再生した体
混乱したまま食事を摂って寝室に案内される。
いつものようにみんなと魔力を循環させて横になるが自分の体が作り物のようだ。
実際作り物なので以前に比べてよそよそしく感じる。
馴染んでいたはずの魔力も滑らかに流せなくなってしまった。
「平気? アル?」
そんな不自然な流れの魔力に心配したルカが声をかけてくれる。
「おれが・・・おれの体と心がつぎはぎでルカは気になるか?」
ルカは首を振る。目を見て魔力を流されると疑う気持ちも溶かされて行く。
「ううん。 アルはアルよ目の前の人を信じれるかだけわたしの気持ちは変わらないわ」
魔力がドクンと脈打ちその言葉が本心だとわかる。
心がつながっていることがおれの心を支えてくれる。
同じ気持ちを返したいと目を見つめて魔力を送る。
「おれ、何ができるかわからないけど・・・何とかするよ」
何の答えにもなっていないがおれの気持ちを返す。おれ、何でもするよ。
他のみんなからも信頼を寄せる気持ちが魔力にのせて送られてくる。
俺はその魔力におれの気持ちを返しながら眠りに落ちた。
夢を見た。しばらく見ていなかった夢だ。
もしかしたらこちらの世界に来てから初めてからかもしれない。
夢の中でおれは半透明になった自分の体をのぞいている。
臓器と骨。血管に加えて魔力の流れが見える。
花の香草の香り、鉄と汗の香りが体内をめぐっている。
ところどころで肉から砂がこぼれるように細胞が剥がれ落ちていく。
そのまま廃棄物として腎臓にろ過されるところを魔力の流れが拾い集めて賦活している。
このぼろぼろ崩れていくのがだるさと痛みの原因なのか?
結構な勢いで崩れていってるけどこれ痛いじゃすまないぞ。死ぬぞ。
このせいでエルフの里で死にかけたのか。
死にかけた理由はこれか。じゃあ原因は何なんだ?
体が劣化コピーだからなのか? 血液に攻撃でもされているのか?
目覚めた後に夢で見た映像を思い返すが無力感しか感じない。
自分の体の何もかも思い通りにならないんだ。
朝食のため食堂に案内されると姫巫女が席についていた。
笑みを浮かべた顔はいたずらを成功させた子供のようだ。
「おはよう! 夢のことは覚えてるかな? 少々夢に干渉させてもらって現状の確認をしてもらったんだ」
にこやかに話す姫巫女。なんでもない笑顔で暗かった気分が少し明るくなった。
「ずいぶんボロボロだったんですけど治せるんですか? いや、崩れないようにできるんですか?」
「そこがねー。今やってる魔力循環? それが一番効果が高そうなんだよね。わざわざ呼びつけておいて申し訳ないんだけど」
「魔力循環を続けていればいいんですか?」
これからも続けてくれる? と問いかけてパーティーのみんなを見ると「もちろん」と言わんばかりに頷いてくれる。
少しほっとして姫巫女に向き直るが姫巫女の顔は暗い。
「今は問題ないのさ。話を聞くとこちらに転移してしばらくの間は魔力循環もなしでやってきたのだろう? つまり初期は症状が軽かったわけだ」
言われてみるとそうだ。
「そこから一晩で激痛が走るようになったわけだから症状が悪くなっているともいえる。この先これ以上症状が悪くなったら魔力の循環だけで押さえられるかわからないんだよ」
「あっ! ええぇ」
日が経つにつれて悪くなる?
「そ、それの治療は無理なんですか?」
「無理なんだよね。んー、今でなければ・・・」
姫巫女が言いよどむ。
おれはその時ほとんどあきらめていた。前世の記憶しかないためこちらの世界は延長戦かロスタイムのように感じていた。ゲームのような所も現実味をなくす一因だった。
ルカが一歩前に出る「もちろん」と頷いてくれた時は多少明るくなっていたが今はまた暗い顔になっている。
「姫巫女様。今でなければというのはどういうことでしょう?」
姫巫女は「ん?」とルカに顔を向け。
「今でなければ。ここでなければ。ぼくでなければ。それに加えて高リスク、高コスト、人道無視。・・・これはやるべきではないし、ここで話すべきでもないのだけれど・・・」
姫巫女は言いよどむ。
しかし先を促すおれたちの目に負けて続きを話した。
「人体実験だよ? 治療なんて呼べるものじゃない。日本出身のアルくんならわかるかな。ゲームで言うところの武器の合成、いやぶっちゃけ悪魔合体だね」
姫巫女は目を伏せる。
「本来はもうちょっと親和性の高いものでやるんだ。リザードマンに対して竜の血や竜の心臓を合成したりね」
「悪魔合体を人でやるんですか?」
再生能力の高いトロールと合成したりするのか? まさかパーティの誰かと合成する気じゃないだろうな。それは断るぞ。おれの問題にそこまで巻き込めるわけないじゃないか。
「いやいや、悪魔合体とは言ったけど自我のある者同士は合体出来ないよ。大昔の実験でそれは証明されている。人格が両方残るんだ」
二重人格どころじゃないな。二重は二重でも同時に意識のある個別人格なのか。
「凡例を言ってましたねリザードマンに竜の血とか」
なんかいたなそういうやつ。
「そうだね人で言う臓器移植の上書き版みたいなもんだ。血に関しては輸血かな。成功例としては丸々一個の死体を合成したこともあるらしいよ。ゴブリン同士だったかな?」
死体なら自我がないから可能ってことか。よっぽど親しかった相手じゃないと嫌だけどな。
「ものが相手と言っても有機物同士しかも種族が近いものの生体細胞だ。しかし君に多少再生能力が高い臓器を合成しても焼け石に水に思える」
姫巫女は一息ついて水を飲むと急に話題を変えてきた。
「ドラゴンっているだろう? あいつらはるか昔の実験から生まれた種族でね。ある爬虫類が無理やり無機物と合成されたのが発端らしい。・・・無機物というのがまたねフィギュアとかプラモデルとかのアニメ由来の造形物でね。愛玩被造物としてよく売れたんだよ。」
姫巫女が記憶を探るように昔の話をする。はるか昔の物語で代々の姫巫女が受け継いできた記憶なのかもしれない。
「完成品はもちろんとして元になる爬虫類、これは蛇とトカゲの中間を太らせたような姿で、ツチノコって呼ばれてたね。爬虫類と合成キットも大量生産で安く売られて末端ユーザーがそれぞれ大量に作ってたんだ」
姫巫女はペラペラのタブレットのような端末で映像を見せてくれる。
「エロとギャンブルは金になるというだろう? それ以上の最たるものは戦争かな。18禁のフィギュアが動いたりメカのプラモデルが動いてミニチュアの戦争ができるようになったもんだからとてつもない金額が動いたよ。
合成にランダム要素があったものだから厳選だのレアガチャだの言われて、同じ素材で何百個も作ったりしてね。無駄になったものも、えさを与えなければ休眠状態になるからすぐさま社会問題になることもなかったね」
姫巫女は首を振り「それがいけなかったんだけどねぇ」とつぶやいた。
「おっと、歴史の話は関係なかったね。きみに関係あるのは生物と無生物の合体、融合だ。きみの持つ装備品は君のイメージから生まれたきみの一部だ。耐久と再生能力は君に欠けているものを補ってくれるだろう」
「おれは装備と合体するんですか? 再生能力ということは不朽の鎧でしょうか?」
すでにミスリルのチェーンメイルと融合してんだよな。
「全部かな。不朽の鎧と不通の剣は君から生まれたから君に戻したい。竜血のマントはドラゴンの血がつなぎとして働くだろう」
つなぎってハンバーグかよ。ミンチにされる未来しか見えないんだが。
「復元力というのは力も強いし精度も高い。君から生まれたものは君に戻るとき、しかるべき場所に高い親和性で戻るだろう。分かたれた状態の君たちは不安定になっているんだ。体の不調はもちろんだけど鎧の再生力は暴走すれば装着した人間まで融合しかねない」
「安全なんですか? ってそれは保証できないんでしたね。さっきもガチャとか言ってたし」
「まあ、100%でないのは確かだが、最高レアとか言うような1%前後というわけでもないぞ。80から70%で成功するはずだ」
低くはないが2,30%で失敗するのか。
「先送りとかできないですか? ちょっと怖いんですけど」
「それはお勧めしないな。魔力循環を欠かさなければ何か月かあるいは一年近く生き延びるだろうが、その時は不安定さが増しているだろうから成功確率がどんどん下がっていってるはずだぞ」
うわわわ、無しだ無し。先送りは無し。
「やりますやります。70%あるうちに」
思っていたより余命が少なかった。
「うん、失敗の可能性はあるけどこれ以外で体を直す方法は僕にはないんだ。他に僕が知らない方法があるなら残った時間で探したいかもしれないけど、無理だと思うよ?」
それはわかる。エルフのトップというだけあって相当な事情通だろうし、特に悪意や思惑も感じないから親切で言ってくれてるんだろうということも。
「アル?」
ルカに呼び止められる。勝手に決めてしまったが、おれの命だからって一人で決めて良いことでもなかったな。そう思い振り返ると。
「使う?」
ルカとハルが自分の装備品を指さして首をかしげていた。
「いや。何でもかんでも載せればいいってもんじゃないから」
装備との融合ということで高性能品を使えばいいと思ったのだろう。
もしうまくいけば【突進】とか素の体でできるようになるのだろうか?
それより角とか生えてきそうで嫌なんだが。
「不通と不朽はおれが生み出したものらしいから元に戻すだけだよ」
融合自体に抵抗はないのかな、治療のように思っているんだろうか。
成功率70%の手術だとすればありと言えばありか。余命1年が直るなら決して悪い確率じゃない。
「お願いしますね。鎧なんですけど以前に不朽が再生したときに一緒に着ていたミスリルのチェーンメイルと融合したんですけどそのままで大丈夫ですか?」
姫巫女は顎に指を当てて「ふむぅ」とうなる。
「元のままが理想だったけど仕方ないよ、べりべり剥がすほうがよくないだろうしそれも含めての70%だから」
チェーンメイルが融合しなければもっと確率が高かったのか、今更仕方ないな。
おれは異種融合のためにそのための装置がある地下まで連れていかれることになった。
「お別れを言ったらいいよ」
そうだな、失敗するかもしれないものな。
みんなに向き直って泣かないように目頭に力を入れる。
「みんな今までありがとうな。パーティー組んでくれて助かったし楽しかった。失敗する気はしないから戻ってきたら今後ともよろしくって言うよ」
ジノに手を差し出されたので握手をすると肩をバンバンと叩かれた。
「アタシもアルが死にそうな気はしねえが、まっ、気合入れて頑張れよ」
ジノに続いてハルとも握手をする。
「ボクより年下なのにリーダーとかやってアルはすごいと思うよ。病気にだってきっと勝てるから元気になって戻って来てね」
ミサはおれの手を両手でとって胸にかき抱く。
「必ず戻ると信じています。それまではおなかに残るあなたの欠片を大事に慈しんでいきます」
? 魔力のことだよね?
ルカも両手で握って来たのでつられておれも両手で握り返す。
ミサの時は胸元まで行ってしまったから添えられなかった手だ。
「アル。アルのことわたし好きだったよ。でもこれまで通りでいたいから帰ってきたら今行ったことは忘れてね」
?? 告白? 今? しかも忘れないといけないの?
「あ、ありがとうね」
正直おれたちの間に隠し事なんてない。
魔力の循環をしているとそれぞれの気持ちも駄々洩れになっているときがある。
それでも口に出していってもらえたことは嬉しかったが、えーと、返事した方がいいの? 戻ってきたら忘れるんだよね?
「もういいかい。失敗したとしても最後にお別れを言うことくらいはできるからさ、成功を祈って待ってたらいいさ。大体半年くらいかな」
「えーっ!?」
半年? 聞いてないよ。なんとなくパパっとやって今日中に終わるものだと思ってたけど。




