予備の鎧
「いらっしゃい、ああ、お帰りなさい。ジノさんの鎧の修復は三日ぐらいかかりそうですね。代わりの鎧として同等のプレートメイルは準備に時間がかかるのでリングメイルを用意しました。いかがでしょうか?」
防具屋の店員に見せてもらったリングメイルはチェーンメイルと比べて金属の輪っかの大きさが大きく太いものが組み合わされていた。
チェーンメイルより防御力は高そう、だが目が粗いので細い剣の刺突や矢の攻撃には弱そうだ。
「ふうん、ちょっと軽いけどな予備だからこのくらいの方がいいか」
防具を受け取り武器も武器屋でメンテナンスの終わったものを受け取った。
家に帰ると明日からの予定を考える、鎧の修復を待ちながら休養していればそのうちネルザも来るだろうけど、暇つぶしに狩りに行っちゃうんだから休みだか何だかわからねえな。
「明日はおれもオーク狩りに行こうかな、竜毒持ちのリザードマンも依頼継続だけど、まあ、気にしなくていいか」
「見つからないものは仕方ないよ」
最近は見かけないらしいからおれたちの事はあきらめたのかもな。
「おれたちを探していたってのも似た人が襲われたってだけだから気のせいかもしれないよね」
「こっちの依頼は見つかったらってことだからペナルティもないし気楽なものよ」
ルカもそれほど気負わずに言う。単独でならそう怖い相手でもないしな。
「明日のオーク狩りはわたくしたちも行くから全員参加になるのかしら。フラウとエリはどうするのかしらね?」
エルフ同士で気になるのかミサが周りを見回す。今はフラウとエリはいない。
「今日エリが来たのは意外だったね。フラウとなにかつながりがあるのかな? 普通に強かったしフラウを護衛するような動きしてたよ」
とハル、たしかにエリが狩りに出ることあまりないな。
「ミサは何か知ってる?」
「聞いてはいないですけど物腰や装備を見るとフラウは有力者の娘なんでしょうね。それに見た目のままの若さだから心配になったのかもしれないわ」
ミサとは出身が違うからフラウのことはよくわかっていない。
「ダンジョンの権利を報酬にするくらいだからね。里の長の娘とかダンジョンを見つけたのがフラウ自身だったのかもしれないよ」
「それはびっくりしたな。後々返すことになるかもしれないからダンジョンのことでぬか喜びするのはやめておこうか」
今はフラウの独断で決めただけだから「やっぱり駄目です」と言われることもあり得る。
「アルが領主になる所だったね」
「アタシはちょっと見て見たいな、アルの領主」
「いいね。何をするか興味ある」
ハルとジノが大きなこと言ってるがうまくいったところでせいぜい村長ぐらいだろう。
開拓村の村長とか仕事がめちゃめちゃ多くて大変だろうな。
「そうなったら雇ってね。できればアルの近くで働きたいな」
「うん、そりゃもちろん。というか権利があるとしたら全員が持ってるんだけど」
ルカたちを雇うと言うより共有している感じだな。
「どのみち権利の代表者は必要だからそれはアルがして。返却するのも売却するのでもアルに任せるから。あとハーレム作るならわたくしも入れてくださいね」
「ミサぁ」
ミサのことはあきれ返ってるルカに任せておこう。
家に帰るとエリが夕食を作っていてフラウはすでにテーブルについていた。
「明日は全員で狩りに行くけどフラウとエリはどうする?」
「わたしは行く」
とフラウ。
「わたしは家にいますね」
フラウの返事を聞いてエリは遠慮した、いやどっちにしろかな。全員だと7人で森の中では人数が多すぎるのとフラウの護衛にはミサがいると思ったんだろう。
エリの戦闘も見たかったけどオーク相手だと今のままでも過剰戦力なんだよな。
おれたちが見つける前にハルが首を落として終わってるからあとは血抜きして『収納』するだけ。
なので翌日はそんな行動を繰り返すことになった。
「ふぇー。すごいね」
フラウが感心するように先行したハルが単独で倒したオークがそのあとを追うジノによって逆さに釣り上げられおれたちは程よく遅れて血抜きの進んだオークを魔法で『収納』していく。まるでピクニックのような気楽さだ。
ハルとは距離が離れているので他の方向から引き寄せられたオークの警戒は必要だが、近場で引き寄せられたオークはハルが察知して倒しているので危険の代わりにオークの肉が増えるだけだった。
昨日も見ただろうけど森でオーク相手だとハルは飛び抜けて強い。
「ハルは単独行動が強いんだよ。不意打ちから一撃だからオークの天敵と言ってもいいな」
危険なはずの森がまるで食肉倉庫のようだ。
「うん、ハルもすごいけどアルの『収納』も、それどんだけ入るの?」
「え? わかんない」
一度魔方陣に魔力を込めてしまうと継続的に魔力を吸われることもないので魔力の回復できるだけとなるのか?
「わたくしも理解できているわけではないのですが・・・アルの場合一つの収納魔法で一つ『収納』すると次の『収納』をするときは新しい収納魔法を作っているみたいですね」
頼りないおれの代わりにミサが説明する。
そういえばそうだった。同じ収納魔法を使っていると一つ取り出したときに同じ収納魔法全部から取り出されてしまい荷物が溢れかえるんだった。
今まで収納した血まみれのオークで部屋がミッチミチになるなんてソーセージになった気分だよ。
「そもそも普通の収納魔法を知らないんだよね」
「わたくしも詳しくないですがフラウはご存じなんですか?」
「えーと、聞いた話だけど収納鞄みたいな使い勝手で術者の技能によって口の大きさとか中身の容量が変わるらしいよ」
「収納鞄みたいのも使いやすいよね。わざわざシートを広げなくていいから」
今ルカが持っている収納鞄は口を開けば武器や食べ物が出し入れ出来て、開けた場所も人目につかないようにする必要もない。
「そうかな、オークが丸ごと運べる方がすごいけどな。ルカの鞄くらいの大きさなら便利だけど口が小さくて金貨や指輪くらいしか入らないのも多いっていうよ」
「ルカの鞄も希少品だったんだな。いいもの拾ったな」
「わたしのみたいに言うけどみんなのだからね! わたしが持ち歩いているだけ」
ルカが困ったように笑う。
「ライノプスの装備だっけ?
それもつけてるからルカが一番資産価値が高いね。アル、逃げられたら大損害だよ」
フラウに言われてルカがムスッとする。
「逃げません!」
「フラウはまだわからないかもしれないけどルカが持ち逃げなんかしないのはボクたちみんなわかってるよ」
「そうだな、もっと大事にしているものがあるものな」
ハルもジノもよくわかっている、それが仲間ってものだよな。
おれももちろん信用している、盲目的に信用するのではなく普段の素振りや話す内容もちゃんと見て聞いて悩みや不安を解消して上げられればそうそう裏切られることはない・・・はず。
「おれもだよ」
ミサは言うまでもないというように頷いている。万が一ルカが持ち逃げなんかするようならミサも一緒だろうな。
いやいや、ありえないありえないから。
「そーだね。アルの『収納』を見ちゃうとね。持ち逃げするならアルごとだろうね。あはは」
フラウの言葉に空気がピキッとする。
「え?なに? ちょっと! あり得るみたいな雰囲気やめてよ」
「それがあったか」
ジノが言うと軽々持ち去られるみたいだからやめてよ。
「ごめんごめん。でも秘密を守らなければいけないのはよくわかったよ」
フラウが手をバタバタさせて話を打ち切る。
午前の戦果はオーク9体そのうち7体はハルが先行して倒したもので、おれたちは吊るして『収納』するだけ。
ハル以外が倒したものは傷ややけどが多くて買い取り金額が落ちることが予想される。
それでも持ち帰れるのはでかい、昨日は同じくらい倒せたとしても持ち帰れるのは体全体なら一体。
それに加えて討伐確認部位の右足首が5,6体分というところだろう。
全体を持ち帰るのをあきらめれば討伐確認部位のみで20くらいは行けるかもしれないが、オークに関しては討伐確認部位よりも肉を持ち帰った方が実入りがいい。
収納の利点はそれだけではなく中のものが腐りにくくなる効果もある。
おかげで輸送に三日かけても獲りたてのような新鮮さを保っていて新鮮な物のみが買い取ってもらえるという内臓部分まで売ることができた。
「外でこんなにおいしいものが食べられるんだ」
平らな場所に広げられたシートには丸いローテーブルが『取り出し』されてその上には作りたての料理が並んでいる。
これも収納魔法の利点で取り出した時点で食事の準備が終わっているのだ。
シートの上に山積みにするより多く収納出来てテーブルの準備まで終わっているのでとても好評だ。
さすがに座るのは地面だが椅子までこだわる必要はないだろう。むしろ落ち着く。
休憩中は周りに魔力の糸を張り巡らせているので見張りも立てていない。
野営中も敵が近づけば最初に気付くのはぐっすり寝ているおれだ。
全員寝てるのは不用心なので見張りは立てるが、このあたりの魔物は夜行性ではないのでそうそう危険なことはない。
遅めの昼休憩を終えて少し困ってしまった。
午後もオークを狩り続けることはできるが9体も狩ってしまうと売却に手間がかかる。
近場ではすぐに買い取りの限界を超えてしまい大都市まで足を延ばすとその間にネルザがこの街にフラウを迎えに来てしまうかもしれない。
「ネルザが迎えに来るのはいつ頃になるのかな?」
「里に行って戻ってくるなら4,5日かかるね」
「ハルフェまでオークの肉を売りに行きたいけど行き違いにならないかな?」
「そうなの? そうか、『収納』したから実感ないけどこの量は一つの街では売れないよね」
「ギルドに言付けしておけば待っててくれるかな」
「いいよいいよ、私もこの街でエリと一緒に待ってるよ。ネルザが早めに来ても待っててもらうからさ」
フラウが待っててくれるならネルザが来ても問題ない。
「息抜きで休暇にするつもりだったけどあわただしくなっちゃったな。ハルフェまで行くけど付き合ってくれるか?」
「わたしたちお酒飲んで時間を潰すわけでもないし、怪我や疲労で休みたいわけでもないから気にしなくてもいいよ」
ルカの言うようにこの世界には時間を潰せる娯楽がない。
情報収集と称して酒場でおしゃべりするのが冒険者の休暇の使い方だ。
ハルフェに行くことになったので午後は5体ほど狩って切り上げる。
その日のうちにアクセムで2体売り払って翌日エリとフラウを残してハルフェへと旅立った。




