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竜の毒

 ハルフェで宿をとった。

「ぬ、脱げない」

 初心者用の鎧”不朽”。

 損傷から時間がたっていたので魔力付与のダメージは直っている。

 新品同様になったのだが脱ぐに脱げない。


 ”不朽”の内側に着ていたミスリルのチェーンメイルと一体化しているみたいだ。

「くっついてるよ。これ剥がしたら両方ダメになりそうなぐらいくっついてるよ!」

 ハルがペロッと捲ってチェーンメイルを確認している。


「あらー、困りましたね。両方ダメにするくらいならそのまま使ったらいいんじゃないですか?」

 ミサに言われたようにダメにするぐらいならそのまま使う方がいいのだけれど、これずっとこの形で使うつもりじゃなかったのにな。


 なにしろ見た目が初心者用の鎧だから見た目が弱そう。

 いつかはこれを卒業するつもりだったのにおれの鎧はずっとこれかぁ?


 そのままハルフェで一泊すると納品もないのですぐにアクセムへと帰った。


「皆さん早かったですね」

 予定よりずいぶん早く戻ったのでエリが驚きつつも喜んでいる。

 おれたちも帰巣本能が付いたかのように家に帰りたがるな。

 冒険者ギルドはまだ開いていたが、終わりごろにバタバタしてしまうので話をするのは明日にした。


 翌日冒険者ギルドに向かう。

「メルエいるかな」

「忙しいだろうけど話を通さないとあとで怒るんじゃない」

 ハルが言うようにメルエは受付として人気があるのでいつも忙しいが、おれたちに対しては自分が担当だから必ず話を通すようにと言われている。

 

 メルエの前の列に並ぶとみんなも同じように並ぶ。

「みんなは待っててくれていいよ。ギルド長と話すことになったら呼ぶから」

「まあまあ」

「テーブルも埋まっているから並んでも一緒だよ」

 後ろを見るとギルド内のテーブルはほぼ埋まっている。

 朝のギルドは久しぶりだったので混んでいることを忘れていた。

 

 メルエがおれたちに気付いたのか立ち上がって手を振ってくる。

「メルエがこっち見てるわよ。あっ受付交代した」

 ルカがメルエを見て言った。

「メルエが引っ込んだらここに並んでもしょうがないな」

 他の人もそう思ったのかメルエの列の長い部分が他の空いている列に流れ始めた。

「用事があるのはギルド長だからいいんじゃない。メルエもボクたちが並んでいたのは気づいてるんだから」


 列はずんずん進んで受付まであと一人になった。

「メルエ以外の人だとどうやって頼んだらいいんだろうな。いきなりギルド長に会いたいとか言っても無理なんじゃないか?」

「話したいことだけ伝えて予定を取ってもらう感じかしら。特別なワイバーンのことで話が聞きたいとか言っておけばいいんじゃない」

「そこはメルエがいてもおんなじか」


 ルカと話していると順番が進みおれたちの番になる。

「あの、ギルド長にですね・・・」

「アルさんのパーティーですね、メルエから承っております。中に入って応接室の2番でお待ちください」


 ん? メルエが待ってるのか。何か約束したっけ?

「ええっと、ギルド長・・・いやわかりました」

 ギルド長に話を通してもらうのもメルエに頼めばいいか。


「みんな、応接室に行くよ」

 受付の人に礼を言ってギルドの奥の扉へと向かう。

 扉は関係者以外立ち入り禁止だが今はおれたちも許可をもらったので今は関係者だ。


 応接室に入るとメルエがいた。

「やっ、来たね。ギルド長もすぐ来るから」


「ギルド長に用事があるって何でわかったんですか?」

 急にきて会えるかなと思っていたが向こうからセッティングされていた。


「アルくん達も用事あったの? ちょうどよかったね今日はこっちの用事で話があったんだけどギルド長が来るならいっぺんに済ませられるね」

 そういってメルエはにこにこしている。


「どんなはなしですか?」

「それはサイラスが来てからまとめて話しましょ。んっ、来たみたいね」

 ノックがあってギルド長が入ってくる。そうだった、名前はサイラスさんだ。


「失礼、急に呼び出してすまないね。ギルドに来た用事があるだろうからそちらを先に済ませてもらうようにメルエに行ったんだが終わったかね?」

「ギルド長、アルくん達もギルド長に用事があるそうですよ」

「そうか。じゃあそちらから聞こうか」


 トントン拍子にギルド長までたどり着いた。あちらの用事も気になるけど聞くことだけ聞いてしまおう。

「おれ達ガーネに行ってワイバーンを狩ろうとしてたんですけど変なワイバーンがいて普通のワイバーンが追い払われていたんですよ。」


「ふんふん、ん? それはもしかして体に赤い線が入っていなかったかね」

 一発で当ててきた。さすが詳しい人。

「そうです。普通のワイバーンより強くて、何とか倒したんですけど」


「倒したのか!? 傷は受けなかったか? いや、今生きているのだから無傷で倒したのだな。大したものだな」

 なんか無傷でなかったら生きていないみたいなこと言われたけどそんなやばい奴だったのか。


「傷を受けると死ぬんですか?」

 メルエも驚いた顔でこちらを見ている。


「赤い線が入っているなら”竜毒”もちだ。竜種以外には致命的だな。竜種だとしても無事とは言えないがお前たちが見たように強くなるものがいる」


「毒、というとワイバーンの尻尾のトゲですか? 運よく接近の前に尻尾は無力化出来たんですが」

 ワイバーンの毒は尻尾のトゲに付着している。牙や爪はなくはないだろうが尻尾ほど強くはない。

「それは良かった。尻尾の毒は致命傷になるだろう、毒消しなど効かぬほどにな」

 

 ワイバーンを相手にするということでワイバーン用の毒消しは持って行ったが”竜毒”には使えなかったのか、思っていた以上に危なかった。


「尻尾ほどではないが牙で傷ついても毒に侵されるぞ。こちらは効き目が遅いが『解毒』の魔法では治らん。『解毒』の上位の魔法が必要になるな」

 ギルド長の言葉を聞いてミサを見ると頷いて親指を立てたのでミサは『解毒』の上位魔法は使えるみたいだ。


「赤い線が入っているのは全身に毒が回っているってことですよね。もちろん肉は食えませんよね?」

 ダメもとで聞いてみる。食用にならなければ肉は廃棄だな。

「それは無理だな。需要があるとしたら竜種のモンスターをテイムしているテイマーか、話にだけ聞いたことのある竜人という種族の者が欲しがるかもしれん。だが竜種だとしてもリスクがあるから命をかけてでも強さが欲しいという者しか欲しがらんだろうな」


 食えないし、売れないか。肉屋に納入しなくてよかった。

「皮を装備品に使おうと思っているのですがそちらは問題ないですよね?」

「ああ、質のいいものができるだろう。こちらで買い取りたいぐらいだ」

 よしよし、持って帰ってよかった。


「防具屋に行くなら私も付き合うわ。あなたたちが防具屋さんと知り合ったせいでギルドが仲介できなくてお姉さんさみしいわ」

 メルエもついてくるようだ。自称おれたち担当。


「おれたちの聞きたいことはこれで終わりです。ありがとうございます」

 ギルド長に礼を言って仲間たちを見回す。みんなも他の用事はなさそうだ。


「そうか、じゃあこっちの要件なんだが、まるっきり無関係というわけじゃないんだ」

 ギルド長が切り出す。

「というと?」


「最近この辺りで赤い線のはいった”竜毒”持ちのリザードマンが目撃されている。そのリザードマンは5人組のパーティーに襲い掛かり一度切り結んだ後に「チガウ」と言って立ち去ったそうだ」


 心当たりがある。おれたち狙われているのか?


「そのリザードマンは非常に素早く防御は固く魔法も受けつけなかったそうだ。その5人組は女性が多めのパーティーだったので君たちとも共通点がある。何か心当たりがないか、なかったとしても警戒するように忠告するつもりだった」


「心当たりがあります。ノースタン近くの湿地でそいつから逃げたことがありました」

 やたら早かった奴だな。

「そうか、君達でもかなわなかったか。つまり竜毒のワイバーンよりも強かったということになるのか?」

 強さを見極めるような鋭い目でギルド長が訊ねる。


「強さは、どうだろう。ワイバーンの方が力強くてリザードの方がすばしっこかったのでトータルで言えば同じくらいでしょうか。リザードマンの時は群れに襲われたので群れに追いつかれないように逃げたんですけど」

 湿地だったのも地の利が悪かったな。


「強さは同等か、つまり君たちなら倒せると?」

 どうだろうな? いけるかな。


「はい、おそらく」

「ならば君たちに討伐依頼を出そうかな。大きな被害はまだないが竜種の間に竜毒が広まるのも防ぎたい。メルエ、あとで彼らに依頼を出してくれ」

 ギルド長がメルエに促す。


「お任せください。一つ目はこれでおしまいですね」

 メルエがギルド長の指示を受け付ける。一つ目ということはまだあるのだろう。

 大丈夫だよな、どうせ狙われているならどこかでぶつかるだろうし、一応依頼の期間は長めにとってもらえばいいか。


「ああ、君たちにはもう一つ依頼がある」

 ギルド長がこちらに向き直る。

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