二度手間
「起きてから気づいたけど魔力循環しながら寝た方が回復早かったな」
朝起きて皆で魔力循環しながら話す。
以前はおれを含めた3人の魔力循環しかできなかったので、ジノとハルはおれと手を繋ぐ循環。
ミサとルカはおれの足と繋がることで全員が魔力循環していた。
おれがカプセルで眠っている間、お互いに魔力循環をしていたことで魔力の通りがよくなっていたので、今は車座で5人が輪になって手だけで魔力循環でいるようになっている。
ミサがチラチラおれの足を見ているが足を通して魔力循環をすることはもうないだろう。
この街での予定は道案内の依頼が来ているかの確認。
月末が近いので月をまたいで確認しておけば2か月間この街に立ち寄らなくて済む。
これからエルフの大里に竜血持ちのリザードマンがうろついていることを報告。
報告はこの街の冒険者ギルドにもしておく予定だ。
ただこの街の冒険者ギルドとはあまり交流がないので討伐を働きかけることまではしない。
報告が多数集まるか被害が出るまで討伐の依頼が出ることはないだろう。
「この街で時間を潰すより先に大里に行って、月末にもう一度この街に来よう。
そのあとは町伝いにアクセムまで帰る。2週間くらいかな。道が整備されているから楽できるよ」
道案内の依頼の確認が2か月おきになって本当に良かった。一か月のままなら行って帰ってくるだけでもギリギリだ。
冒険者ギルドに寄って道案内の依頼があるか確認し竜血持ちのリザードマンがいたことも報告しておく。5体もいたということで討伐依頼と注意喚起が行われるようだ。
ここの冒険者ギルドとはあまりかかわりがなかったので信用されるとは思っていなかったが道案内の依頼を受けてることでエルフの関係者だって事が影響したのだろう。
道案内の依頼もなければ月末に一度寄った後は、遅くても2か月後にはまた来ることを言づけて冒険者ギルドを出る。
「遠くまで来たんだし何か仕入れていかないの?」
ハルに言われて自分が商人でもあることを思い出す。体の治療のことやらで忘れていた。
「一度見て回ったけどその時は食料品ばかり見てたから割高に見えたけど他の物ならいいかもな」
自分の利点として食料品などを腐らせずに運ぶことが得意だったために他に目が向かなかった。
「エルフの依頼でもあったものね」
エルフの依頼が食料を集めるものだった。
・・・ただ利点を失うとなると。
「腐らないものなら他の商人も扱っているでしょうね」
そういうこと。
それでも利点を失うだけでちゃんと儲けは出る。
市場をうろうろしてみるとやはりエルフが食料を集めている大里の近くの街なので、食料品が全般的に高い。
食料が高い分他の物は安くなっていて武器、防具、工芸品など得といえば得なのだが安く買いたたかれるせいで腕のいい職人はほかの町に移ってしまったようだ。
質のいいものはそれほど見かけなかった。
「やっぱり食料をかき集めてここで売るのがいいのかな?」
「儲けは出るでしょうけど、この街まで来たのなら少し足を伸ばしてエルフの大里に納品した方が報酬が大きいわね」
そうだった。そもそもそのために来たんだった。
「報酬よかったね。ボクらがこの街で高い食料買い込んでエルフの大里に納品しても儲けが出るもんね」
さすがにわざわざやるほどではないがなにかのついでであれば小遣い稼ぎになるかもしれない。
「ただでさえ高いところで大量に買い込んだりしたらこの街の人の食料がなくなるからそれはやめておこう」
結局当たり障りのないものを買おうとしてやめた。食料品や消耗する生活必需品でもない限り需要が少なそうで、なかなか売れなそうだからだ。
「競合相手もいるし、そもそも品質が微妙だと運ぶよりその町で作られたものがあるだろうな」
「不真面目な商人だな」
ジノもあきれ顔だ
「アルの運搬能力で真面目に商人をやったら需給バランスが崩れるよ。食料品なら消費されて行くからまだいいけど」
「そうよね、この街なんかはすでに需給バランスが悪いから大量に持ち込んでも大丈夫でしょうけどほかの町でやりすぎると値崩れを起こして大量廃棄することもあるでしょうね」
以前にほかの町に卸したのはいいのか? 多少安くなるくらいか、そもそも自分たちで値段を決めて売るわけじゃないから肉屋が買い取りを拒否したらそれがバランスの限界ということなんだろうな。
「むずかしいな。他の商人はどうしてるんだろうな?」
「大商人なら自分の店とともに大きな倉庫を持っているでしょうから時間をかけて売ることもできるんでしょうね」
「中小の商人は市場でさばけない分は大商人に買いたたかれるのか」
目利きと商売勘が試されるわけだ。
あと運搬能力。
「おれたちは今まで通り食料品を中心にやればいいか」
つまりこの街に用はないと。
「他と差別化するなら腐るのが早いやつだね」
「ついでに仕入れが自分たちでできれば最高だな」
うん、つまり今までやってきたことが最高効率だったわけだ。
「商人じゃないんだよな。狩人?」
「狩人ギルドもあったかもね。でも商人ギルドの下部組織みたいなもので上前をはねられるだけみたいよ」
それはやだなあ。
「おれたちは加工肉も扱うから商人じゃないと都合が悪いかもな」
「魔物の素材とかね」
魔物の素材は冒険者ギルドから武器、防具職人と魔法薬の店か。
「冒険者ギルドも何でも扱ってるな、マージンは高いけど」
冒険で手に入るものは種類が多く、少ししか取れないこともよくある。
個別に店などに卸すより冒険者ギルドにまとめて引き取ってもらった方が手間と時間を使わずに済むので損というわけではない。
商人ギルドも多くの種類を扱っているが個別の量が少なければ引き取ってもらえなかったり手数料が余計にかかったりするので住み分けが出来ている。
「なんかいろいろ考えても今まで通りが最善だってことよくあるよね」
「今までいろんな人が考え抜いたうえでの結果だからね」
「まあだいたいはそうだけど、それでも考えることは無駄じゃないよ。その時の状況やその人の特性で今までの最善が変わってくるかもしれないんだから」
考える癖は無駄にならない。結果的に人がやってきたことの後追いになっても、どうしてこうなったかを理解しているとしてないとじゃ行動に対するモチベーションも変わってくるから。
仕入れがなければこの街に用はない、もう昼近くになってはいたがもう一日潰す気にもなれず、おれたちはエルフの大里へと向かった。
「案内するときは馬車を使うよね、森に入るときどうすんの?」
おれたちだけなら初めから自分の足で移動するが案内を求める人は大体馬車で移動するだろう。
「荷物もあるだろうし森に入ってからもそこそこ距離あるよね」
「今までどうしてたかな? ああ、前任者あいつか」
エルフエリートの人族差別者・・・名前は忘れた。
「トレノね。たしかに彼が気を使うとは思えないわね。付いてこれないならはぐれても知ったこっちゃないって案内だったわね」
「あいつのせいで案内の依頼が少ないんじゃないの?」
エルフが訪問客を迷惑に思っているならそれでいいかもしれないけど今は食料を求めて依頼まで出しているんだから駄目な対応だろう。
「あいつダメな奴だなー。エルフってもっと立派な人ばかりだと思っていたよ」
「立派?」
「立派というか欲が薄いというか・・・。おれの思い込みだったわけだけど」
ミサに咎められた気がして言葉を濁した。
「なんでわたくしの方を見て言うんですかぁ?」
「いや、人それぞれだなって」
「んん? まあいいですけど。ええと馬車ですよね、やはり引き返してもらうでしょうね。その後森の中での移動も多いので初めから健脚の人しか来ないはずですよ」
「健脚か、それなら初めから馬車を使わないことも多いだろうな」
おれたちみたいに。冒険者に依頼という形で荷物を運んで、もし偉い人との会談があるようならエルフ側が出向く形にしているのだろう。




