第十話 観光
あのナイトメア襲われてから三日経った。
流石の3人も暇そうにベットで寝そべっている。
というのも今だに試験を終えて戻ってきた人が私たちいないのだ。
そのため、交流も出来ず何もすることがない。
暇なら魔術の練習をすればいいとジェフが先生に言ったところ、仮寮住まいの私たちはまだ正式な生徒ではないらしい。そのため、訓練場の許可が降りない。
「暇だよ〜」
「そうだね。ん〜、何か暇つぶせる物はないのかな?」
私はベットから降りてクローゼットなどを開け、娯楽品が無いかを探す。
「何かあったか?まっ、無いと思うが……」
「一応あったよ?これが」
そう言って私が見せたのはここから徒歩で三時間程度で着く、大きな町『クエット』の観光紙の一面だった。
「ヘ〜、町か!良いな。暇が潰せる」
今まで枕に顔を埋めていたジェフが起き上がり賛同する。何だか声の張りも元に戻った気がする。
「でも、クエットって結構遠かったよね?」
小雪が現実を見せて話の腰を折ってくる。
「確かに遠いっちゃ、遠いが別に行けない距離では無いだろ」
ジェフは暇すぎる学園に居たく無いのか、めんどくさがる小雪を強引に説得して外に連れ出した。
「え〜、本当に行くの〜」
本当に嫌そうに小雪が私の腕を掴んでいる。
「ちょっ、そんなに行きたくないの?」
手を引っ張る小雪を宥めつつ聞く。
「うん!行きたくない。リテリテもそうでしょ?」
小雪は上目遣いを使い、私を落とそうとしてくる。何とも野うさぎのような愛らしさのある小柄な身体でそれはちょっとずるい。
私はうっ、となりながら何とか目線を逸らす。
「残念だったな小雪、リテシアは行きたいとさ?馬鹿なこと言ってないで行くぞ」
そう言ってジェフは小雪の背中とひざ裏に腕を回して、引き寄せながら抱き上げた。
「ななな、お姫様抱っこなんて……リテリテ見てるんだよ!」
小雪は自分の状況を恥ずかしいと思っているのか顔を真っ赤にしながらジェフに怒る。
「うるさいぞ。いいから黙ってろ。ほら、リテシア俺の背中に捕まってくれ」
私が捕まりやすいように屈んでくれる。でも、流石に二人は重く無いのかな?
「私、体重あんまり軽くないよ?」
「ん?別に大丈夫だぞ。それに、リテシアは軽そうだしな」
今まで小雪の方を見ていたジェフが私の方に振り返り、笑みを浮かべる。
「——わかったよ」
私はジェフの首元に手を回し、落ちないようにぎゅっと捕まる。
「行くぞ!喋るなよ。舌噛むからな」
それを合図にジェフは跳躍し、木々の間を素早いスピード駆けていく。そのスピードと高さに私は硬く瞳を瞑る。
「よし!着いたぞ。いや〜、予想より5分ズレたな」
ジェフの声と地面に足がつく音で硬く閉ざしていた瞳を開ける。
瞳を開けて最初に目に入ってきたのはレンガ色の巨大な壁と門を守る銀色の兵士、そして雲ひとつない真っ青な空だった。
「相変わらず乗り物としては粗いけど、着くのは相変わらず早いね」
小雪が文句を言いつつもジェフの手から降りる。
「ふぁ〜、やっぱり来て良かったね」
小雪の言うことは一理あるかもしれない。寮で暇していた時には見れなかった草原が街道で分けられて二つある。時折吹く風がサァーと音を鳴らしてとっても気持ちが良い。
「ほら、お前ら行くぞ!」
ジェフはそんなのお構いなしに言ってしまうのでもうすでに衛兵と話を済ませて町に入ろうとしている。
「もうちょい、ムードを楽しみたいんだけど〜」
小雪が口を尖らせて文句を言っている。小雪が不満そうにしているのは分からないでも無いけど、町の雰囲気も気になっていたので早く行きたかった。
「行こ?小雪」
私がそう促すと小雪は渋々着いてくる。
ようやく入れた町にはたくさんの人がごった返しており、手を繋いでいなければすぐにバラバラになってしまいそうだ。
3人は迷子にならないように手を繋ぎ、道の端っこを歩く。こうすることで少しは離れ離れになる確率が下がるだろうと私が提案したのだが、人が多すぎてダメな気がする。
「それにしても、3人手を繋いで歩くの初めてじゃない?」
みんなが迷子にならないように各々の手を強く握っているためとても痛いので、その迷子ムードを壊すためにリテシアが二人に質問をする
「確かに!そういえば、そうだね〜」
「だよね。ジェフもそう思うでしょ?」
何故か会話に参加してこないジェフに話を振る。
「……」
ジェフに再度質問するが返答してこなかった。いつもは一瞬で返答するあのジェフがどうしたんだろう。心配になってジェフを見る。しかし、そこにジェフは居なかった。
「あれ?ジェフが……いない!?」
あれだけバラバラにならないように意識したのに気がついたらもうすでに一人いない。
慌てて、周りを見渡しジェフを探すがまず、この人混みでは探すものも探せない。
「小雪、どうしよう?」
「ん〜、とりあえず広場に行こ。いるかもしれないし」
小雪の提案に頷き、早速広場に向かってみるがさっきの大通りよりも広場の方が人が異常に多い気がする。
周りの人は大人ばかりでみんな背が大きいため視界がかなり遮られる。それでも、ジェフを探すために大人たちの流れに逆らって進むと大きな噴水が見えた。
「わぁ〜、大きい……」
「噴水だね!私が3歳の時にはあったから結構昔からあるこの街の名物だったはずだよ」
小雪は懐かしげにこの噴水を見ている。その横でいつもと違う表情を見て微笑むリテシアだった。
「小雪、そろそろ行かないとジェフを探すのが大変になるよ」
流石に呆けすぎた。来た時はまだ日もあまり登ってなかったのに、今はもうてっぺんにある。私は焦りつつ、冷静な言動で小雪を促した。