4・再び紗枝
12日・PM3時。
この時間はいっつも暇。
社長室で書類のチェックなんかをしながら、私はこんな時間いつも姉のことを考えている。
私と姉は二卵性の双子だった。
同じ年、同じ月日に生まれたのに、姿はおろか中身まで全然違っていた私達。
派手で癇癪持ちだった母と、素朴で穏やかだった父。
それぞれ二人のレプリカみたいだった私達姉妹は、父母の離婚に伴って住む世界を別にした。
当時まだ10才だった私は、母との生活のめまぐるしさにかまけて、特には何も感じていなかったが。
高校に上がる頃には、理解するようになっていた。
そう、我がままな母が本心では強く父を求めていたように。
本当は私も、いや、血を分けただけそれ以上に、どれだけ姉を求めていたのかということを。
理解し認めてからは、私なりに辛い日々を送った。自分の中に常にある空白を知りながらも、それを埋める方法を全く見出せない。消すことも慣れることも出来ない、どうしようもないもどかしさを、何年胸に抱えただろう。
漠然とした喪失感に苛まれ続け、テレビのドキュメンタリー番組の中に偶然姉を見つけた頃、私は二十歳の夏を迎えていた。
ああ何て彼女らしい、それが最初の私の感想。姉は小さな画廊と契約を交わし、山や海や草花など自然を描く画家になっていた。
たまたまテレビの取材を受けたとはいえ、毎月の収入なんて微々たるものだったろう。
経済的には母に着いて行った私の方が恵まれていたはずなのに、姉は羨ましくなるほど満たされた顔をしていて。
(ああ、いつかまた姉に寄り添いたい)
涙が溢れるほど熱くなった胸の締め付けは、少し恋に似ていた。
シスターコンプレックス満開な妄想を抱き、番組を編集したDVDを探して買った私は、それから毎日飽きることなく見続けた。
姉さん姉さん姉さん。
会いたい会いたい会いたい会いたい会いたい、さやか姉さん。
想うだけで、何ひとつ実行に移さなかった自分を、今は心から呪う。
血縁との事、いずれ時が解決すると漠然とした楽観を抱いていた自分を、今心から恨んでいる。
数年後、私はまた姉をテレビの報道で見ることになったから。
今度は綺麗なドキュメンタリーなどではなかった。
オーストリア郊外の豊かな森林の中で、姉は切り刻まれた姿で発見されたのだ。
眼球、唇、乳房、そして女性器の一部と犯人はまだ見付かっていなくて……
(でもね。さやか姉さん)
もう安心して、と私は声に出して呟く。
警察が異様に早く手を引いた姉の事件。私は納得がいかず、預金を全て使い果たし、水商売で金銭を補ってまで姉の軌跡を追った。
ほんの些細な情報も漏らさぬよう、姉の辿った各国の辺境を尋ねて歩き。
地道な努力と執着の末に、ようやく、謎を解いた。
あんな残忍な事件だったというのに、警察があっさりと手を引いた理由。
いや、警察が手を引くよう圧力をかけた、その。
存在の大きさを……。