ギルドのタブー
「槍は奪ったのでこれ以上増えることはないはずです」
ギルド長は腕を組み少し考えて口を開いた。
「その槍をギルドに預ける気はあるかね?」
「ギルド長?! 冒険者の装備を取り上げるのは問題が」
少しは覚悟していたが思った以上にメルエが拒否反応をしている。
おれたちに味方してくれているだけではなく、タブー的なところもあるのだろう。
「わかってるメルエ。自主的に提出する気があるか聞いただけだ」
ギルド長の懸念はもちろんこの槍をリザードマンが取り返して再び増殖の危機を招かないためだ。
「この槍はリザードマンを増殖させる効果がなくなるように改造する予定です。うまくいかないなら破壊するつもりでした」
「そうか。それならまあ、いいか」
予定通りならそうなっていたけど改造する時間はすでにない。武器屋に預けても万が一街が陥落したら安全ともいえない。
「街の外の迎撃はおれたちも参加します。まずは数を減らしましょう」
リザードマン側も攻めあぐねているから増援を呼んでいるんだ、増援分かそれ以上に減らしていけば少なくとも膠着状態にはなる。
街ぐるみで避難している位だから味方側の増援も要請しているだろう。
それを待つ。
「ん、おう、頼むぞ」
おれたちは席を立ち部屋を出る。せっかくギルド長がいるのだから何か話しておくことあったかな? と思うが、今は何も思いつかなかった。
「拠点に戻って準備しよう。エリも避難してもらうか」
ハウスキーパーとして雇っていたが街が危険なら家に留めておくのは危険だろう。
「ずいぶん留守にしちゃいましたね」
半年以上家を空けていたから、いなくなっていてもおかしくないな。
「給料前払いしとけばよかったな。こんなに長くなるとはおれも思っていなかったけど」
料理も上手いし戦闘もできる超ハイスペックエルフだからこれからも雇いたい。
「平気ですよ。住み込み条件ですから待機の分は家賃と相殺になるでしょうし」
「はっ! 家賃払わないと。いつごろまで払ったか忘れたけど一年位は払ったよね?」
「一年は平気でしょう、ところであの家は借りたんでしたっけ? 買ったうえで返済が残っているだけでしたよね?」
あれ、色々忘れてるな。今あまり手持ちがないけど時間に余裕があるはずだから、今回の件が無事に終わったらしばらく金策を重視しよう。
久しぶりの我が家は庭に家庭菜園と花壇が増えていて別の家のようになっていた。
「エリ、ただいま」
自分の家ではあるが無断で入るのがはばかられてノックして中に呼びかける。
「はーい、ただいま」
中から声がする。お互いにただいまになったことに可笑しみを感じながら待つと玄関にエリが顔を出した。
「おかえりなさい、長かったですね」
出てきたエリは目を丸くした後笑顔になった。
「連絡できなくてごめんね。入っていい?」
「もちろん! どうぞどうぞ」
家の中も片付いていいにおいがする。
「食事もしたいけどまず休もうか? 連日駆け足だったこともあるし。
1、2時間横になるからその間に食事を作ってもらえるかな?」
「はい、お任せください」
リビングでぐてんと横になって魔力循環全開で回復に努める。
魔力循環中は魔力だけでなく体力の回復も促進される。
連日とはいったが疲労自体は毎日リセットされてるので、安心できる我が家で精神的な疲労を癒すことが今は大きい。
「落ち着くなあ」
目をつむって眠っていた時でも残っていた緊張感が解きほぐされて行く。
眠るつもりはなかったのにスパッと意識が落ちていた。
ことりことりと皿をならべる音、料理の匂いに刺激され夢の中で腹を鳴らしてしまった。
その音で目が覚める。料理が出来上がるくらいの間寝ていたのか。
ジノとハルはすでに目覚めている。
何かつまめるものをもらって食べながら話していたようだ。
「お、起きたな。夜まで寝るのかと思ったぜ」
「時間も丁度いいしルカたちも起こしちゃおうよ。おなかすいたよ」
ルカとミサはおれと同じように寝てしまったようだ。食事しながら話もするつもりだし起こすか。
おれは魔力循環のために繋がっている魔力の紐に断続的にパルスを流す「お、き、て。あ、さ、だ、よ」
魔力の出口側はミサだったのですぐに気付いて身を起こす。
「もう、アルってば。耳元でささやかれたらドキドキしますよ」
「へ?」
ルカが起きていないのでミサを経由してパルスを流そうともう一回送り込む。
「ひゃ!」
ミサはビクンとして耳を押さえる。
「アルぅ。エルフは耳が弱いんですからぁ」
不思議そうにきょろきょろする。目の前におれがいるのにおれをもう一人探しているようだ。
「え?」
「え?って、今耳元でささやきました? よね」
ミサもおれが目の前にいながら後ろに回り込めるわけないことをわかっているはずなのに寝ぼけているせいかおれが二人いるかのように言う。
「起こしただけだよ。ほら」
魔力にのせて「お、き、て」と送り込む。
「うわぁ。これすごいですよ」
急で驚いたのかミサがビクッとする。
「魔力に強弱付けただけなんだけどルカまでは届かないみたいだな」
ルカはまだ起きていない。パルスを強めようにもあいだのミサがびっくりするだろう。
強めて送るしぐさをしたらミサが体を固くしたのでやめておいた。
「ミサから送ってみたら?」
ミサが自分自身を抱くように腕を組んで身を固くしていたので「おれは何もしないよ」という風に手を上げる。
ミサは「へ?」と呆けておれとルカを交互に見る。
少し考えてルカに手を差し伸べると目を閉じた。だんだん近づいていきとうとう手と手を触れ合わせるとルカがもぞもぞと動き目を覚ましたようだ。
「うん? ミサ? なんで耳元でささやいていたの?」
ルカもミサと同じようなことを言う。
「そうよね。そうなるわよね」
ミサは納得したようにうんうんと頷く。
「魔力を送ったのよ。こんな風に」
「ひゃん。魔力なの?」
ルカもミサと同じように後ろを振り返ったりしている。
「食事しながら話そうか」
「そうだよ! 冷めちゃうよ」
今後のことも話したいので食事に誘うとすでにテーブルについているハルから返事があった。ハルの声に紛れてルカのお腹から、くーと音がして顔を赤くしていた。
テーブルに着いたおれたちは留守番だったエリに今の街の状況を聞いてみた。
「リザードマンに囲まれてるのはいつごろから? なんでこうなったか知ってる?」
ずっと前ならおれたちのせいではなくなるけど、複数の竜血持ちが確認されてるから最近だろうな。
「3日前に竜血持ちが1体確認されたらしいです。
討伐依頼はすでに出ているが倒せるなら倒して構わないということでした。
討伐依頼を受けなければ報酬が少ないので放置されてたようですが、みるみるうちにリザードマンが増えて、その上竜血持ちが複数確認されました。
それで昨日には新しい討伐依頼が出されたのですが、冒険者パーティが返り討ちにあってそこで竜血持ちが複数いることが確認されたようです」
5体もいるのが厄介なんだよな。
冒険者は役割を分けたうえで最大の力を発揮する。
冒険者の盾役が抑えきれない数が後衛を襲うとすぐに壊滅してしまう。
ただでさえ強い相手だ、2人掛りで押さえないと安定しないだろう、冒険者パーティーでは全然人数が足りない。
「複数パーティーで攻略することが提案されたようですが、見る見るうちにリザードマンの数が増えて攻略よりも防衛が重視されるようになりました。
わたしが知っているのはそこまでですね」とエリが報告を終えた。
「十分だよそこまでわかると助かる」
エリも戦えるから冒険者ギルドに寄ったりもするのだろう、最近の情報を集めてるのは1人でオーク狩りにも行けるし、ソロの冒険者としても行動できるからだ。
「あとアルに収納してもらいたいものがあるんです。食事が終わったら見てもらえますか?」
「いいよ。長いこと留守にして悪かったね」
留守の間に保存食としてハムや燻製を作ってもらうことにしていたが『収納』の魔法がなければ保存するにも場所が取られるし加工したとしても長い間保存することもできないだろう。
「いいえ、勉強になりました」
勉強? 時間がたくさん取れたってことかな?




