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屋台で焼き魚

 森を抜けてベファレンの街で翌月の道案内の仕事がないことを確認する。

 時間も早いので次の街を目指し、急ぐでもなく進んでいると日が傾くころには新しい街が見えてきた。


「おなかすいたー」

 ハルの言葉におれも空腹を意識しだした。


 街に入ると空腹感の正体に気付く。

「焼き魚だな」

 路地にぽつぽつとある屋台からは魚の焼ける香ばしいにおいが漂ってくる。

「安いんだね」

 ハルが気になるようにのぞき込んでいる。


「買ってみようか」

 屋台から焼き魚を買い食べてみる。

 久しぶりでうまい、ただ懐かしい感じがしないのは醤油を使っていないからだろうか。

 だがうまい、塩で十分。串刺しになっていることもあってキャンプで食べるような味だ。


「おいしいね」

「身が柔らかいわ、でも食べられる部分は少ないのね」

 骨と頭で半分近く残すことになるから1本では物足りない。安いのもそのせいだろうか。


「全部食えなくもないな。アタシは骨ごとの方が歯ごたえがあっていいな」

 ジノのように全部食べる人もいるようで屋台のごみ箱には頭と骨の残ったものときれいに食べられた串が混在していた。


 骨を揚げれば骨せんべいになってうまいだろうなとは思うが、油で揚げた料理はあまり見ないから屋台では食べられそうもないな。


 食べ終わった串を捨て宿に向かう、宿は初めて入る所だ。

 5、6人部屋があればいいが、なかったとしても今のおれは寝ただけで死にかけることはない。


 たまたま6人部屋があったのでそこに泊まる。

 今更部屋を分けようなんて言う気も起きない、死にかけることがなくなったと言ってもまだ少し怖い、みんなもおれを一人にしたくないと言っている。


 寝るときの魔力循環は以前よりスムースになっている。ジノからハルに流れるときに通路が狭くなるようなよどみも感じない。


 魔力の匂いも自分の匂いであるかのように均質化されている。

「魔力の独自性、属性? が薄れたら魔法が弱くなったりしないかな?」

 ミサに聞いた。


「いえいえ。なりませんよ。そうですね棒グラフで表現するとこうですね」

 そういってミサは紙にグラフを書く。


「今までがこう、7つの適性のうち一つがとびぬけてるとします。実際多いんですよ、魔法の覚えたては平均的でも、使い続けると得意分野ばかり使うことになりますから」

 魔法を育てるなら一点集中ってことだな。覚えるためにスクロールも買わないといけないから多属性を育てる人は少ないのか。


「アルが心配しているのはこういうことですよね」

 ミサは棒グラフの得意分野を減らして苦手分野をちょっとだけ増やして横並びに近づける。

 こうなると総量は同じでも得意分野の能力は大幅に落ちてしまう。


「実際はこうなります。いえ、わたくしたちについてはこうなりました」

 棒グラフはミサの手によって元の得意分野の高さにまで苦手分野を引き上げられる。


「これ、総量が増えてない?」

 質量保存の法則じゃないけど魔力の総量も何もないところから生み出せるはずないんだけど。


「そうですね。不思議ですね」

 ミサは微笑んで首をかしげる。


「不安じゃないの? 正体がわからないと」

 といってもおれの方もそれほど不安ではない。


「それは原因となるのがアルだからでしょうね。魔力の共有って本当は結構拒絶反応があるんですよ。それがアルの魔力はスッと入ってきて受け入れた時「ああ、これが運命なんだ」と思いました。ルカも同じように感じていたことを聞いていなければ勘違いしたかもしれませんね」

 ミサは「勘違いしていたかったですけどね」と付け加えた。


「えーと、不思議だけどみんなはそれでいいのかな? それまで通りに魔力循環を続けても」

 照れくさくなり他の人に話を振る。

「運命を感じたのはミサだけじゃないから。ミサも同じ気持ちだったときは「ミサには勝てないなぁ」と思ったけどそれでも一生一緒にいたいのがわたしの気持ちだよ」

 ルカにはもっとストレートに言われてしまった。うすうす気づいていたがおれはもてているのか?


「運命まではいかないな。アタシは魔力の感受性が弱いせいかな。でも弟みたいには思ってるぜ」

「ボクにとっても弟かな、出来がよくて体の弱い弟。少なくても自分から離れようとは思わないね」

 ジノとハルは程よい距離間で今まで通りに付き合っていけそうだ。

 ミサとルカも関係の変化を望んでいるわけでもないだろう。おれの勝手な予想だが。


「話がそれましたね。実際不安に思う必要はないんですよ。魔力なんて毎日、毎時補給されているものですから。わたくしたちが変わったのは器、魔力を留める器の大きさが変わったんです。

 魔力は全属性で均質化され留めて置ける総量も変わりました、でも苦手分野は苦手なまま。

 それは仕方ありませんね、経験が足りていないことが原因なので、使い続ければ得意属性になるはずですよ」

 器。つまり最大MPか、それ一番大事な奴じゃないか?

 ミサが言うには属性ごとにMPがあって使えば使うほど最大値が増えていく。

 わかる。


 別の属性で育てたMPでも他の属性の魔法に使うことができる。

 まあわかる。


 魔力循環を行うと苦手属性の最大MPが得意属性の最大MPまで引き上げられる。

 それはわかんねえな。


 7倍だよ7倍。1+1で100倍だとか精神的なものじゃなくて実際に7倍。実力が7倍とは言わないが魔法を打てる回数は7倍、数を撃たないのであれば同じ魔法に7倍の魔力を込めることもできる。


「思っていた以上に強化されていたんだな」

 実感したことはなかったが。そういわれてみると今まで魔力切れで苦労したことはあまりない。


「わたくしも気が付いたのは最近ですね。アルが眠っている間に自分の魔力の限界を試しているときにわかりました。初めは理由がわからなくて限界に達する前に切り上げてしまいましたけど」

 ミサは自分の肩を抱いて「怖かった」とつぶやいた。


 魔力の枯渇は命までは落とさないが、気絶の恐れがある不快感と虚脱感をもたらす。危険な場所で気絶もしくは戦力の低下が起これば命の危険はあるが、ミサが怖がったのはそういうことではないだろう。


 増えすぎた魔力がどれだけ使っても使いきれない。魔力はとっくに使い切って魔力以外の何かを削り取っているのではないかという不安だろう。


「それは怖いな」

「でしょー! コホン。ですよね」

「増えた魔力は常時発動するか突発的につぎ込むかなんだろうけど、魔法剣は魔力消費が少ないから無駄に余っちゃうな」


 テンションの上がったミサはスルーして実用的な使用方法を模索する。

 魔力消費を増やして威力を上げれば、耐久が減るという魔法剣の仕様はいろんなところで足を引っ張ってくる。

 武器防具の消耗が激しいのはもちろんだが自分自身にかけることもできない。

 

 自分の体なら消耗した分治せばいいじゃないかという考えもあるが消耗するということは常に痛みを抱えているということで戦闘時に集中力を欠くことこの上ない。もちろんおれ自身そんなのは嫌だ。


 それに体には回復限界量というのがあるらしく、短時間で瀕死からの回復を繰り返していると回復が出来なくなることがあるらしい。

 ゾンビアタック的な特攻は回数制限があるのだ。


「ああ、魔法剣は耐久力もコストとして使うからな」

 魔法剣に耐性のある武器を手に入れる前から魔法剣を使ってきたジノが言う。

 ジノはそのころは耐久が高く消耗しても攻撃力が落ちにくいハンマーを使っていた。


 おれはそのころ、なぜか耐久の減らない剣を使っていた。耐久力をコストとして使う考えがなかったから一方的に得しているものだと思っていた。


「便利だったんだよなぁ」

 便利以上に愛着もあった。初めからの相棒、前の世界からの名残。

 今更だけど少し泣きそうだ。

 泣いてはいないが沈んだ顔をしていたせいで背中からむにゅっと肩を抱かれた。


「アルの剣はアルの中に生きているんだから悲しまないで。わたしたちはアルが生きていてくれたことがうれしいの」

 慰めてくれたのはルカだった。おれも必要なことだとはわかっている。

 なくなったもののことはあきらめるしかない、今の手持ちで戦うしかないのだ。


 といっても悲観するほどではない、質で劣るならなら数で補えばいい。

 矢ならぶっ壊すつもりで大量に持ち運べるし、射程や命中の不安もある程度は解消できた。


 倒さなきゃいけない敵が強すぎるだけでおれたちは決して弱くない。強くなりすぎたことが歪なバランスを生んでしまったところはあるが、強さにこだわらなくても行商で稼いでも良くて、強すぎる敵からは逃げ続けてもいいのだ。


「情けないな。おれもみんなを支えられるようになりたいよ」

 形だけでもリーダーなんだから。

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