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料理は愛情

 家を借りた日から数日。どころか半月ほど。

 予定していた一週間を超えておれたちはアクセムの街に滞在していた。


 この家を買うと決めた日の翌日にこの家を管理している不動産屋に契約を一年に延ばしその一年後に家を購入することを伝えると前金を半額払うなら残りは分割でいいと伝えられた。

 半額なら手持ちで払えるのでその場で相談して買うことに決めた。

 おかげで余計な賃料を払う必要がなくなったので前倒しできてよかったのだろう。


 一週間で出るつもりだったから家具も何も用意するつもりはなかったけどミサの友達のエリを迎えることもあって買い物と改装に結構時間を使ってしまった。


 エリの料理はとてもおいしくてそのことも滞在を伸ばした原因になるだろう。

「人に出すことがないから普段は料理の彩りなんて考えないんだぁ」

 エリはそう言いながら見た目からしておいしそうな料理をふるまってくれる。

「見た目だけのつもりで入れた野菜が味に深みを加えて普段よりもおいしくなってるの」

 謙遜が過ぎるなと思っていたらいつもより彩りを加えてくれたらしい。

「おいしいですよ」

「料理は愛情よねぇ」

 

 女性陣はエリに料理を習い始めて特に熱心なミサとルカはめきめきと腕を上げている。

 ジノは肉を焼き、ハルはデザートを担当している。

 手持無沙汰なおれは料理で使った道具を洗うくらい、食後にも食器を洗うので専用の魔法が欲しいところだ。


 朝食のついでに昼食の弁当を作ってもらい、オークを狩りに出かける。

 料理の匂いを漂わせながら探索するとオークがつられて寄ってくるので、5,6匹まとめて倒して同時に血抜きをする。

 おびき出せるおかげで血抜きにかかっていた時間を短縮できたので、効率が上がり今では一日当たり20匹は討伐が出来ている。


「お肉おいてきちゃうのはもったいないわねー」

 20匹となると肉まで運ぶのは不自然なのでメルエに対しては肉はほとんど破棄していると伝えるとそんなことを言われた。


 メルエだけなら『収納』の魔法のことを教えても問題なさそうだけど、物が動く以上ギルド全体にばれそうなので今のところは隠している。

 そして『収納』の魔法だが中に入れたものが腐りにくいという便利機能が付いているおかげで新鮮なまま遠くの町までオークの肉を卸せるようになっている。


 アクセムの街だけではすぐに需要が埋まってしまうのだが足を延ばしてハルフェの町まで行けば領都だけあってかなりの量をさばくことができる。

 ハルフェまでは片道で1日かかるので途中のノースタンの街を素通りしてハルフェで夕方に半分納品、一泊して残りを朝に納品してアクセムに帰ってくる。


 ハルフェで何か仕入れてもいいけどアクセムは需要が少ないので何か珍しいものがない限り手ぶらで帰ることも多い。

 ノースタンなら日帰りできるけどこちらも需要が少なく近いこともあって、ここにオークの肉を納品している他の冒険者もいる。

 そのため邪魔にならないようにアクセムとノースタンでは納品を少量に控えている。


 2日分オークを狩ってそれを2日かけてハルフェに納品に行くのが最近の仕事のサイクルだ。4日働いては1日休み。休みは都会のハルフェでとってもいいが希望を聞くとみんなアクセムで休みたいという。もしくは休みはいらないともいわれる。

 確かに体力が付いたせいで4日くらい働いてもあまり疲れを感じない。6日働いて1日休みにするか、これでちょうど週休1日だ疲れるようならまた戻せばいいのだが疲れそうな気がしないので下手したら8日働いて1日休むことになるかもしれない。


「皆さんお疲れ様。留守の間にお肉の加工をしておきましたよ」

 エリは普段は魔法道具の店に勤めているがおれたちが留守の間に何かやっておくことはないかと聞かれたのでオークの肉の加工を頼んでいる。

 大物をさばくのも得意なようで2日家を空けて戻ると2匹おいていったオークが大量の加工肉に変わっている。

 

 エリは信用できるということなので収納魔法のことも話している。

 加工したことで消費期限が伸びるので『収納』してしまえば腐る心配はほぼしなくていい、今卸しているのは未加工の肉だけで加工したものはため込んでいる。

 いつかハルフェよりも遠くの街に行ったときに卸していけばいいだろう。


「オークも減って来たよね」

 ハルが言う。これまでは需要がなくなって困っていたのに需要ができたとたんに供給が細り始めた。

「家があるからずっとこの街にいたものな、ミノタウロスやワイバーンも合わせてまんべんなく狩ればいいけどなんかほかの町で宿をとるのがもったいない気がするよ」

 納品のためハルフェに一泊するのは仕方ないが、狩りのためにミノタウロスやワイバーンの近くで宿をとるとアクセムの街の家を空けてしまう。

 もったいないこともあるが身内だけで落ち着けることやエリの料理も魅力のためアクセムから離れられないのだ。


「ハルフェに家借りる? 収入が結構あるからそのくらい出せそうだけど」

「ハルフェに居つくとエリがいないんだよなー」

「あら、嬉しいことを言いますね、そんなに言ってくれるならハルフェに住んでもいいですよ。

 そちらで仕事してもいいですしお肉の加工に今までのように報酬をもらえるならそれを仕事にしてもいいですから」


 エリに加工してもらえれば肉の価値も上がるし保存期間もぐんと伸びる、今までは魔法道具店で働きながら加工してもらっていたが専念してもらえるならこちらも助かる。

「ハルフェに住みながらアントンやガーネで狩りをするのね。そうね、それもいいかもしれないわね」

 アントンはミノタウロスの迷宮。ガーネはワイバーンのいる草原が近くにある。

「エリに来てもらうのはうれしいな。けどこの家どうするの? 留守にしとく?」


 そうなんだよなー。ここに買ったのは失敗だったか、ここしばらく収入があったから分割にしてもらっていた家の代金の残りも払いきっているし、だれも住まないとなると放置した家は荒れるんだよな。


「それほど長い期間でもないから留守でもいいけど管理してくれる人がいると助かるわね」

「メルエとかどうだ? あいつなら気も使わないし」


 ジノがメルエを推薦する、同い年くらいだっけ。

「メルエならいいね、住んでもらったとしても部屋は足りてるものね」

 寝室は2つあり、一つはエリが使っているがもう一つは誰も使っていない。


 おれたちパーティの5人は起きているときも寝ているときもいつもリビングにいるが男女が同じ部屋に寝てるからと言って別にただれた生活をしているわけではない。


 魔力の循環。

 おれたちはお互いに魔力を送ったり貰ったりしながら体の魔力回路を鍛えて成長させている。前までは直接手をつないで循環をさせていたが今では目に見えない魔力の糸をそれぞれの手足につなげて行っている。


 魔力の糸は目に見えないうえに物にも干渉しないので体や家具に引っかかることもなく糸同士で絡まったりもしない。

 もともとは投げた武器を手元に引き寄せるために作った魔力の紐『紐付』という魔法だったのだが魔力の循環だけが目的ならもっと細くていいということで低燃費の糸バージョンを作った。

 寝るときはたいていつながっているし、部屋にいてあまり動かないときもおれから糸を受け取ってそれぞれ魔力の訓練をしている。


 決めたわけではないのだが手から循環するのがハルとジノ。手がふさがっている時足から循環するのがミサとルカとなっている。


 糸が使えることもあるのだが本来魔力の循環の共有はお互いの魔力の属性が違うと共有することができない。

 属性が同じでもできないことが多いようだ。


 属性が同じうえで信頼関係のある親子や兄弟、魔法の師弟などで細々と行われている。

 それなのになぜおれたちが共有できるかというと、どうやらおれの魔力は属性を持たない魔力だったようで、初めは属性がないことで魔法の得意分野がないと嘆いたりしたのだが、魔力の共有に関しては誰とでも、いや信頼関係のある相手ならばかなり多くの相手と共有できる特殊な魔力だった。


 そのうえおれと魔力を混ぜたことによってミサとルカの属性が違う者同士でも魔力の共有ができるようになっていた。

 これに関しては前例がないようで研究熱心なミサは日々魔力の循環に勤めている。


 寝るときなど全員で循環するときは最初にハルがおれと両手を合わせる。

 ハルはノビトという種族で野人と書くのかホビットが由来なのかわからないけど実年齢は16歳で見た目の年齢は種族の特性で12歳くらいだ。

 冒険者を始めようとしたころに不良冒険者に脅されて引きこもってたところを不良冒険者が引退したのでおれたちの仲間になった。

 初めのころは怯えていた反動でツンツンしていたが今では硬さも取れて自然体だ。


 合わせていた両手を放すと手と手の間には目に見えない糸がつながっている、糸の維持は魔力が流れていればノーコストだ。むしろ循環させることで体の魔力が増えているまである。


 ハルの次はジノがおれの左手からハルにつながっている糸を自分の左手につなげて右手をおれの左手に合わせる。

 ジノはドワーフの22歳。ドワーフにしては背が高く180センチくらいある。見た目は年齢通り。ドワーフは30前後で見た目の変化が止まるので初対面で30歳くらいのドワーフを見かけても30歳なのか100歳以上なのかの区別がつかないが、20代までは見た目通りだ。


 人間も鍛えているものは40前後で老化が止まる。これもレベルアップの影響だろう。

 そこからさらに他の人の手につなげるかというと、そうはならなくて属性の違う者同士の共有はおれの魔力を混ぜる必要があるのだが間に2人入ると、おれの魔力の割合が薄くなるようなので手だけで3人以上つなげることはない。


 それで足からつなげることになった。

 初めて足から魔力を流したときは循環させていない魔力が体の中で淀んでいたせいか、癖の強い濃い魔力が流れたのだが今ではそれほどの違いはないといつも足の担当をしたがるミサが言っていた。


 ミサとルカはおれを含めた3人での循環を繰り返した結果おれを含めない2人での循環をすることが可能になっている。

 今も2人で循環をしていたようで手をつないだままこちらに来ると開いた側の手でおれの足を取る。

 体勢的におれの前にひざまづくようになるのでいつになっても落ち着かない。


「ん、んぅん」

 ミサはおれの足とつなげるときにいつもつばを飲み込むような声を漏らすがまだ癖が強いのだろうか?

 自分で自分の魔力の癖の強さを確かめることもできないのでミサの言っているそれほどでもないというのがどれだけなのかはわからないがどうなんだろう。


 翌日、翌々日は減ったオークを根こそぎにする勢いで狩って3日目にハルフェに出発した。

 しばらくハルフェを拠点にしてもし家を買うのであれば呼ぶかもしれないとは言ったがエリも本気にはしていないだろう。

 ハルフェは冒険者が拠点にするような街ではないし家の値段も高い、収入からすれば手に入らないわけではないがやっぱり管理がなぁ。

 ハルフェをエリに任せてアクセムをメルエに見てもらってもまたほかの所に拠点が欲しくなるかもしれないし。

 まだ行ってないけど迷宮のある街にも拠点が欲しいって思っていたんだよな。


「ハルフェには拠点はいらないよね?」

 以前に盛り上がったので一応聞いてみる。

「そうよね、素材を売るときだけだからちょくちょく寄るけど滞在はしないわね」

 狩場が近くにないので冒険者向きではない。

「アクセムに家を買ったのも宿に5人以上が泊まれる部屋がなかったからだし部屋さえ一緒にできれば他は贅沢言わないわ」

 ハルフェの街では大きな宿屋があるので5人以上の部屋をとって全員が一緒に泊まれる。


「アクセムの家が居心地よすぎるものね。それは買ってよかったと思ってるわ」

 それだな。成功体験を繰り返したくて必要のないことなのに同じことを繰り返そうとしていたのかもな。

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