のみである。
3人は喜びを噛み締め、第一会場を出て第二会場に向かうのだった。