第三話 試験開始
学園は国からの支援があるためか、学費は必要ない。金銭面の問題を子供が気にせずに勉強できる場所として確立されている。
何でも、昔は学園などはなく、冒険者はすぐに死んでしまう。自殺願望者の集まりとまで言われていたらしい。
そこで国の王女様が考え、冒険者や騎士を育成できる学園を様々な場所に建てたのだ。
それに小雪さんの話では学園は、様々なことが学べて、お仕事の選択先も様々らしい。
そんな期待の学園前まで少女達は来ていた。
「わぁ〜、これが学園なんだ……」
胸の真ん中で小さく握り拳を作り、学校に入っていく人たちを見る。
「噂には聞いてたけど、すごい大きいね」
「あ、あぁ、予想以上だ」
二人は思った以上に大きな学園に呆気にとられ、一歩が踏み出せない。
これ以上ここに居ても意味は無いと感じたリテシアは二人の手を握り巨大な校門を潜り抜け受付を目指す。
「あの!ここで試験の応募ができるって聞いたんですが」
「はい、出来ますよ。3人での参加ですね」
青髪の眼鏡を掛けた女性が書類を近くにあった棚に置き、椅子に座って私たちの手続きを済ませる。
「私から見て右手側の門を抜けて、そのまま真っ直ぐ進んでください。その場所が第一試験の会場となっています。第一試験は基礎戦闘試験です。3対3の勝負で、相手はこの学園の在学生です」
「えっと、それって教えて良かったんですか?」
「本来は駄目ですよ。でも……」
「でも?」
「私、思うの!何も分からないままで挑むよりちゃんと分かってて対策した方が絶対為になるって!」
女性は目を輝かせて小雪の手をブンブンと振る。
(この人もしかしてやばい人なのかな?)
やや引き気味に、ペコリとお辞儀をして試験会場に向かった。
試験会場にはすでに何千という人がひしめき合っていた。
「ここもすごいな、ここまで人が多い場所は初めてだぞ」
ジェフが感心し周り見渡す。
「う、うん緊張するね、ジェフ、リテシア」
「……」
すごく緊張したせいでちょっとおトイレに行きたくなってしまった。
「リテシア?どうかしたの?」
もじもじする私を心配してくれる。
「えっと、と、トイレに、行きたいなって」
「トイレ?早く行ってこいよ、どうせ始まるまで時間はあるしな」
お言葉に甘えて、私はトイレのありそうな方に走っていく。
「えっと、トイレどこにあるのかな?」
ここは初めて来た場所なのだ。焦って適当に探せば見つかると思っていたが、
全然見つからない。
「……あの?そこ人、あなたは迷いびとですか?」
きょろきょろとあたりを見渡していると肩を叩かれ、振り返る。
「あっ、ちょっとトイレに行きたくて」
「なるほど、それならこっちにありますよ」
金色の髪をなびかせ、水色の清楚系の服を身に纏った私と同じくらいの年齢の女の子、なのに小雪とは雰囲気が違う。
「ほら、ここに」
「あ、ありがとうございます!」
感謝の意を全身全霊で伝えるために勢いよく頭を下げる。
少女はいえいえと手を振ってくれた。
「あれ?そういえば名前を言ってない」
「確かに……」
「じゃ、じゃあ私から、リテシアです!」
「あなた、家名はないの?」
珍しそうに私の顔をまじまじと見てくる。
「ないよ、貴族じゃないですから」
「私は……ミアナ、ミアナ・クーデライト」
「ミアナさんよ、よろしくね」
名前で雰囲気が違う理由が分かった気がする。
クーデライト、魔術の名家で魔術界のトップに立つ貴族の中でも超有名な家柄。
「よろしく、リテシア……私もう行くから」
「う、うんまたね」
作り笑顔をして、手を振った。あの家にはあまり関わらない方が身のためな気がする。
後ろ姿がとても絵になるミアナを見て密かに決意するリテシアだった。
トイレを済ませた私は二人の元へ急いで戻った。
「ふう〜、間に合った〜、それで始まりました?」
「まだだよ、始まるまであと少し時間があるかな」
小雪が丁寧に教えてくれる。
「いや、長い、めっちゃ長い、もうめんどいんだが?」
「もう少しの辛抱だよ、ジェフ」
嫌そうな顔をし、今にも観客席の安全壁を破壊しそうなジェフを止めている。
「確かに長いですね。それに確かにめんどくさいですね」
そんな事を言っていると、鐘がなった。
どうやら今の鐘が開始の鐘らしい。この勝負に順番はない、我こそはという人達が先に行き、自信のない人達は何も出来ずに試験に落ちるらしい。