殲滅戦
再度攻め込むことになったが今回は油の用意はいらないだろう。蜘蛛も残り少ないしフラウにわざわざ収納魔法を見せることもない。
「フラウの魔法で全体を焼き払ってほしい。残ったボス蜘蛛はジノ。魔法に耐えた蜘蛛がいたら残りで対応する。フラウは範囲広めで小型の粒蜘蛛まで焼いてもらうと後々助かる。
手短に作戦を伝えて蜘蛛の部屋に戻る。
「フラウ、頼む」
部屋の外からフラウに魔法をかけてもらう。
「まかせて!」
『魔法炎晶』
部屋の床に蠢いていた子蜘蛛と疎らにいた親蜘蛛が炎に包まれる。
倒し切れなかった親蜘蛛がこちらに向かってくるがそれを迎え撃つようにジノが部屋の中に突入した。
「うおおおっ」
『魔法剣火槌』
ジノは武器がハルバードになってからも魔法剣を使うときは、斧の反対側についているハンマー部分を使っている。
魔法剣で消耗するのは武器の耐久、中でも刃部分の切れ味がひどく劣化するので斧部分と槍部分は温存しているみたいだ。
死にかけの親蜘蛛は鎧袖一触と言わんばかりに吹き飛ばされ息絶える。
おれも残った親蜘蛛の相手をするつもりだったがフラウとジノだけで終わってしまいそうだ。
部屋の中では親蜘蛛をあらかた倒したジノがボス蜘蛛と対峙している。
「これでもくらえ!」
『魔法剣火槌』
ジノのハルバードには斧の部分を覆うようにハンマーの形の炎が纏わりついている。
斧の耐久力まで使い尽くすつもりのジノの本気攻撃だ。
これにはボス蜘蛛もただでは済まないと見ていたら本当にただでは済まなくて、振り下ろしの一撃で頭を潰し、続けて振り回した横薙ぎで胴体も上下に真っ二つにしてしまった。
「ありゃー。私が装備を整える必要もなかったかもね」
フラウはジノに感心している。
「それどころかフラウの魔法までいらなかった恐れまであるぞ」
「ネルザ。それは言い過ぎだよ。私も親蜘蛛はそこそこ倒したじゃない」
あっけなすぎてぽかんとしたのはおれたちも一緒だ。
「思っていたより・・・だったな」
ハルバードを担いだジノが返ってくる。
「物足りねぇぜ」
とつぶやいていたがジノの本気度からすればそれは不完全燃焼にもなるだろう。
緊張が切れたのかネルザがガックリと肩を落とす。
「帰ろう、帰ろう。こんなしみったれたダンジョンはこもる価値もないよ」
ネルザからすればつぎ込んだ時間と手間、おれたちに礼をすることも考えると大損害だろう。
フラウと合流してからのネルザは口調が砕けてこれが普段の姿なのだと思わせる。
「売り物にはならないが蜘蛛たちの死体は持ち帰ろう。新しい蜘蛛の食料になってしまうよ」
おれはそういってボス蜘蛛の死体のそばに『収納』のシートを広げる。
「わかったわ、粒蜘蛛は集めきれないけど焼け残っている親蜘蛛と子蜘蛛は部屋の真ん中に集めましょう」
「箒があればよかったね」
箒が必要になるとは予想できなかった。帰ったら収納に入れておこう。
ルカが念のために奥の通路を『土壁』でふさいだ。
『突風』を制御して蜘蛛を集めようとしているが埃がすごくてあきらめたようだ。
ジノは目についた死体をつかんでは部屋の真ん中に放り投げている。
おれも同じように死体を集めシート一枚分を集めたので『収納』をする。
『魔法収納蜘蛛死体1』
シート上の山盛りになった蜘蛛の死体が厚みをなくしてペラペラのシートに収納される。
「えーっ! なにそれ? 魔法? 魔法なの? 収納して? それまた出せるの?」
フラウがうるさい。そういえばまだ見せてなかったか、口止めしないと。
「フラウ。このことはナイショにしてくれないか? ネルザとはその約束をした条件でフラウの救出をすることになっていたんだ」
「うーん。そうよね、ナイショにした方がいいよね。でも、うーん」
「頼むよ」
わざわざ見せることなかったか、交換条件がないから秘密を守ってくれる保証がないな。
どうしようか? 人里に出てこないエルフだから口止めするまでもないと言えるが。
手早く片付けて地上に向かう。
「アル達はこの先どうするの? お礼もしたいからわたしたちの里に来ない?」
フラウから招待を受けるがギルドへの報告とジノの装備の補修で一度町に帰りたいと伝えた。
「アクセムの街ね、それなら私たちも一緒に行くわ」
フラウは付いてくるという。
ここで別れたらまた会う機会もなさそうだし、お礼がもらえるなら貰っておきたい。
「おいフラウ。一度里に帰らないと無事なのに救助部隊が出されるぞ」
「えー、ならネルザだけ戻ってよ。今別れたらいつお礼できるかわからないじゃない」
「むぅ。フラウを一人にするのか・・。それなら私も後から追いかけるから街で待っていてくれ。すぐに報告してくる」
ネルザは乗り気じゃなさそうだ。フラウは目が離せないほど危なっかしいのかな?
「お願いね。居場所は冒険者ギルドに言付けておくから」
フラウはそういってネルザを送り出す。
ダンジョンの場所かわかるように地図に印をつけて、ダンジョンの入り口の周りにもわかりやすいようにしるしをつける。
「ネルザにも聞いたけどこの辺りに村が出来てこのダンジョンに入ることになるだろうけど問題ないよね?」
フラウにも一応聞いておくと。
「平気よ。里でもダンジョンの攻略はあまり熱心じゃなかったしわたしたちも今回で限界を感じたからね」
フラウは両手のひらを上に向けてやれやれと語る。
「戦力的にも限界な上にあのダンジョンって実入りが良くないのよ、敵は食料にも素材にもならないし採掘できる鉱物もなかったのよ」
「うえー、そうなんだ。そんなダンジョンじゃ近くに村を作っても発展するかわからないね」
ダンジョンを見つけたものは一生遊んで暮らせると言われている。
ダンジョンを独り占めしようとして誰にも知らせずに死んでしまう冒険者がいればそのダンジョンはまた埋もれてしまうのでギルドの管理するダンジョンからの取引利益の一部が発見者に支払われる。
人気のあるダンジョンなら遊んで暮らしても余るほど、人気がなくても細々と暮らせる程度には貰える。
このダンジョンは3階まで見た限りだと人気のない方だろう。
「そんなこと言うなよ、元々何もないところに作る予定の村なんだからダンジョンがあったなんてすごいことだぞ」
ジノが贅沢を言っているハルに注意する。
「そうよ、それにわたくしたちの目的はレベルアップでしょう。このダンジョンはいいわよ、とても」
ミサは評価しているようだがそこまで良いかな? まあ、まだ全部は見てないけど。
「未踏破だからな。まだ先もあるんだろ?」
「うん。報告が終わったらしばらくこのダンジョンに潜ろうよ」
ルカも割と評価してるんだな。
今後の予定を話しているとフラウも興味を持ってきた。
「あのダンジョンもぐるの? いいなー、わたしも先のことは気になってたの。よかったら拠点として私たちの里を使ってよ。アクセムの街よりは近いわよ」
「ありがたいな、その時はお願いするよ」
新しい村ができるまで時間がかかるだろうし。
「救助してくれたんだもん。お礼よお礼」
フラウは嬉しそうに言う。歓待好きなのだろうか。
「あっ、それならアクセムの街にはネルザに行ってもらってわたしたちが里に戻ればよかったね」
バッと振り向いて悔しそうにフラウが言った。
「ネルザがおれたちの依頼を報告してもわけがわからないだろ」
いい考えみたいに言うな。
アクセムの町までは朝に出発すればその日のうちに着くが、ダンジョンから出た時間が遅かったので途中で日が暮れてしまった。
「この辺りで野営しよう」
「いいわね、場所も開けているし街道の中継点としても使えそうね」
ダンジョンがあるんだからその近辺で村の予定地は決まりだろう。
「街道もできるんだな。馬車が通れるくらいかな」
「最初はそうね。新しい村が町の規模になれば馬車がすれ違う広さになるでしょうけどね」
「当初の予定だった、なにもない開拓村ならゆっくり道を作って道ができた後で村ができ始めるだろうけどダンジョンがあるからギルドも急ぐんじゃないかな」
「その可能性はあるわ。徒歩で荷物を運んで村の建築を進めながら両側から道を伸ばすのが一番早いわね。その場合アルの収納魔法が一層注目されることになるのだけれど・・・」
おれやっぱり国に飼われるの? 収納魔法すげえな。
「収納魔法でしょ、価値あるよね。習得のスクロールも出回らないから領地持ちの貴族でも一人抱えてるかどうかで国全体でも20はいないんじゃない?」
「フラウがそう言うんじゃエルフでも貴重なんだ。少ないと言っても何人かは居るんだからその人に習得のスクロールを作ってもらえないのかな?」
「アル・・・あのねぇ。覚えているからって習得のスクロールを作れるわけないじゃない。
今『収納』の魔法を使える人は発掘されたり代々受け継がれたりしたスクロールを使った人で、魔法その物を開発したり完全に理解したわけでもないの」
「あはは、君たちのリーダーさんはすごいけど、すごい抜けてるね」
フラウに笑われるしミサはやれやれと首を振っている。エルフ同士で意気投合してるなよ。
常識外れみたいに言われたけどスクロールの作成はおれならできるんじゃねえの?
「そうね、でもアルなら・・・」
おれの考えとミサのつぶやきが同じことを考えている気がして目を見合わせる。
「っ・・・」
つぶやきを続けようとしたミサがフラウの方を見て口をつぐむ。
おれに対しても小刻みに首を横に振って話を打ち切る様子を見せた。
ただ『収納』の魔法を使えることと『収納』の魔法のスクロールが作れることの重要性の違いに気付いておれも小さく頷く。
これお金になるんじゃないかとは思うが影響力が大きすぎて公表出来ない気もするな。




