03
アーロン王子達一行は、街の通用門で10倍の通行税を涼しい顔で払うと、街に入った。
増税のせいで、外から来る商人や旅人がいなくなって、市場は休業状態。おまけに側女徴用のお触れのせいで、若い娘の姿が消えている。みんな隠れてるのね。
ひどいものだわ。こんなで領地を経営していけるわけないのに。
「おい、そこのお前ら!」
街をうろうろしていると、後ろから品のない声がした。
「なんだ?あのガマガエルとゴミムシを足して5を掛けたような男は」
アーロン様がお供の方に尋ねている。
従兄弟のダニーだわ・・・誰が見てもそう見えるのね。恥ずかしい。
「通行税はさっきから20倍になったんだ。牢屋に放り込まれたくなかったら、さっきと同じ額をもう一度払いな!」
10倍の金額をあっさり払う団体が来たと聞いて、もっと搾り取ってやろうと思って出てきたんだわ。なんて強欲なの!
「私はこの国の第一王子、アーロンだ!新しい準爵を名乗る者はそなたか?そなたらの行いについて調べに来た。屋敷に案内してもらおう!」
「ああ?第一王子だぁ?なに寝ぼけたこと抜かしてやがんだ。王子がこんなとこ来るわけ、」
小馬鹿にしたような顔で返したダニーだったけど、フードを脱いだアーロン様を見て、驚きのあまりひっくり返った。
銀の髪に深青の瞳、まさしく王家にだけ現れる特徴を宿した、端正な若々しい顔。王子の顔など知らないけれど、間違いない。
「うわあぁあ!何で王子が!」
叫びながら逃げていく。
情けないったらありゃしないわ。
ダニーを追って屋敷に着くと、叔母夫婦もダニーの姿もなかった。
すでに逃げ去ったのだろう、とアーロン様は言ったけれど、私ははっと思い当たった。
叔母たちは、きっと封印石のところにいるわ・・・!
強欲な叔母たちのことだもの。勝ち目はないと思ったら、一番貴重なものを持って逃げようとするに違いないわ。
案の定、叔母たちは地下の隠し部屋にいた。重たい封印石を台座から外し、持ち去ろうとしていたところだった。
「昔、死んだじいさんから聞いてたのさ。この石は、クレメール家の血筋の者の願いを、一生に一度だけ叶えてくれるってね!」
「だめよ!そんなの、はるか昔に魔族が言い残したことよ?誰も試したことないの!魔族のワナかもしれない、なにが起きるかわからないのよ?!」
私の必死の説得にも、叔母は耳を貸さない。
アーロン様たちが剣を抜いて斬りかかろうとするけど、叔父が煙幕と爆竹を投げてきたので、近寄れなくなった。
煙幕の向こうで、叔母とダニーの声がする。
「さあダニー、私は世界中の富を願うから、お前はアーロン王子たちを消してくれと願うんだよ!」
「イヤだ!おれは世界中の美女を願うんだ!」
「なに馬鹿なことを!早くいうんだよ!」
「いやだ、女だ!」
「ダニー!!この馬鹿息子め・・・、、」
母子の罵り合う声が急に止んだ。
ほどなくして煙幕が晴れてみると、叔母一家の姿は忽然と消えていた。