装備の新調
ギルドに着くと、ルカとミサに本当にやりたいことの説明をする。
「さっき言った装備な、実はウォーハンマーを作ろうと思っているんだ」
ルカは首をかしげる。
「ジノの装備? それともウォーハンマーに装備を変えるの?」
「ダブルウォーハンマーね」
ミサがおかしそうに言う。
「でも狭いところだと2人ともウォーハンマーなんて・・・」
おれの装備だと思っているルカを止めて話す。
「ジノのだよ。700万でジノの装備を作るなんて言ったら絶対受け取らないだろ」
「それはそうね、さっきも何もできなかったなんて言ってましたね」
ミサも納得したようだ。
「それで、一旦おれの物だけど一番うまく使えるジノに貸しておくという形にするんだ。
その後ジノが買い取ってもいいし、当分先の話だろうけど、もっといい装備が手に入ったらどっちが所有していたとしても売ってしまえばいい」
ルカもうんうん頷いている。
「それで、2人にはさっきと話が違うけどそれでも賛成してくれるか聞きたかったんだ。ジノには押し付けるつもりだけど、2人はジノを優先したみたいで面白くないかなって・・・」
「もちろん賛成よ!ちょっと感動したくらいよ」
ミサが言う。
「わたしも言うことなし。アルがリーダーで良かったと思ってる」
ルカも賛成してくれた。
「それじゃあ、発注しちゃおうか。それでも200万は残るから、みんなで分けても装備の更新位できるよ」
みんなで笑う、そしてミサが提案した。
「ハルの装備も更新しましょう。もちろんアルの貸し出しで」
「それいいわ。わたしの装備もアルの貸し出しにして! 装備代はわたしが貸すから」
ルカがよくわからないことを言う。
「みんなそうしましょうか。収入をアルに預けて装備はみんな貸し出し」
ミサまで言い出した。
なんだかよくわからないテンションで来たおれたちをメルエが不審そうな目で出迎えた。
ウォーハンマーの作成を打診していたのでメルエが鍛冶師に問い合わせてくれていた。
さすが、メルエ有能。
「角を丸々使って、削り出しの手間が省けたことでかなり工賃は省けるらしいわ。
柄の部分はミスリルで作成、角よりは素材の格は落ちるけどCランクにはもったいないくらいの素材よ。
日常的にAランクと戦うなら柄の部分が先にヘタレるらしいけど関係ないわね。
そのままでも耐性はあるけれど、ジノが使うなら魔法剣、特に火の耐性を高めて、標準レベルのエンチャントをましましで追加で合計550万ね?」
メルエが一気に喋った。
「915万から550万を引いて、売却益が365万。よろしいですか?」
ひとつの装備に550万使うおれたちに引いたのか、メルエが丁寧になっている。
「はい、よろしくお願いします」
ルカとミサが頷き、おれが答えた。
「じゃあ、わたしも会計に行くわ、この金額をメモで済ませられないし」
メルエとともに会計に向かう。
会計カウンターをスルーして奥に向かうメルエを追いかけて個室に入る。
「会計呼んでくるから待ってて」
力の抜けたおれたちは、金額の分配について話し合う。
「ハルの装備分を25万で残りの340万を4等分して85万。でおれが武器を作ったということでみんなに550万の借りがあるってとこか」
借金が550万。高級車一台分の重みが今更プレッシャーになってきた。ゲーム内通貨のつもりでいると痛い目にあうぞ。
「そういえば、端数がないな、このくらいの金額だと切り捨てたり切り上げたりしてるのかな」
「切り上げているわよ、そのうえでギルドからのサービスも追加されているからね」
いつの間にかメルエがドアの前まで来ていて話を聞かれていたようだ。
「上級の職人とかは金額に大雑把だからトータルが100万を超えると1万以下の端数は気にしないわね」
メルエが現れた、会計さんを連れている。
「振り分け決まった? 残高はギルド側で管理しているからジノの分も振り込みできるわよ」
「ハルの分もお願いします、装備代として1回貸し付けちゃうんで」
メルエに続いて座った会計さんが機械を操作する。
「今、この機械にギルドから振り込まれた365万が入っています。皆さんの口座に振り込みますのでカードを出してください」
それぞれ、自分のカードをテーブルに出す。
「この3人とジノに85万づつ。ハルに残りの25万をお願いします」
「はい」
会計さんが手慣れた手つきで機械を操作する。
「はいこれで、振り込みが終わりました」
と言って機械の表示画面を見せてくれる。それぞれに振り込まれたのが確認できた。
「この画面の書類と、ウォーハンマーの発注書を後で渡します。これでライノプスの素材の受け取りの終了となります。何か質問はありますか?」
「いえ、問題ありません」
「お疲れ様でした。はぁー、緊張した、この金額の取引はわたしも初めてよ。この後書類を渡すから、表で待っててね」
そう言ってメルエと会計さんは部屋を出ていった。
おれたちも部屋を出てギルドのテーブルに座りなおすとほどなくしてメルエが書類を届けに来る。
受け取ってギルドを出ようとするとちょうど入ってきたジノとハルに行き会った。
「おいおい、アル。買い物してたら急に残高が上がったんだがお前何かしたか?」
ジノに肩をガクガクゆすぶられる。
「分け前だよ、ちょうどいいから全員で買い物に行こう」
ジノに答えて買い物に誘う。
「アタシは何もしてないって言ったろ。それにハルにも入金されてたぞ」
「ハルのは貸付分。ああ、心配しなくても利子も取らないし、装備を買って貸し出すだけだから。返せなくてもその装備を返せばそれでチャラだよ」
ハルが不安な顔をしたので付け加えておく。
「それでもだなー・・・まあとりあえず借りておくよ」
自分がごねるとほかの人の取り分に影響が出ると思ったのか、大人の対応をするジノ。
ジノさん、その借りはもっと大きくなるかもしれませんよ。
「ギルドの手続きと、あと魔法の何とかは終わったのか?」
魔法のことは忘れてた。装備の買い物の後でいいや。
「ギルドは終わったよ。魔法はスクロールの購入だから装備を見たあとに行こう」
そうしておれたちは防具屋に向かった。
ハルに15万の硬い革鎧セットを購入、ハルは遠慮したがおれが買って貸すだけだからと言い、受け取らせる。
ほかのみんなは今の装備から買い替える位の良いものにすると100万越えになりそうなので今回は見送るそうだ。
特にジノはライノプスに対した時の攻撃力不足に悩んでいるようで武器の新調を考えている。これは阻止せねばとルカとミサにも協力を頼む。
ハルの武器は短剣の二刀流で、間合いによっては短剣を投げるようだ。
なので、武器屋では5万の短剣を2本買い、今までの短剣も下取りせずに持っている。
ジノは1本のウォーハンマーの前でうなっている、見ているのは重量級のウォーハンマーで攻撃力は上がるが取り回しが悪くなりジノの戦闘スタイルが変わってしまうようなものだった。
迷っていたジノが買ってしまいそうだったので、ルカとミサが声をかける。
「ジノ、ジノ。ちょっと来て」
奥に連れて行って何やら話しているようだ。
戻ってきた3人は納得したようで武器は買わないとおれに告げる。
おれも魔法のほうが気になっていたので皆で道具屋に向かう。
「落水のスクロールっていくら位するの?」
おれの問いに、ミサが答える。
「1万くらいね適性を見るために基本の7種類全部覚えた方がいいわね」
「覚えられるかな?」
「基本魔法は魔力を循環させることができれば覚えられるはずよ。中級から上級になると得意属性以外は難しくなって、特に得意属性の対抗属性は覚えられないことが多いわね」
「対抗属性って?」
「あのね、日曜と月曜がお互いの対抗属性で片方に偏りすぎるともう片方は苦手になるの。木曜と金曜もそうね」
おれの疑問に再びミサが答える。初級のうちは気にしなくていいそうだ。
道具屋ではスクロールを購入、他に買い物もないようなので早速人気のない場所に移動して魔法を試す。
初回はスクロールから発動するため『魔法』ではなく『魔方陣』プラス『魔法名』を唱えた。
『魔方陣落水』
ジョロジョロと手のひらから水が流れる、直接口を付けて飲んでみたらちゃんと飲めるうまい水だった。
『魔方陣流土』
ボコッと地面に穴が開くバケツ3個位の大きさでゴブリンなら1匹は埋められそうだ。ライノプスの残りを埋めるときもルカが何回も使ってたな。
『魔方陣着火』
ボッと指の先にライター位の小さな火がともる。たいまつとかに火をつけるマッチだな。
『魔方陣深月』
突然暗くなり、頭の上に大きめの傘くらいの半透明な円盤が浮かんでいた。傘は自由に動かせて、日属性の攻撃を弱めることもできるそうだがまあ日傘だな。
『魔方陣浅日』
電球位の大きさと明るさの光の玉が生まれた、装備や体にくっつけて移動させることもできるらしい。
『魔方陣養木』
木にかけてみるが、少しザワザワっとして変化がよくわからなかった。葉っぱが増えたのかな?
よくわからなかったのでもう一度。『魔方養木』
手のひら程度の草にかけてみるとモサモサッとして葉っぱが2倍くらい増えた。野菜位ならすぐ育ちそうだな、木のほうも果物とか成る木なら増えたかもしれない。
『魔方陣護金』
金属鎧もないのでかける前に鞘を木に当ててみて、かけた後と音を比べてみた。コーンという音がキーンという音に近づいたような気がするような程度の違いだった。固くなっているのだろう。
「みんなお待たせ。ヒマだったろ。先に解散にしとけばよかったな」
魔法の試し打ちが終わるとみんなに謝る。
「いいのよ、適性も見たかったし。何か自分に合っている魔法はあった?」
ミサに聞かれたが、違いがよくわからなかった、ギルドカードを確認しても相変わらず無印だったし。
「基本魔法は大体の効果は決まっているから術者の消費で判断するの。楽だった魔法はあった?」
それもわからなかった。ミサに対して首を振ると。
「今はまだ得意も苦手もないみたいね、初級魔法でとりあえず使いたい魔法をくり返したらいいわ」
ミサにおれが使いたい魔法を話してみる。
「魔法剣を使いたいんだ、できるだけ多くの種類で威力も強めで」
ミサは納得したようにおれの剣に目をやる。
「魔法剣はその性質上使った武器にダメージを与えるので、回数も威力も増やせない。でもアルの剣ならそのデメリットを無視できる。そういうことね」
ミサに頷く、この剣を活かすならこれがベストだと信じて。
帰るときにルカがギルドに寄りたいというのでみんなで寄る。
おれたちをテーブルに残し、ルカがメルエに相談に行く。
待っている間、ミサから相談をされた。
「今回、わたくしたち装備の更新をしなかったんですけど、1つ欲しいものがあったんです。ただ、そのお値段が全員分のお金を集めなくてはいけないほど高くて・・・」
ミサが目を伏せる、借金の申し込みかな。実質おれの方が借りている形だからぜんぜんかまわないけど。そういえば、今の時点で一番装備が充実しているのがハルなんだよな。
「いいよ、おれも出すよ。で、何買うの?」
ミサが申し訳なさそうに言う。
「ライノプスの鎧です。本当はわたしたちだけで用意して、アルにプレゼントしたかったんですけど・・・なんか、かっこ悪くてごめんなさい」
ミサが照れたように笑う。
ちょっとうるっときた。
ジノに肩を叩かれて言われる。
「アルがライノプスを止めたときは絶対死んだと思ったものな。そのあとはアタシたちみんなここで死んでたんだって考えたらさ。ライノプス全部どころかアタシたちの命の借りがあるって言ってもおかしくないんだよ」
ジノがニカッて笑っている。
「だから、貸しとか借りとか気にすんな」
肩をバンバン叩かれる。ん? 全部。そうかウォーハンマーというか武器もおれが使うということになってたな。どれだけ太っ腹なんだジノは。
でも言うなら今しかない、貸しとか借りとか気にすんなといったことの責任を取るんだな。
「ジノ。ジノに使ってほしいものがある」
ミサが察したのかこっちを見て頷く。
「今回、角で武器を作るといったけど、その武器はウォーハンマーなんだ」
ジノがきょとんとしている。
「ジノ。アルはただ渡したらジノが断ると思ってアルの武器ということにしてウォーハンマーを発注したの」
ミサがフォローしてくれる。おれが涙声なので見てられなかったのか。
「今回の素材でおれが作るべきだと思ったのはジノのウォーハンマーなんだ。
さっきも武器屋で迷ってたろ、ライノプスに対して有効な攻撃がないことに。
その時はもう発注してたからルカとミサに止めてもらったけど、ずいぶん素直に聞いたなって不思議だったんだ。
まさかおれの鎧のために自分の武器をあきらめてくれるなんてな」
やばい、泣きそうだ。
ルカとメルエも少し前から話を聞いていて、今は腰かけている。
おれ一人恥ずかしい。誰かジノを泣かせてくれ。感動的な話で。
ちょっと言葉に詰まって、ルカにバトンタッチする。
ルカは困ったように笑って話を引き継いでくれる。
そういえば、どこから聞いていたんだろう。直前だったら無茶振りがすぎるな。
「ジノ、この装備はパーティー全員にとっても必要なの。
もちろんジノが使ってこそよ。
アルが言ってたわ、
『素材との出会いは一期一会』
『戦力の増強はできるときにやるべき』
『おれはパーティのみんなを愛している!』」
ルカ、並べると恥ずかしいし最後のは言ってないから!
皆がまじまじとおれを見る中、ルカが続ける。おれは力なく首を振った。
「最後のは置いておいて・・・。
ジノが求めていた攻撃力が手に入るの。
今のわたしたちではまだ力不足だけど、レベルさえ上がれば魔法職は攻撃力に悩むことはないわ。
そしてそうなったときジノだけが攻撃力不足で悩むことになりかねないのよ。
だから、受け取って。これはみんなの気持ちなの」
ジノだけでなくみんながウルウルしている。ルカとミサはわかるがハルとメルエはなぜだ?
おれは優しく微笑もうとしたが。一番号泣しているのがおれだった。
おれはただ素材を手放すのがもったいないのと、全体の攻撃力を考えただけだったのに、みんなはおれの安全を一番に考えてくれていた。
こんなに嬉しいことはない・・・
そして借金がものすごいことになっている。
なんか賢者の贈り物みたいだなあと思っていたら、ミサが言った。
「なんか賢者の贈り物みたいね」
なに。その話こっちにもあるの?
そもそも話が通じているからこっちの言葉は日本語なんだよな。
ジノが立ち上がる。
「みんなありがとう。
その武器はありがたく使わせてもらう。
そしてその武器の返済が終わるまで、いや終わってもアタシはこのパーティを離れない。
アル、それでいいな!」
おれも立ち上がる。
「ああ。もちろんだ」
ルカとミサに手を差し伸べる。
2人は立ち上がりおれの手を取る。その手をテーブルの中央に差し出すとその上にジノが手を重ねる。
ハルは迷っているようだったがみんなが目で促しその手を乗せる。
なぜかメルエも手を乗せてきた、なぜだ?
「おれはこのパーティを誇りに思う」
そして、口には出さないが『みんなを愛している』と心を込めた。
皆が無言で、それでもそれぞれの思いがつないだ手を通して行き交っている気がした。 やがて、手をつないだまま腰を下ろし、1人づつ手を放していく。
少し寂しい気もしたが、汗ばんだ手をゆっくり手を離した。
涙と鼻水で顔はぐちゃぐちゃ、おれは両手で顔をおおって言った。
「・・・解散!」




